45 / 49
44 最後の計画 その二
しおりを挟む彼女から悪事についての情報を引き出す。それも一番、知られてはいけない事についての情報が必要だ。
「わかりました。……私はあの手紙が暗に示していたことを知っているからやってきたんです。ヴェロニカ様」
「……そうでしょうね、あなたを信頼していた馬鹿なわたくしは、あなたに多くの情報を与えていた。故意ではなかったけれどまさか裏切るだなんて思ってもいなかったから、注意も払っていなかった」
「はい。あの手紙で最後の方に暗に示していたこと、そして私が知っているヴェロニカ様の企みそれは……」
一度言葉を切ってから、フィオナはもう後戻りできない気持ちで口にした。
「反逆です」
「……」
「隣国メルドラスの王族の方々と連絡を取り合っていらっしゃいますね」
フィオナはその情報を人の記憶から消したことがある。
その時にその事実を知ったのだが、メルヴィンとの婚約をしていた時にはその事実に対する意味を見出していなかった。
しかし今は違う。それがどういうことなのか今ならわかるし、フィオナに手紙でほのめかしていたのは、革命が起きた時にフィオナがマーシアの側についていたら、事が起きた時に投獄の対象になるのだという意味だろうと思う。
だからこそ、その二点においてヴェロニカのやろうとしていることはわかる。
しかし、実際の計画をフィオナは知らないし、ただ連絡を取り合っていただけでは明確な罪に問うのは難しい。
それを暴くためにフィオナは今ここにいるのだ。
「…………」
フィオナの言葉にヴェロニカは静かに黙り込んで、鋭い視線でフィオナを見つめた。
フィオナが探ろうとしていることがばれているのかそうではないのか、彼女のことを見つめてもまったくわからない。
けれどもしばらくしてヴェロニカは重たい口を開いた。
「ええ、そうよ? ……だっておかしいでしょう。あんな醜女が王太后だなんて……そんなのわたくし許せませんわ」
たしかに王太后という立場はとても価値がある。
母子の関係性にもよるが国王や王妃が外交に大忙しだったり、必要な儀式にてんてこ舞いになっている間も、国の中で自由に自分の地盤を固めることができ、政治に関与し大きな利益を得ることも多い。
だからこそ繰り上がり式に王太后になれる王妃という立場を目指して、正妃の地位を望むものが多い一方、側妃だとしても王子を産んで次期国王の座を狙うことによって、王太后となることもできるのだ。
しかし、マーシアにはランドルがおり、聖者であるノアもいる。彼らがいる限りはメルヴィンに次期国王の座が回ってくることはないのだ。
そしてその順位をひっくり返すために他国の兵力を借りて王子たちを亡き者にしてしまう事。
それが一番手っ取り早い方法ではある。他国の勢力を迎え入れ、王族や国王を脅しメルヴィンが王位につく、そしてそれは、計画するだけで反逆罪という大罪になる。
計画の一端でも見つかればヴェロニカもメルヴィンも側妃と第二王子という立場を失うことになる。
しかし成功すれば、武力的に制圧されて捕らえられるのはマーシアたちだ。
だからこそ自分に協力しろと彼女は手紙を送ってきた。
そしてそれに乗る形で今フィオナはここにいる。
「たしかに、メルドラスの国力はすさまじいですし、反逆の見込みはあるかもしれません。しかし……本当にうまくいくんでしょうか」
「……」
「マーシア様たちもヴェロニカ様の現状の悪事を知っていますし、メルドラスが本当に協力をしてくれるか疑問なんです」
フィオナは出来る限りしおらしく、あくまで本当にヴェロニカの方について問題がないか確認するていで話をした。
ヴェロニカは相変わらず鋭くフィオナを見つめていて、煙草にマッチを使ってゆったりと火をつけた。
「わたくしの計画が失敗に終わるといいたいの? 無礼ね、フィオナ」
「いえ、そういうわけではなく……」
「では何が言いたいのよ」
ヴェロニカせかすような言葉に焦りつつもフィオナはキチンと間をおいて話を進める。
こちらにはマーシアの情報もあるのだ。この情報だって彼女は喉から手が出るほど欲しいはずだ。
……よし、そろそろ勇気を出して、言いましょう。
封筒を力を入れて握って、それからフィオナはソファーに座り直して、真剣に彼女を見つめた。
煙草の香りが強くて少し頭が痛い。煙によって部屋の中の空気が少し白くなっているように感じた。
「ただ、安心できるだけの材料が欲しいんです。例えばメルドラスの王族が協力してくれると確約してくれた証とか……そういうものを見せてはもらえませんか」
用意していた言葉を口にする。それさえあればヴェロニカのことをすぐにでも罪に問える。
彼女を失墜させることが可能だ。
……初めからそのためだけに来たんです。計画しているのだから何か保存してあるはずです。そのありかだけでもわかれば……。
フィオナが祈るような気持で、ヴェロニカを見つめていると、彼女は細く煙を吐いてそれからふっと笑った。
「いいわよ」
