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生きるためには 6
しおりを挟むそこが俺とは違った。
俺だってそれなりに、環境には適応してきた、しかし、知ってしまえば誰のせいでもないなんて言えない、悲運を、理不尽な死を、受け入れるなんてことは俺にはできない。
「じゃあ君は俺はどうしたらいいと思ってる。そのまま死ねと?」
「言った通り、生きていてほしいと思っている。しかし、俺に変えられる環境はない」
「思考停止の脳無しの考え方だな」
その回答を予測はしていたが、少し腹が立って、詰るようなことを言う。嘘でも、俺の為になんでもする。そういってほしかったのかもしれない。
しかし、俺の言葉にルシアンは、片手を手綱から離してそしてどこを触ったらいいのか少し迷ってから俺の腹に手を回した。
「そう、怒らないでくれ。俺だってその環境の中で出来ることをして生きている。君にすべてを打ち明けることや、儀式の中断は出来ない。それをしては、自分がこうして自分でいられる環境を作ってくれた人たちに義理が立たない」
上から降ってくる声は、少し動揺しているようで、また彼を齧りたくなった。
「しかし、自分は自分にできることと命の使いどころは、分かっているし、決めている」
「そうなのかな」
彼が何を言いたいのかわからなくて、俺は適当に答えた。それにルシアンは「ああ」と同意して、強く俺の腹に回した腕を引き寄せて後ろから抱きしめるみたいにした。
「……リヒトに寂しい思いをさせない事だ」
言われて、俺に向いている感情をやはり不思議に思う。
自らの命を放り投げてやることがそんなことだなんて不思議で、しかし、その使いどころを自分に設定してくれているという所は、なんとも言えない感情がわいてきそうでならない。
俺の事をすべてを投げうって助けるというわけでも、自己犠牲をしてでも環境を変えようとするでもないその言葉は、ルシアンらしく真面目な答えで甘くて、美味しそうだった。
「やめてくれ、命が無くなったら何の意味もないだろう。第一、そんなもの優先順位も低いしね」
「知っている。自分の考え方が君とは違って、とても非情であることもわかっている。だからこそリヒトは、本当の意味でとても……」
言い淀んで、いうのをやめたのかと思ったがルシアンは続ける。
「とても、人間らしいと思う」
「嫌味かな」
「……違う」
「嘘だ」
否定を否定で返して、意味が分からないと思う。人間らしいというのなら、ルシアンの方がよっぽど人間らしいじゃないかと思う。
環境に適応しても適応できない人間のこと考えてやったり、命の使いどころが、寂しい思いをさせない事だなんて俺には理解できない。
しかし、ふと気がついた。
こいつは、きっと沢山持っているのに、祖父みたいな人間なんだ。
俺からすれば祖父は、救われるべき人間だった。しかし祖父は救われようとはしなかったし、考えていることはすべて俺の主観だ。
彼は俺に、奪われているなんて一言も言わなかった。奪われていたのではなく、ただ極限まで与え続けたのなら彼の判断だ。
「……」
「自分は、君が環境をも変えようとすることにも邪魔をしない、上手くいったらいいと思うぞ」
「協力はしなくせに都合がいいな、ルシアン」
「すまない」
結局ルシアンは俺に謝って、不毛な話はこれ以上やめることにした。それに、俺に寂しい思いをさせない云々はどうせ彼が生きたいから言っている戯言だと思い直す。
だって、あのときにそうして献身を示していなければ、俺は彼を殺していたのだから、結局、ルシアンは俺というどうしようもない環境に適応してそんな風に言っただけだ。
間違っていないと思う。彼が芯をもって確固たる自分があるように俺に接して、そのうえでの選択であるように見えるのだって、気のせいだ、きっと。
今はとにかく早く城へと向かって、サラに話を聞くしかない。この男がすべてを話して媚びたならそんな必要もないが、頑に話さないし、眷属の身で俺とともに死ぬのに、結局協力はしないので、仕方がない。
……なんとか、生贄を回避する方法をさかがないと、ナオのためにも、俺の為にも。
そう考え無言でルシアンの走らせる馬に体を預けて、城に向かうのだった。
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