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結論 9
しおりを挟むそういう風にいつもと違うと流石に気になるし、それに、彼が悩むことといえば多分お兄さんの事で、そういう話ならきっと少しは助けになれると思う。
だから声をかけたのだが、レジスさまはまったく腑に落ちていないような顔をしたけれども、手を離して口元に手を当てて悩みを口にする。
「……今日はリヒトに食事を与える日なんだが、どうするべきかと考えていた。落ち込んではいない」
「そうですか、ど、どうするべきっていうのは?」
リヒトお兄さんの食事の件については、とてもデリケートな問題なのであまり深く聞かずに彼の言葉にだけ反応する。
それに、ルシアンだけでいいとか良くないとか、そういう話は当事者同士だけでしかしないようで、僕はたまたま聞いてしまったことが一度あるだけだった。
でもそういう日と決まっているのなら、きっと話はついているのだとは思うし、僕もレジスさまも手伝ってくれた方がルシアンの体もつらくならないしいいとは思う。
「……いうとリヒトが怒るかもしれないから、やめておく」
しかし、彼はそんな風にここまで話してはぐらかす。それにやっぱりもやっとして僕は少し勇気を出して言った。
「あ、当てます。酷い事するか、しないか、考えてるでしょ」
「……なぜわかる」
「だだだ、だって……だって、たまにレジスさま、朝からリヒトお兄さんの事、観察してる時あるじゃないですかっミミ、見てたらわかります」
「お前は現実だとよくどもるな」
「っ、わわ、ワウ、悪いですか」
「いや、言いたくなっただけだ」
指摘されてさらにうまく言えなくなる、そんな僕にリシャールがトントンと背中をなでて落ち着かせてくれる。
たしかに夢ではリラックスしていてあまりどもらないから、現実の僕が気になるんだろうけどそういう性分なのだから仕方ない。
それに今はそんなのは重要じゃない、うすうす感じていたレジスさまのお兄さんへ行動の方が問題だった。
「……それに考えていたのは、言いつけを守らなかったリヒトをどう罰してやろうかだ。リヒトは私の言う事を聞かないし、君にも何もするなの一点張りだ」
偉そうにそういうレジスさまを見て、どうしても悲しくなってしまう。
彼は、悪い人でもいい人でもないはずで、僕からすると、感情がとても少ない人なのに、お兄さんに対する気持ちだけはなんだか異質で、説明された以上のつながりを求めてるように思えてならない。
それも、その方向性がおかしくて、僕らが、普通にこうして接している分には、言う事を聞けだとか罰だとか言わないのに、本当に不思議だ。
「……ど、どんな言いつけを守らなかったんです」
「さあ、些細なこと過ぎて覚えていない」
僕らに対してはそんな風にしたりしないのに、お兄さんにだけはこんな風なのはやっぱり変で、それすらもわかってなさそうなところが、なんだか不憫で彼に切り返した。
「ねえ、レジスさま。今、レジスさまは人間です」
「……ああ。正しくは鬼族の眷属である人間だ」
「そ、そうですよね。じゃあ、罰を与えるなんておかしいですよ」
「……」
「子供が大人に叱る以外は、他人を私生活を罰していい人なんていませんよ」
僕の知ってる限りの事を言う。皆ちゃんと考えて、普通に生きてるんだ、話をすればわかりあえるし、人になりたいと僕らに言ってここにいるのはレジスさまだ。
でも僕の言葉を聞いて、彼はふっと鼻で笑う。
「理想論だ」
「ち、違います、事実です」
そういわれても別にいい。僕はそう思っているだけで、またレジスさまもそう思っているだけだから、でも選択肢があった方が良くて、彼がそうしてみようかと思うことがあるかもしれないからと口にする。
「そ、っそ、それに、手段が、違います」
「……手段か」
「そ、そうです。いう事聞くぐらい、自分を重要に思ってほしいって思うなら、先にそうしてあげたらいいじゃないですか、お兄さんってとっても義理堅い人ですよ。悩んでるならやってみて、ください」
きっとお兄さんは、こんなことを人に言わないと思うから口にしておく。
それに、言われてみなければ、思いつきもしない場合だってある。知っていても自分に置き換えて考えられない場合もある。
……だから気が向いたときにでも思い出してやってみてくれたら、どっちがいいのかきっとすぐにわかります。
そう考えてレジスさまを見つめた、彼は視線を逸らして「気には止めて置こう」とだけ口にして席を立って屋敷の中に入っていった。それを僕とリシャールは見送って、それから二人で顔を合わせた。
「……ナオくんてあの人にはいろいろ言うね」
それからリシャールは、少し彼が去って安心したように笑って言った。それが別に言いすぎだという嫌味ではない事はわかっているので、僕も気軽に返す。
「言っても、多分僕には怖い事しませんから」
「なんでそう思うの? 正直俺はまだちょっと怖いかな、表情もかわらないし」
「う、う~ん、そう聞かれると、難しいんですけど」
でも確実にそうだと思う。それは多分プライドだったり、僕の事をよくわからないから踏み込まないようにしようという気持ちだったりするのだと思う。
それを言い表す、例え話を探して、意味もなく僕の頭をよしよしと撫でるリシャールに言う。
「ワンコがわんわん言ってても飼い犬なら、殴ったりしないでしょ。そ、そういう感じです。僕多分レジスさまに、なんかそういう、リヒトお兄さんとは別の生き物だと思われてますよ」
「それって……どうなの。俺にはよくわかんないよ。やっぱり怖くない?」
「大丈夫です。僕らにあんまり興味ないですよ。レ、レジスさま。だってお兄さん相手見たいに、僕らがレジスさまの思い通りにならなくても何にも言わないし怒んないでしょ」
「まあ、それは確かに。でも正直今の話だってびっくりしたぐらいだよ」
「あ、そそそ、ソレは僕もですっ。罰とかなんか言ってましたね、お兄さんには今の話ナイショにしましょ、怒られます」
「そだね」
二人で今の会話をルシアンかリヒトお兄さんのどちらかに聞かれていないかと辺りを確認してナイショだと口の前で人差し指を立てた。それから、目を合わせて笑う。
「……で、でも、仲良くしてくれるといいですね」
「そうだね」
僕の結論にリシャールも同意して、それからまた、街に降りる予定を決めたり本を読んだりして休日の午後を過ごした。
こんな風な朗らかな日々が明日も来ることを疑わずに、異世界での日々は積み重なって流れていくのだった。
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