ヴェロニカの言葉を聞いてフィオナはすぐに表情を明るくした。じゃあさっそく見せてほしいと口にしようとした途端に雲行きが変わる。
「とでもいうと思って?」
「え」
「馬鹿ねぇ、フィオナ。本当にふっ、ふふふっ」
ヴェロニカはくすくすと笑ってとても嬉しそうに口角をあげる。それからパチンと指を鳴らした。
するとすぐさま部屋の中には、彼女の護衛の任務に就いている騎士たちが部屋の中になだれ込んできた。
それはフィオナが入った入口の方からではなく使用人が出入りするための場所からだった。
……!
五名ほどの騎士たちはフィオナに向かって剣を抜き、鋭い瞳を向けた。
応接室の中に緊張が走る。煙草の煙で煙たい中で騎士たちは真剣にフィオナの方を見据えている。
「ねぇ、フィオナ。あなたそれでわたくしを手玉に取ったつもりなんでしょうけれど、残念。あなたみたいな子供の考える浅知恵に気がつかない訳がないでしょ?」
「それは、どういう……」
「だから、メルヴィンにあそこまでの事をしたあなたをわたくしは許さないもの、それにあなただってあんなことをして平気で戻ってくるなんてありえない」
「!」
「もちろん信用させるために、マーシアたちの情報は持ってくるでしょう、けれど、それだけわたくしに忠誠を誓う気持ちははなからないのよ」
煙草を片手に持ったまま彼女は笑みを浮かべて立ち上がる。
彼女は騎士たちに守られながら、フィオナに向かってゆったりと歩いてやってきた。
それから指につけているフィオナと同じ合図用の魔法道具をフィオナに見せる。
「あなたが律儀に日時まで指定してくれたから、ちゃんと準備することができたわ。万が一に備えて今日この場所には何もない、わたくしの忠実なしもべが着々と準備を進めている。残念だったわね」
ヴェロニカは勝ち誇ったように笑みを浮かべて、ふうっとフィオナに煙草の煙を吹きかけた。
「っ、ごほっ、っわ、私はそんなつもりっ、ありませんでした、ただ、安心したいだけで……」
「あら、そう? だとしてもそもそもわたくしたち対等ではないでしょう? あなたはただのわたくしの道具なんだから」
「っ……」
「あがいてみてもいいのよ? お前はいつも反発してばかりの低能で聞き分けの悪い子供だったもの。今更呆れないわ。ただ今日の代償は大きくつくわよ」
言いつつもヴェロニカは一人の騎士を呼び寄せてフィオナに剣を向けさせる。
もちろんフィオナだって剣を持ち歩いているが本職の人間には敵わない。
「ああ、でも、メルヴィンの面倒を一生みられるように適度に痛めつける程度にしなければならないわね」
魔法も一人ぐらいならば相手にできるが、こうも人数がいて隙をつけないとなると勝ち目はない。
ヴェロニカは騎士たちに睨まれて萎縮しているフィオナの手から封筒を奪い取る。
そのまま片手を振り上げた。
57
お気に入りに追加
835
あなたにおすすめの小説
平民だからと婚約破棄された聖女は、実は公爵家の人間でした。復縁を迫られましたが、お断りします。
木山楽斗
恋愛
私の名前は、セレンティナ・ウォズエ。アルベニア王国の聖女である。
私は、伯爵家の三男であるドルバル・オルデニア様と婚約していた。しかし、ある時、平民だからという理由で、婚約破棄することになった。
それを特に気にすることもなく、私は聖女の仕事に戻っていた。元々、勝手に決められた婚約だったため、特に問題なかったのだ。
そんな時、公爵家の次男であるロクス・ヴァンデイン様が私を訪ねて来た。
そして私は、ロクス様から衝撃的なことを告げられる。なんでも、私は公爵家の人間の血を引いているらしいのだ。
という訳で、私は公爵家の人間になった。
そんな私に、ドルバル様が婚約破棄は間違いだったと言ってきた。私が公爵家の人間であるから復縁したいと思っているようだ。
しかし、今更そんなことを言われて復縁しようなどとは思えない。そんな勝手な論は、許されないのである。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。
【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。
紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。
「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」
最愛の娘が冤罪で処刑された。
時を巻き戻し、復讐を誓う家族。
娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。
記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
【完結】断罪されなかった悪役令嬢ですが、その後が大変です
紅月
恋愛
お祖母様が最強だったから我が家の感覚、ちょっとおかしいですが、私はごく普通の悪役令嬢です。
でも、婚約破棄を叫ぼうとしている元婚約者や攻略対象者がおかしい?と思っていたら……。
一体どうしたんでしょう?
