上 下
27 / 49

27 予期せぬ言葉

しおりを挟む




 今日のお散歩の予定はなくなってしまったがその件についてルイーザは一切フィオナ様を責めたりしなかった。

 だって、彼女がルイーザの事を思いやってくれていることを知っているし、庭園に人がいてこちらをうかがっているような様子も見せていた。

 外に出ようと今まで考えていなかったから、気がつかなかっただけで元からいたかもしれない。

 そうだったら、いつか必ずそうなっていただろうと思うし、残念だけど気落ちしてしまっているフィオナ様の事が心配で今日は一緒に眠ることにした。

 決してお昼に見た騎士様が怖くて、こちらを見る視線が忘れられないからではない。

 あくまでフィオナ様が心配だからルイーザが一緒に眠ってあげるだけ。

 そういう風に言い訳をして、ルイーザはベッドに座ってフィオナ様の事を待っていた。

 彼女は昼の件があってからずっと深刻そうな顔をしたまま無言で悩んでいた、だから眠る時間になってもお風呂に入り忘れていたのだ。

 そういうわけで眠る前にお風呂に入ってこようと、いつもより遅い時間に浴室に向かっていった。

 フィオナ様が帰ってくるまでルイーザは暇なので、本を読んで待っていた。

 するとノックの音がして、驚いて体が縮みあがった。部屋に待機していた侍女が外に出ていき、少ししてから侍女はノア王子殿下を連れて部屋の中へと入ってきた。

「あれ、君はいるんだ」

 彼はベッドにいるルイーザを見て不思議そうに口にした。

 それを見てルイーザはすぐにベッドから飛び降りた。もう夜も遅い眠たくなってきていたルイーザだったが、突然の来訪にすっかり目が覚めてしまう。

 きっとフィオナ様に会いに来たけれど、彼女が今は部屋にいないので彼女を待つために部屋に入れてもらったとかそんなところだろうとあたりをつけつつ、前々から考えていたことを実行した。

「せ、先日はきちんとご挨拶できず申し訳ありませんでしたッ、私は、カルデコット子爵家のルイーザと申します、よろしくお願いします。ノア王子殿下」

 少し緊張してどもってしまったけれど、ルイーザは小さくお辞儀をして、達成感に包まれた。

 ……前回会った時は突然すぎて驚いてしまったけど、次あったら必ずちゃんと挨拶をするって心に決めてたの!

 それが予期せぬ形だったけれど達成できて良かった。

 フィオナ様を通じてだけどルイーザはノア王子殿下のお世話になっている。ちゃんと失礼がないようにしないとならない、ルイーザはそのぐらいはちゃんとできる良い子なのだ。
 
 そんな風に自分を褒めているとノア王子殿下は侍女に案内されてティーテーブルに座り、すこしだけ親しみやすいような笑みを浮かべた。

「そんなに固くならなくていいよ。私も突然現れて驚かれることはしょっちゅうだから気にしてないし、あ、そうだ。フィオナが来るまで暇だから君、話し相手になってくれる?」

 突然の提案にルイーザはやっぱり驚いてしまう。

 だってきっとフィオナ様を欲望のはけ口にするためにこんな時間にフィオナ様のお部屋に来たはずだ。だから寂しいし心配だけどルイーザは何も言わずに粗相をしないうちに自分のお部屋に帰るのが当たり前だと思っていた。

 しかし呼び止められたからには拒否することはできないし選択肢にない。

「……はい」

 けれども何と言ったらいいのかわからずに、ルイーザは彼と向かいの席に座った。

「……」

 落ちてきた桃色の髪を耳にかけて正面からノア王子殿下と向き合う、彼は不思議な雰囲気を持っているとても高貴な身分の方だ。

 フィオナ様とルイーザを助けてくれた良い人、でも怖い大人で欲望を持った男の人だ。

 敬うべきではあるけれど素直にフィオナ様に会いに来たことについて嬉しいとは思えないのは自然な事だろう。

 なんせ彼女は今日はとても思い悩んでいる様子だった。

 あまり負担をかけるのは可哀想だ。

 ルイーザがフィオナ様の今日の様子を伝えようかと考えていると、ふとノア王子殿下が先に口を開いた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

平民だからと婚約破棄された聖女は、実は公爵家の人間でした。復縁を迫られましたが、お断りします。

木山楽斗
恋愛
私の名前は、セレンティナ・ウォズエ。アルベニア王国の聖女である。 私は、伯爵家の三男であるドルバル・オルデニア様と婚約していた。しかし、ある時、平民だからという理由で、婚約破棄することになった。 それを特に気にすることもなく、私は聖女の仕事に戻っていた。元々、勝手に決められた婚約だったため、特に問題なかったのだ。 そんな時、公爵家の次男であるロクス・ヴァンデイン様が私を訪ねて来た。 そして私は、ロクス様から衝撃的なことを告げられる。なんでも、私は公爵家の人間の血を引いているらしいのだ。 という訳で、私は公爵家の人間になった。 そんな私に、ドルバル様が婚約破棄は間違いだったと言ってきた。私が公爵家の人間であるから復縁したいと思っているようだ。 しかし、今更そんなことを言われて復縁しようなどとは思えない。そんな勝手な論は、許されないのである。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。

