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この世界で生きていく……。8
しおりを挟む……そういえば、仲のいい子は皆も進級したけれど、知り合いの中では進級しなかったのか出来なかったのか、分からない子がいた。
それはシャーリーだ。団体戦が終わってからも、暫くは、ローレンスに恋慕を寄せているような素振りを見せていて、そして彼女はぱったりと学園に来なくなった。
だから……シャーリーだけは進級できなかったんだよね。
……いなくなって安心、てやっぱり性格悪いけれど思ってしまう自分もいて、でも、彼女がどうなっていたとしても私に出来ることなどない。
彼女は、いなくなったそれだけだ。
そういえば、パーティの席にララも居なかった、ついでにコーディも。
夜が更け、パーティは、閉会の挨拶をブレンダ先生がした。いつもは、簡潔なスピーチなのに今日は、一年間の思い出を語って、少し長い話を聞いてお開きとなった。
そのまま、情報交換のために残る人、さっさと寮に帰って休みを満喫したい人、すぐにでも練習をしたい人と様々で、私はこの後予定があったので、寮への道のりを歩いていた。
そうすると、街灯があっても暗い夜の道を金色の猫がトコトコと道を遮って、生垣の中へと消えていく。
二人でパーティーを抜けてきたので、後ろを歩いているヴィンスと顔を見合わせて、そちらの方向へと足を進める。すると、寮へと向かう道からは低木で隠されていて見えない裏手側へと到着する。
そこには、髪色が暗いせいで夜の景色と同化しているエリアルと猫の姿のままのクラリスが居た。
クラリスはエリアルに抱かれていて、そしておもむろに彼女は少女の姿に戻る。
そうすると、エリアルが謎に親子ぐらい年の差がありそうな少女を抱き上げている状態となり、クラリスがこれまた人形のように可愛いので、犯罪臭が漂うのだがいつもの事だ。
……けれどこんな、場所に二人で揃っているなんて珍しい。
「どうしたの? こんな場所に……なにか急ぎの用事?」
私の前を遮ったのは、話をするからこちらへこいという合図で、たまたま見つけた訳では無いと思ったので、私に用事がある前提で話を聞く。
そうするとクラリスは、エリアルに抱かれたままニコと微笑んで、口を開く。
「いいえ、ただ、友人に進級のお祝いを直接言いたかっただけですわ。クレア、ヴィンスにも」
「ありがとうございます、クラリス様」
ヴィンスは、なんて事も無く、お礼で返すが私は、それだけのために二人がここまで来てくれたのだと思うと、少し逆に申し訳ないような気がしてしまう。
「ありがとう……エリアルもクラリスも今年もよろしく」
「はい、よろしくお願いします。……ローレンスとも、仲良くしてあげてくださいね」
「あら、良いのよ、エリアル。この子達には、この子達の距離感があるのだわ。わたくし達は、常に共に過ごす事が安寧への近道だけれど、みんながそうだとは限りませんことよ」
エリアルの言葉にクラリスが反応する。エリアルがわざわざローレンスともと言ったのは、私達があまり傍から見えるような関係性では無いからだろう。
……だって、ローレンス、割と忙しいみたいだからね。
それを邪魔して、お昼に会いたい気持ちも、まあまああると言えばあるのだが、その代わりのように彼は、夜に私の元へと訪れることが多くなっていた。
だから、まあ、あまりローレンスと私は仲が良く見えないのだろう。団体戦前までは、排除すると意気込んでいたが、私が死なずに戻ってきたあの日、以降はすっかり彼の兄としての発言が多くなったような気がする。
「……そういうものですか? クラリス、僕は……長らく君に一方的な思いを向けていたので、今こうしてそばにいられることが一番幸せです、なので、距離のある関係では、寂しいと思ってしまうんです」
ローレンスによく似たはちみつ色の声でエリアルは、恥ずかしげもなくクラリスにそんな事を言う。彼女はしばらく固まって、それから、瞬きひとつする間に、猫になって『みゃお』と鳴く。
どうやら恥ずかしかったらしい。そんな彼女の心中をエリアルはまったく察せずに、ぎゅっと抱き締めて、おでこに口付けをする。
「愛していますよ、クラリス」
『にゃー』
あたかも猫語しか話せないというような顔をしてクラリスは、それでもエリアルの胸板に頬擦りをする。
……いちゃついているなぁ。
まあ、要件は済んだようだし、ここにいても二人の世界を邪魔するだけだろう。
「それじゃあ、私、このあと用事があるから」
『……クレア、次のお茶会の日取り、早く決める事ね、でないと桜が散ってしまうわ』
「あ、そうだった」
『また会いましょう、おやすみクレア、ヴィンス』
彼女は猫に戻ったままそう言って、エリアルの手元から飛び降りて私が先程来た道をサクサク歩いて戻っていく。
……そういえば、お茶会のこと忘れてた。
ララも次は誘おうということになって、確か話を進めている最中だったのだが、確かに、花見茶会なのに、お花が散ってしまっては元も子もない、急がなければ。
そんな事を考えつつ、クラリスを見送って「行こうか」とヴィンスに声をかける。それからお茶会の予定日をいつにしようかと話し合いながら、寮へと戻った。
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