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この世界で生きていく……。7
しおりを挟むそれからグラスに口をつける。果実のジュースがスッキリと甘くて、急に遅刻だと聞いて、焦り潤す暇がなかった喉を潤してくれる。
「ちょっといいかな」
そう言われて振り向けば、きちっとした正装をしているのに、相変わらず髪はセットせずにポワポワさせているディックと、対照的にすべてをきちっとセットして、かっこよく決めている二人が並んでいた。
そして二人はデザインは少し違うが似たようなジャケットを着ている。チームでお揃いにしていると言うよりは、多分二人だけなのだろうなと何となく思う。
「ディック、オスカー! さっきぶり、二人とも決まってるね」
「だろ? な、ディック、クレアも褒めてくれたぞ?」
「うう、うるさいっ、僕はなんと言われようと恥ずかしいってば!」
「ははっ、そう怒るなよ」
ワタワタと暴れるディックをオスカーはニマニマしながら押さえ込んで、これが男女であればイラッとするほどのいちゃつきっぷりである。
私の背後で、適当に飲み物だけ楽しんでいるヴィンスとサディアスに少しだけ視線を送れば、二人は私の視線のその先に気がついて、仕方ないと苦笑した。
どうやら同じような、気分を味わってくれたらしい。
「ま、まあ、そんなことは良いとしてさ! クレア、君は開会の時に居なかっただろ、僕びっくりして思わず、エリアルに名簿を見せて貰っちゃったよ」
「あ、あ~そうなの。驚かせてごめんね、ちょっと準備に時間がかかってね」
「それはいいけどさ、これからは気をつけてよね、色々。プラチナバッチになると式典も増えてくるし、魔法使いになったら遅刻は厳禁だよ?」
「それは……頑張ります」
茶色の髪をふわふわさせながら言う彼の目線は、同じ学生ではなく、教師側の意見のようなきがしてきて、出来るだけ神妙な顔をしてみたが、どうにも私は、正式な式典に参加しにくい呪いでもかかっているように思えるほどなのだ、善処する他ないだろう。
「僕がフォローするにも限界があるんだから、来年からはちゃんと一般の生徒と同じようになるようにしてよね!……まあ、そういうわけで、こ、今年も、よろしく……」
言われて手が伸びて来て、改まって珍しいと思いつつ、ぎゅっと手を握った。
そうするとディックは俯いて固まってしまう。そしてそれを見たオスカーははぁと溜息をついて、彼の肩を、ぽんぽんと叩いた。
そうするとディックはやっと顔を少しあげて目元を隠すことなく、私とそれから私のチームメイトたちも見て、少し声をはる。
「み、皆も!……今年もよろしく、お、お願い、します」
それを聞いて思わず目を丸くしてしまう。ディックは割と決めた人間以外と、真っ当に話をすることが少ない。
それは彼自身がこの学園出身と言う生徒の中では異色の経歴ゆえか、それとも単に人見知りなのかは知らなかったけれど、ディックが望まない以上は誰も、無理に彼に声をかけることはなかったのだが。
「よろしく、お願いしますっ! ディック!」
「よろしくお願いします」
「よろしくな」
「こちらこそ、よろしくお願い致します」
彼から話しかけられたとなって皆それぞれが少し嬉しそうに答えた。
ディックは、一瞬そのグレイの瞳をキラキラさせて、嬉しそうにした後、すぐに前髪で目元を隠して「じゃあ、楽しんでね」と言ってパタパタと自らのチームの方へと戻っていき、オスカーはそれを適当に歩いて追いかけて戻って行った。
……頑張ってるなぁ、ディック。
私はなんだか朗らかな気持ちになって、その後ろ姿を見送った。すると、今度はぞろぞろと、チームごと移動してきた男が一人。
皆揃いのドレスと、ジャケットを羽織っており、シックな装いだった。
「彼はまるで健気な乙女のように可愛らしいねぇ」
きっと恥ずかしがりながら去っていったディックのことを言っているのだろう、いつもクリスティアンらしい発言に苦笑しつつも、私も返す。
「それは何となくわかるけど、ディックを揶揄うとオスカーが怒るよ、クリスティアン。皆も、衣装とっても素敵だね」
「そうでしょ? ありがとうクレア、良かったねミアやっぱりお揃いにして正解だったよ」
「ね、アイリ。皆が納得いくデザインを探すの大変だったけど、良かったね」
二人はそんなふうに喜んで、クリスティアンの後ろやそばにいる、二人のチームメイトもコクコク頷いてニコニコ嬉しそうに笑顔を見せた。
まったくこんなに性格が良さそうな子たちを全員はべらせて、男一女四でこれ程仲のいいチームを維持できているなんて、もはや奇跡にも誓いだろう。
……こういうハーレムって、実際にはいざこざとかないのだろうか。
そう思って一人一人をまじまじと見つめているとふと手を取られる。
「さて、今日は、お礼に来たんだよ、クレア」
「えっと……なんの?」
「分からないのかい? 私は悲しいよ、あれほど蜜月な時間を過ごしたというのになぁ……」
「……??」
妖艶に笑ってみせるクリスティアンは、彼女達がいる前で、手の甲にキスしてみせる。
手を引っ込めつつ、クリスティアンにお礼を言われるようなことをしただろうかと考えるが特に思い浮かばない。
すると私とクリスティアンの間に、サディアスが入って、ヴィンスがやんわりと私に距離を取らせる。
「……クリス、彼女も揶揄うと俺達が怒ること、わかってるだろ?」
「……」
サディアスは冷たい声でそういって、クリスティアンは、にっこり微笑んで返す。
「はぁ、そうだねぇ。君もナイトがすっかり板についたね」
「君も、すっかり周りを固めてもらって、まるで姫君だな」
クリスティアンは、朗らかだったがサディアスは皮肉で返す。クリスティアンの方が身分が上なのだが、彼は怒ることもなく「そうだね」と笑顔で、両サイドにいるチームメイトにキスをしたり腰を抱き寄せたりする。
「私は助けて貰うことが多すぎて、どれ程お礼を言っても足りないくらいだ、クレア君にも……君のおかげでこうして進級できた、改めて礼を言うよ」
最終的には、私に言いたいお礼という話題に戻ってきたらしく、その事かと思う。それはそれで当時色々と相談にも乗ってもらったりしたからチャラのつもりだったが律儀な人だ。
「いいよ、お礼なんて、今年も仲良くしてくれるだけで」
「クレア、あまりこいつに甘いことを言うな」
「ふふ、ごめんサディアス、でも、本当によろしくねクリスティアン、それから、皆も」
彼だけにではなく、隣で笑っている彼女たちにもそういうと、皆それぞれ笑顔を返してくれる。
それに、私だって今、彼氏が三人いるのだ、クリスティアンとは通じるものもある、また相談にも乗って欲しい。
「構わないよ。また、部屋に遊びにおいでねぇ、二人で甘い時を過ごそう」
「甘くはなくていいかな」
「ふふっ、ここ最近で君は動じなくなったねぇ、それじゃあまた、授業で会おう」
「うん、またね」
そんな挨拶を交わして、クリスティアンは去っていく、それから私達も同じクラスの子達に一回り挨拶をしたり、別クラスの親しいチームの子の所に行ったりと、忙しなく動き回った。
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