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欠落令嬢 10
しおりを挟む「貴方、名前は?」
『……カミル』
「歳は?」
『たぶん十三か十四』
「人間?」
『イエスかノーで答えるならノーだよ』
「……幽霊?」
名前に聞き覚えがあったので、思わずそう聞くと、カミルと名乗った少年は、フィーネの質問にふっと少し笑って、『さぁ?』といたずらっぽく笑った。
それをフィーネは、自信を揶揄っているということはノーととらえていいだろうと考えて、ありえる可能性をいくらか羅列した。
精霊、魔物。もしくは、それらのハーフだったり……。
この世界には、人と意思疎通ができる生き物が、人間以外に二種類存在している。精霊と魔物だ。しかし精霊の方は意思疎通がとれるのは調和師と対をなす精霊と人間の間を保つ役目をになっている精話師のみであり基本的には常人には会話は出来ない。
魔物の方は、基本的には知能を持たない、動物や人間がこの地にあふれる魔力によって転変したものだ。凶暴である可能性が高く、これらは、魔術師か精霊騎士によって狩られる。
そして、転変する可能性は、人間にも大いにあり、そうなった場合には精霊騎士によって処刑が行われる。
ありそうな可能性としては魔物の線が濃厚だが、魔物になった人間はもっと醜悪で、もっと恐ろしい化け物になるのだと言われているので、ありえない。
どれも、フィーネの常識に当てはまるものはなく、とりあえずは、人ではないということを断定はして、今度は彼の衣装へと視線を移した。
カミルは良家の子息らしい服装をしており、ベストのボタンをじっと見た。多くの場合、家紋がきざまれているのだがそれは見当たらない。それが、名のある家柄出身ではないからなのか、それとも彼が生まれた時から人間ではないからなのかは断定できない。
であれば次の質問は。
「ご両親はどんな仕事をされているの?」
フィーネにとってこれが最適解だった。彼が人間であったのならば、両親がいて、その彼らも普通に暮らしていたはずである。そうであるなら答えられる質問であり、両親という概念がないのならばそれはもう元から人間ではなかったと判断できる。
……なんて答えるか……。
気になってフィーネは、目を丸くするカミルのことをどんな反応も見逃さないという風に観察するように見つめた。
『……っ』
そんなフィーネにカミルは、ふっ、と吹き出し『っあはは!!』と元気よく笑った。
『ははっ、あははっ!! へ、変だよ君!!なに!!なんで僕の事ばっかり聞いてくるの!?』
「……あ、貴方、なんだか事情に詳しそうだったから、逃がしたくないと思って……」
『おっかしー、ふふっ、なんでよ? 僕、逃げないよ?? フィーネ』
「でも、急に現れたんだから、急にいなくなるかもって考えるのも当然だと思うのよ」
『……ふーん?こんな風に?』
そう言ったカミルは、フィーネのすぐ隣に座っていたはずなのに、ぱっとまるで初めから存在していなかったかのように消えてしまう。
「……」
……き、消えた?いや、ここに、確かに……。
そう思って、フィーネは彼が座っていた場所に手を当てて、人の体温が残っているはずだとシーツを触る。しかしただそこには、冷たいシルクがあるだけで、カミルの存在を感じられない。
「カミル……? お願い出てきて、もうあなたの事、聞いたりしないから」
それが気に障ったわけではなかったように思うが、それでも質問をしてすぐに消えてしまったとなると、そう思わずにはいられなかった。
声をかけても返事はない、まさかこのまま何の有益な情報も得られずにもう会えないのではないかと、フィーネは不安になって、彼を探そうとベットから降りる。
すると急に視界を奪われて、背後にとんと小さな体が触れた。
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