成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸

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23 予想外の人物

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 フィオナとロージーが息抜きに少しだけ他愛のない話をしていると、ノックの音がして来客を知らせる。

 すぐに立ち上がってロージーは仕事に戻る。

 フィオナも相手を想像しつつ、待っていると、ロージーはものすごく焦った様子だったが淑やかに早歩きでフィオナの元に戻って来た。

「フィオナ様っ、メーベル王太子妃殿下がいらっしゃっております! いかがいたしましょう」

 早口でそう伝えつつもロージーは大急ぎでテーブルの上を片付けていく。綺麗になったテーブルを見つめながらフィオナは一瞬思考が停止した。

 ……メーベル様?……王太子妃殿下……。

 名前は知っているしお茶会の席でもあった事がある。

 しかしまったくのノーマークだった。フィオナの元に訪ねて来るにしてもマーシアかランドルのどちらかだろうと踏んでいたからだ。

 なんせ彼女は王女ではなく王太子妃、つまりはノアと血のつながりがないのだ。

 だからこそ彼を心配して動くようなこともないはずだと思ったし、嫁同士となると色々と関係もややこしい。

 せっかくランドルの事をリサーチしてそこから認めてもらうために動こうと思っていたのに、何の対策もなしに彼女に会って何か不快な思いをさせてしまったらフィオナの作戦もおじゃんだ。

 だからと言ってあちらが会いたがっている以上は、フィオナは拒否できるような立場にない。

 来てしまった以上は会うしかないだろう。

 待たせることすら不快に思われるかもしれない。

「通してください、想定外ですけどがんばるしかないと思うので」
「はい、承知いたしました」

 ロージーは出来る限り部屋の中を整えて、フィオナは急いでドレッサーに向かって鏡で何か変なところがないか確認した。

 それから入口に向かって、ロージーと一度目を合わせて頷いてから、ゆっくりと開かれる扉に向かってなんとか笑みを作る。

 急におしかけてきたとしても、フィオナから自己紹介をしてきちんと挨拶をしなければ、そう考えて入室してきたメーベルに視線を向ける。

 彼女はマーシア王妃殿下とは違うタイプの女性であり、おっとりと優し気でミルクティーのような髪色を持つとても愛らしい方だ。

 しかしただそれだけであれば王太子妃に選ばれることは無い、将来の王妃の立場を得るために必要なことなどフィオナにはわからないが、こざかしいごまかしや小手先の技術で騙せるような人ではない。

「ごきげんよう。フィオナ・アシュトン」

 鈴のような柔らかで優しい声、彼女は薄い笑みを浮かべていて、まったく隙がない。

 連れている従者も数が多い、その差だけでも明らかな身分差を見せつけられているような気持ちになる。

「メーベル様……わざわざ私の元までご足労頂き感謝いたします。こうして王宮に居を移した時点でメーベル様やマーシア様にご挨拶申し上げるべきだと考えていたのですが、勝手知ったる屋敷とは違い、王宮の作法にのっとって生活をすることに慣れるまでに時間がかかり、ご挨拶が遅れてしまっていました」
「……」
「大変申し訳ありません。ですがいらして頂いたからには、挨拶もせずにノアとの婚約を勧めた経緯や、私の置かれた状況について包み隠さずお伝えしたいと考えております。どうぞ、こちらに」

 とにかくフィオナはこれでもかというぐらい丁寧に、謝罪をした。

 申し訳ないと思っている気持ちが出来る限り伝わるように、肩を落として真剣に話した。

 そして立ち話を言うわけにはいかないので、ある程度のところで区切って部屋の中へと案内する。

 彼女のお付きの侍女がロージーに手土産を渡して、ロージーは丁寧に受け取った。

「良かったです。安心しました、この状況にもまったく後ろめたい気持ちもないような図太い人だったらどうしようかと考えていたんです」

 フィオナの謝罪は彼女のお眼鏡にかなったようで、緩く首を傾げて笑みを深め、メーベルはフィオナの部屋へと入ってくる。

 ……やっぱり多少なりとも不興は勝っていますか。

 メーベルの返答にフィオナは緊張で胃が痛くなるような気持ちを抱えつつティーテーブルに腰かけてお茶会の準備が始まる。

 しかし紅茶が出る前にメーベルはその笑みを深めてふふっと笑った。

「まぁ、しかし、そもそもあなたがわたくしに通すべき筋があるわけではない、あなたも何故わたくしがあなたの元を訪れたのか疑問でしょう?」
「い、いえ、そんなことは……」
「あなたの為にも言っておいてあげます。わたくしはお義母さまに言われてあなたの元へときたのです。ですからどうか今からする話の内容は慎重に選択をしてください」

 ……お義母さまというと……マーシア様……でしょうか。

 そういう事ならば多少は納得できる。

 彼女は多忙だろう。フィオナの事を知りたくても自分から動くことは難しい、かといってランドルを間に挟むのもフィオナにとってもマーシアにとっても異性になる。

 女同士の話し合いというのは、ニュアンス的な些細な違いで行き違いが起こったりするほど繊細で軽微なやり取りが存在する……らしいのだ。

 だからこその同性であるメーベルがやってきたという話ならば納得なのだが……。

 ……では結局、マーシア様から動かれるという結果になってしまったという事です。ランドル様の方から話を進める作戦はおじゃんですね……。

 それにマーシアの使いとしてやってきたのならば、メーベルに対しても絶対に失敗できない。

 いきなりマーシアが突撃してきてフィオナのことを糾弾するような流れにならなかっただけましだが、何にせよ、苦しい状況である。

 紅茶とお茶菓子が出てきてフィオナたちのお茶会の準備は整った。メーベルについている騎士はフィオナの事をとても警戒して睨むようにこちらを見ている。
 
 メーベルの侍女たちはフィオナの一挙手一投足に注目しており、それぞれが主と言葉を交わすのにふさわしい教養のある人物かを精査している様子だった。
 
 ……う、緊張して手が震えそうです。……こういう雰囲気も久しぶり……というか、私自身が注目の対象になるのは初めてです。




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