【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。

紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。 「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」 最愛の娘が冤罪で処刑された。 時を巻き戻し、復讐を誓う家族。 娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。

【完結】断罪されなかった悪役令嬢ですが、その後が大変です

紅月
恋愛
お祖母様が最強だったから我が家の感覚、ちょっとおかしいですが、私はごく普通の悪役令嬢です。 でも、婚約破棄を叫ぼうとしている元婚約者や攻略対象者がおかしい?と思っていたら……。 一体どうしたんでしょう? 18禁乙女ゲームのモブに転生したらの世界観で始めてみます。

不憫な妹が可哀想だからと婚約破棄されましたが、私のことは可哀想だと思われなかったのですか?

木山楽斗
恋愛
子爵令嬢であるイルリアは、婚約者から婚約破棄された。 彼は、イルリアの妹が婚約破棄されたことに対してひどく心を痛めており、そんな彼女を救いたいと言っているのだ。 混乱するイルリアだったが、婚約者は妹と仲良くしている。 そんな二人に押し切られて、イルリアは引き下がらざるを得なかった。 当然イルリアは、婚約者と妹に対して腹を立てていた。 そんな彼女に声をかけてきたのは、公爵令息であるマグナードだった。 彼の助力を得ながら、イルリアは婚約者と妹に対する抗議を始めるのだった。 ※誤字脱字などの報告、本当にありがとうございます。いつも助かっています。

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

天使の行きつく場所を幸せになった彼女は知らない。

ぷり
恋愛
孤児院で育った茶髪茶瞳の『ミューラ』は11歳になる頃、両親が見つかった。 しかし、迎えにきた両親は、自分を見て喜ぶ様子もなく、連れて行かれた男爵家の屋敷には金髪碧眼の天使のような姉『エレナ』がいた。 エレナとミューラは赤子のときに産院で取り違えられたという。エレナは男爵家の血は一滴も入っていない赤の他人の子にも関わらず、両親に溺愛され、男爵家の跡目も彼女が継ぐという。 両親が見つかったその日から――ミューラの耐え忍ぶ日々が始まった。 ■※※R15範囲内かとは思いますが、残酷な表現や腐った男女関係の表現が有りますので苦手な方はご注意下さい。※※■ ※なろう小説で完結済です。 ※IFルートは、33話からのルート分岐で、ほぼギャグとなっております。

婚約者様にお子様ができてから、私は……

希猫 ゆうみ
恋愛
アスガルド王国の姫君のダンス教師である私には婚約者がいる。 王室騎士団に所属する伯爵令息ヴィクターだ。しかしある日、突然、ヴィクターは子持ちになった。 神官と女奴隷の間に生まれた〝罪の子〟である私が姫君の教師に抜擢されたのは奇跡であり、貴族に求婚されたのはあり得ない程の幸運だった。 だから、我儘は言えない…… 結婚し、養母となることを受け入れるべき…… 自分にそう言い聞かせた時、代わりに怒ってくれる人がいた。 姫君の語学教師である伯爵令嬢スカーレイだった。 「勝手です。この子の、女としての幸せはどうなるのです?」 〝罪の子〟の象徴である深紅の瞳。 〝罪の子〟を片時も忘れさせない〝ルビー〟という名前。 冷遇される私をスカーレイは〝スノウ〟と呼び、いつも庇護してくれた。 私は子持ちの婚約者と結婚し、ダンス教師スノウの人生を生きる。 スカーレイの傍で生きていく人生ならば〝スノウ〟は幸せだった。 併し、これが恐ろしい復讐劇の始まりだった。 そしてアスガルド王国を勝利へと導いた国軍から若き中尉ジェイドが送り込まれる。 ジェイドが〝スノウ〟と出会ったその時、全ての歯車が狂い始め───…… (※R15の残酷描写を含む回には話数の後に「※」を付けます。タグにも適用しました。苦手な方は自衛の程よろしくお願いいたします) (※『王女様、それは酷すぎませんか?』関連作ですが、時系列と国が異なる為それぞれ単品としてお読み頂けます)

パーティー中に婚約破棄された私ですが、実は国王陛下の娘だったようです〜理不尽に婚約破棄した伯爵令息に陛下の雷が落ちました〜

雪島 由
恋愛
生まれた時から家族も帰る場所もお金も何もかもがない環境で生まれたセラは幸運なことにメイドを務めていた伯爵家の息子と婚約を交わしていた。 だが、貴族が集まるパーティーで高らかに宣言されたのは婚約破棄。 平民ごときでは釣り合わないらしい。 笑い者にされ、生まれた環境を馬鹿にされたセラが言い返そうとした時。パーティー会場に聞こえた声は国王陛下のもの。 何故かその声からは怒りが溢れて出ていた。

処理中です...