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現実味 2

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 リヒトの方こそ、俺なんかよりもきっとずっとこの仕事が向いていたのではないかなんて思ってしまうほどに、迫真でそして妙になかしい。

 ……これでも、俺は、君に不義理を働いていないぞ。それに出来ることは出来るだけやろうと決めている、ただ、引き合いに出されているのが大きすぎるものなだけで。

「ルシアン、君の優しさが嘘だったとしても、それでも俺はうれしかった、頼む、詳細を教えてほしい」

 ……嘘ではない。嘘をつかなければならない場所以外は俺は一切嘘はついていない。そして、リヒトはそんな風に本音を話したりしない。

 それがわからないほど、俺の目が節穴で、リヒトに対してまるでどうでもいいかのように接していたのだと思われていることが虚しく思えて、彼を見上げた。

 俺が黙っていればリヒトは、露骨に舌打ちをしてそれから、その銀髪を靡かせて、すとんと座り込みらんらんと輝く瞳で、じっと俺を見る。それから、自分の腿の上に頬杖をついてパチンッと指を鳴らした。

 途端、ぶんっと風切り音が聞こえて、びりびりとした痛みが耳に走る。

「っぐ、っ、」

 どっと汗が出て、すぐに魔法で傷口を覆うために魔法を使うが、傷はあるが、あるはずのものがなく、歯の根が合わなくなる。

「……」
「はっ、っ~、……っ、」

 リヒトは心底、冷たい瞳でこちらを見ている。それを俺は目を見開いて荒く呼吸をしながら見返した。水の魔術では、なくなった部位は修復できない。つまりは、もう二度と耳やその機能が戻ることは無いだろう。

 変な耳鳴りの音がして、しかしリヒトは俺に近づいて、それから大きく口を開いて、傷口を覆っている魔法を舐めた。それから「じゃま」と短く口にする。

「っ、く……ッ」
「ルシアン、これ、じゃま」
「……はぁっ」

 再度言われて魔法をといた。するとじゅっと水音が響いて、体が震える。傷口をどうやら舐められているようで、ごくごくという音が響いて一応はまだ耳が聞こえるのだということは理解ができるが、酷い痛みに頭がぐらぐらとする。

「ん、っ、くふ、ンン、ふふっ」

 とても機嫌がいいようなリヒトの声が聞こえてくる。彼は俺の傷口を丹念になめとって、納得したように「うん」といい、その口に血が付いた人食いの化け物らしい要望で「もういいよ」と言いながら離れていく。

 その言葉に即座に魔術を使って、水で傷口を覆う。このまま食われるのかと思ったが、そうではないらしく、彼はそのまましゃがんで俺と視線を交わす。

「黙っていたら俺が殺せないと思ってるのかな。それとも予想外の事にまったく状況がつかめていないのかな?」

 そんな風に俺の事を探りながら唇についた血をなめとって、適当な笑顔を浮かべて、俺に言った。まったく違うのだが、リヒトは続ける。

「少しは現実味が出てきたかな。俺は君らの嘘を知っているし、最初からそのつもりなんだったら俺だって、そういう感じに合わせるさ。でも、ほら、ナオみたいな何も分からない子供もいるしな。あんまり殺伐としてたら可哀想だし、ここまで和やかなのは悪くはなかった」
「っ、はぁ、はっ、っ」
「でもごっこ遊びは終わりでいい。俺に人間が殺せないと思ってたら大間違いだ、ルシアン、な。もっと酷いことになる前に、話をしような」

 言いながらリヒトは退屈そうに俺を見つめている。

 ……リヒトが人を殺せないなんて思っていないし、ごっこ遊びだったとも思ってない、ただ俺がどこかでしくじった、それだけなんだろう。

 酷い痛みと、体の一部を欠損したという衝撃から、精神的にはくるものがあったが、それよりも目の前にいるリヒトの事の方がよほど重要であったため、今の自分が考えていることを言葉にした方がいいと思い、今まで閉ざしていた口を開いた。

「っ、はぁ、……、……りひと」
「なにかな」
「……、ふ、……」

 呼吸を整える。俺は、たしかに二人をだましていた。しかし、対等でなかったとは思ったことは無いし、どちらが上だとか、そういうことは考えていなかった。

「殺して、かまわない……ただ言えないんだ。なにも」
「なぜかな? それにそんな言葉で君を見逃せるわけない。今まで俺たちをだましてきたんだもっと、上手くやれるよな? どうしてそうしない」
「それほど、器用に見えるか。自分が」

 俺の言葉にリヒトは、少し考えて、それでもあまり納得がいかないような顔をした。

「覚悟はしていた。こうなった場合には自分はただ、君に殺されるとも理解していた。何も言えないのは、俺が裏切りたくないと思っているからだ」
「俺たちの事は裏切ってだまして殺そうとしていたのに?」
「……ああ、そうだ。だから、君との裏切りは命で贖う。食ってくれ、リヒト」

 自分がしくじった時にこうなる事はわかっていた。というか、そうなってもいいと思っていた。たしかに俺は、自分の役目をはたして義理を立てなければならない。しかし、目の前にいる人間を何の代償もなしに裏切って騙すことは出来ない。

 ……だから君が何か、情報を手に入れていることをまだ誰にも言っていない。対等でありたいと思った俺のエゴだが、そうでもしなければ、俺は俺を見失う。

「動いてよければ、自死しよう。仕留めたければそうしていい」
「……」

 覚悟を決めて接していたことを伝える。リヒトが今まで煽ったような言葉もまったくもって否定できるものではない。しかし、完璧に正しくはない。だから、これが俺の真実であり、そして、自分の思いだ。





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