18禁乙女ゲームのモブに転生したらの世界観で始めてみます。
公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。
木山楽斗
恋愛
弱小貴族で、平民同然の暮らしをしていたルリアは、両親の死によって、遠縁の公爵家であるフォリシス家に引き取られることになった。位の高い貴族に引き取られることになり、怯えるルリアだったが、フォリシス家の人々はとても良くしてくれ、そんな家族をルリアは深く愛し、尊敬するようになっていた。その中でも、義兄であるリクルド・フォリシスには、特別である。気高く強い彼に、ルリアは強い憧れを抱いていくようになっていたのだ。
時は流れ、ルリアは十六歳になっていた。彼女の暮らす国では、その年で魔法学校に通うようになっている。そこで、ルリアは、兄の学園に通いたいと願っていた。しかし、リクルドはそれを認めてくれないのだ。なんとか理由を聞き、納得したルリアだったが、そこで義妹のレティが口を挟んできた。
「お兄様は、お姉様を共学の学園に通わせたくないだけです!」
「ほう?」
これは、ルリアと義理の家族の物語。
※基本的に主人公の視点で進みますが、時々視点が変わります。視点が変わる話には、()で誰視点かを記しています。
※同じ話を別視点でしている場合があります。
不憫な妹が可哀想だからと婚約破棄されましたが、私のことは可哀想だと思われなかったのですか?
木山楽斗
恋愛
子爵令嬢であるイルリアは、婚約者から婚約破棄された。
彼は、イルリアの妹が婚約破棄されたことに対してひどく心を痛めており、そんな彼女を救いたいと言っているのだ。
混乱するイルリアだったが、婚約者は妹と仲良くしている。
そんな二人に押し切られて、イルリアは引き下がらざるを得なかった。
当然イルリアは、婚約者と妹に対して腹を立てていた。
そんな彼女に声をかけてきたのは、公爵令息であるマグナードだった。
彼の助力を得ながら、イルリアは婚約者と妹に対する抗議を始めるのだった。
※誤字脱字などの報告、本当にありがとうございます。いつも助かっています。
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
天使の行きつく場所を幸せになった彼女は知らない。
ぷり
恋愛
孤児院で育った茶髪茶瞳の『ミューラ』は11歳になる頃、両親が見つかった。
しかし、迎えにきた両親は、自分を見て喜ぶ様子もなく、連れて行かれた男爵家の屋敷には金髪碧眼の天使のような姉『エレナ』がいた。
エレナとミューラは赤子のときに産院で取り違えられたという。エレナは男爵家の血は一滴も入っていない赤の他人の子にも関わらず、両親に溺愛され、男爵家の跡目も彼女が継ぐという。
両親が見つかったその日から――ミューラの耐え忍ぶ日々が始まった。
■※※R15範囲内かとは思いますが、残酷な表現や腐った男女関係の表現が有りますので苦手な方はご注意下さい。※※■
※なろう小説で完結済です。
※IFルートは、33話からのルート分岐で、ほぼギャグとなっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる