上 下
303 / 305

この世界で生きていく……。8

しおりを挟む




 ……そういえば、仲のいい子は皆も進級したけれど、知り合いの中では進級しなかったのか出来なかったのか、分からない子がいた。

 それはシャーリーだ。団体戦が終わってからも、暫くは、ローレンスに恋慕を寄せているような素振りを見せていて、そして彼女はぱったりと学園に来なくなった。
 だから……シャーリーだけは進級できなかったんだよね。

 ……いなくなって安心、てやっぱり性格悪いけれど思ってしまう自分もいて、でも、彼女がどうなっていたとしても私に出来ることなどない。

 彼女は、いなくなったそれだけだ。

 そういえば、パーティの席にララも居なかった、ついでにコーディも。

 夜が更け、パーティは、閉会の挨拶をブレンダ先生がした。いつもは、簡潔なスピーチなのに今日は、一年間の思い出を語って、少し長い話を聞いてお開きとなった。

 そのまま、情報交換のために残る人、さっさと寮に帰って休みを満喫したい人、すぐにでも練習をしたい人と様々で、私はこの後予定があったので、寮への道のりを歩いていた。

 そうすると、街灯があっても暗い夜の道を金色の猫がトコトコと道を遮って、生垣の中へと消えていく。

 二人でパーティーを抜けてきたので、後ろを歩いているヴィンスと顔を見合わせて、そちらの方向へと足を進める。すると、寮へと向かう道からは低木で隠されていて見えない裏手側へと到着する。

 そこには、髪色が暗いせいで夜の景色と同化しているエリアルと猫の姿のままのクラリスが居た。

 クラリスはエリアルに抱かれていて、そしておもむろに彼女は少女の姿に戻る。

 そうすると、エリアルが謎に親子ぐらい年の差がありそうな少女を抱き上げている状態となり、クラリスがこれまた人形のように可愛いので、犯罪臭が漂うのだがいつもの事だ。

 ……けれどこんな、場所に二人で揃っているなんて珍しい。

「どうしたの? こんな場所に……なにか急ぎの用事?」

 私の前を遮ったのは、話をするからこちらへこいという合図で、たまたま見つけた訳では無いと思ったので、私に用事がある前提で話を聞く。

 そうするとクラリスは、エリアルに抱かれたままニコと微笑んで、口を開く。

「いいえ、ただ、友人に進級のお祝いを直接言いたかっただけですわ。クレア、ヴィンスにも」
「ありがとうございます、クラリス様」
 
 ヴィンスは、なんて事も無く、お礼で返すが私は、それだけのために二人がここまで来てくれたのだと思うと、少し逆に申し訳ないような気がしてしまう。

「ありがとう……エリアルもクラリスも今年もよろしく」
「はい、よろしくお願いします。……ローレンスとも、仲良くしてあげてくださいね」
「あら、良いのよ、エリアル。この子達には、この子達の距離感があるのだわ。わたくし達は、常に共に過ごす事が安寧への近道だけれど、みんながそうだとは限りませんことよ」

 エリアルの言葉にクラリスが反応する。エリアルがわざわざローレンスともと言ったのは、私達があまり傍から見えるような関係性では無いからだろう。

 ……だって、ローレンス、割と忙しいみたいだからね。

 それを邪魔して、お昼に会いたい気持ちも、まあまああると言えばあるのだが、その代わりのように彼は、夜に私の元へと訪れることが多くなっていた。

 だから、まあ、あまりローレンスと私は仲が良く見えないのだろう。団体戦前までは、排除すると意気込んでいたが、私が死なずに戻ってきたあの日、以降はすっかり彼の兄としての発言が多くなったような気がする。

「……そういうものですか? クラリス、僕は……長らく君に一方的な思いを向けていたので、今こうしてそばにいられることが一番幸せです、なので、距離のある関係では、寂しいと思ってしまうんです」

 ローレンスによく似たはちみつ色の声でエリアルは、恥ずかしげもなくクラリスにそんな事を言う。彼女はしばらく固まって、それから、瞬きひとつする間に、猫になって『みゃお』と鳴く。

 どうやら恥ずかしかったらしい。そんな彼女の心中をエリアルはまったく察せずに、ぎゅっと抱き締めて、おでこに口付けをする。

「愛していますよ、クラリス」
『にゃー』

 あたかも猫語しか話せないというような顔をしてクラリスは、それでもエリアルの胸板に頬擦りをする。

 ……いちゃついているなぁ。

 まあ、要件は済んだようだし、ここにいても二人の世界を邪魔するだけだろう。

「それじゃあ、私、このあと用事があるから」
『……クレア、次のお茶会の日取り、早く決める事ね、でないと桜が散ってしまうわ』
「あ、そうだった」
『また会いましょう、おやすみクレア、ヴィンス』

 彼女は猫に戻ったままそう言って、エリアルの手元から飛び降りて私が先程来た道をサクサク歩いて戻っていく。

 ……そういえば、お茶会のこと忘れてた。

 ララも次は誘おうということになって、確か話を進めている最中だったのだが、確かに、花見茶会なのに、お花が散ってしまっては元も子もない、急がなければ。

 そんな事を考えつつ、クラリスを見送って「行こうか」とヴィンスに声をかける。それからお茶会の予定日をいつにしようかと話し合いながら、寮へと戻った。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。 女神『はい、あなた、転生ね』 雪『へっ?』 これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。 雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』 無事に完結しました! 続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。 よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

転生侍女は完全無欠のばあやを目指す

ロゼーナ
恋愛
十歳のターニャは、前の「私」の記憶を思い出した。そして自分が乙女ゲーム『月と太陽のリリー』に登場する、ヒロインでも悪役令嬢でもなく、サポートキャラであることに気付く。侍女として生涯仕えることになるヒロインにも、ゲームでは悪役令嬢となってしまう少女にも、この世界では不幸になってほしくない。ゲームには存在しなかった大団円エンドを目指しつつ、自分の夢である「完全無欠のばあやになること」だって、絶対に叶えてみせる! *三十話前後で完結予定、最終話まで毎日二話ずつ更新します。 (本作は『小説家になろう』『カクヨム』にも投稿しています)

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍化決定
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!

春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前! さて、どうやって切り抜けようか? (全6話で完結) ※一般的なざまぁではありません ※他サイト様にも掲載中

さようなら婚約者。お幸せに

四季
恋愛
絶世の美女とも言われるエリアナ・フェン・クロロヴィレには、ラスクという婚約者がいるのだが……。 ※2021.2.9 執筆

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

処理中です...