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この世界で生きていく……。6

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 制服ではなく、着慣れない華やかなドレスに身を包んで、パタパタと廊下を走る。つい先程まで進級式だったのだが、その後に、進級祝いのパーティがあるという話は聞いていなかった。

 いや、そもそも知ってはいたんだけどさ、任意参加じゃなくて全員参加だとは思っていなかったのだ。

「クレア、あまり急がれて、転んでしまっては大変です、どうかゆっくり歩いてください」
「そ、そう? でも、もう始まってるんでしょ?」
「ええ……ですがその、既に遅れていますので、今から、急いで到着するのとゆっくりと歩いて向かうのは、さほど変わりがありませんよ」

 ……確かにその通りだけど、あとから来た人が悠然と歩いて行くというのはどうだろうか。

「そうかな? なんか、生意気だと思われない?」
「そのような事はありません。それに、今日の進級パーティーは同じブロンズバッチ達の集まりです。今更、貴方様に喧嘩を売る人などいないはずです」
「…………まぁ、それも、そっか。せっかくヴィンスが髪セットしてくれたもんね」
「ええ」
 
 綺麗に結い上げてまとめられた髪に触れてみる。ローレンスから貰ったリボンを編み込んであって、いくつか宝石もくっついている。
 
 それに、今日のドレスは、ローレンスが私のリボンと同じ生地を使って誂えてくれたものだ。今自分が持っているものの中で一番気に入っている装いだ。

 ヴィンスとサディアスは王家の紋章が使われているから、どうだとか、こうだと言っていたが単純にドレスの贈り物なんてロマンティックだなと思うし、気に入ったので着ているのだ。

 ……それに、ローレンスも割と私に優しくなったし。

 それを見ていてわざわざ、喧嘩をふっかけると、どれ程の面倒事になるのかは、一目瞭然だ。

「しっかし、学園主催でパーティなんて太っ腹だよね」
「ええ、そうですね。平民の私たちからすれば、そのように感じますが、免除がない身分の高い方々の学費は、御屋敷ひとつ立てられるほどだそうですから、パーティのひとつやふたつは、きっと負担にはならないので無いでしょうか?」
「そうなの? 御屋敷ひとつって……大変だね。貴族の人は」
「……私達の入学には、もっと多大な金品が学園に支払われていると思いますよ」
「!……そっか、そういえば私達裏口入学だったね」

 となると、生徒一人から御屋敷ひとつ立てられるお金をとる学園に、裏口入学できるだけのお金は一体どれほどになるのだろうか。

 そして、それを平気な顔して支払っただろうローレンスはそのお金をどこから引っ張ってきたのだろうという闇の深い謎が思い浮かぶが、途中で考えるのを止めた。

「ローレンスには日頃から感謝しないとね」
「ええ、そうですね。……ローレンス様もお喜びになると思いますよ」

 そんな事を話していると、パーティの会場に到着する。そこは、校舎の普段は使われないホールだ。会場の案内看板に懇親会と記載されているが、もしかすると、明日にある入学式では懇親会の会場にされるのだろうか。

 新一年生……新ブロンズバッチとでも言い換えた方がいいのかな?  のためのにも使われるのかもしれない。

 今日が進級式とだけあって、この日までにプラチナバッチに昇格できなかった生徒は、落第という形で学園を去った。ただ、どのチームも、生徒も死力を尽くして団体戦後もバッチを取得するために頑張ったので、それほど人数は減っていないし、仲の良い人は皆、バッチを取得して進級式できている。

 ……でも、これからあと二回進級しなきゃいけないってのは結構きついかもね。

「入ろうか」
「はい」

 重たいホールの扉を開いて中へと入る。私は一年前の懇親会に参加出来なかったためにこの場所に入ったことはなかったのだが、中を見て、本当に校舎の中かと目を疑った。

 中は随分と凝った作りをしていて、大理石の柱が何本もあり、緻密な金細工の燭台がいくつも設置されている。

 立食形式のパーティで、何人もの生徒が正装に身を包んで、談笑や食事を楽しんでいる。

 いくらかソファも設置されていて、ゆっくり過ごす事も可能そうだ。

 急に入ってきた私を入口付近にいた人は、こちらを見て確認するがそれだけで興味を失ったように、また自らの話に花を咲かせる。

 私が遅れたりトラブル続きなのはいつもの事なのだ、同じ学年の人はもはやそれに何も言うことは無い。放っておくのが一番だと言わんばかりの対応であるが正直ありがたい。

 しかしこうして、時間に遅れてやってきても先生達が飛んでこないということは、それだけ緩い集まりで生徒達が楽しめるパーティなのだろう。

「皆どこにいるかな?」
「そうですね。クラスによってある程度分かれているようですから、あちらの方へ向かってはどうでしょう」
「そうだね」

 言われて、パーティホールの奥の方へと進んでいく。どうやらヴィンスの見立ては正しかったようで、見知った顔がある程度ひとまとまりになって、いるのが見えた。

 その中でもすぐに私に気がついて、そばによってきたのは、チェルシー、シンシア、サディアスの三人だ。少し厳しい視線をこちらに向けている。

「…………ごめん、待った?」

 私はついさっきまで休日だと思い、お昼寝をしていて遅れてしまったなんて言えずに、さも普通の顔をして、待ち合わせに少し遅れて来たような顔で、シンシアとチェルシーに言う。

 すると彼女たちは顔を見合わせて、それからチェルシーが腕を組んで言う。

「待った? ではありませんっ! せっかく、羽目を外せる晴れの日だと言うのに、私たちを放置する気かと思いましたよ!」
「ええ、さすがに、この進級パーティーで共に過ごせないのは寂しいですし、何より、来年の面子の顔合わせも兼ねているのですから、居ないと進級できなかったと思われても仕方がないんですよ?」
「う……本当にごめん。顔合わせ……そんな意味もあったんだね」

 納得しつつ、きちんと謝れば二人はまた視線を交わして、ふうと息をつく、それから「分かればいいんです」と笑って、私にグラスをひとつ取ってくれる。

 手渡されて、三人でカチンとグラスを合わせて小さく乾杯をした。

「ところで今日のドレスとてもお似合いですね、クレア! 今日のために、準備したのですか?」
  
 そうするとすぐにチェルシーが食い気味にドレスのことを聞いてくる、言われてみれば贈られたタイミングもここ最近だったのだ。もしかしたらローレンスはそのつもりだったのかもしれない。

「ううん。貰い物でね。私は何気なく貰ったんだけど、あっちはこの日用に贈ってくれたのかも」
「なるほど……お二人が、仲睦まじいようで、なんだか安心してしまいます」
「そうですね! 本当に! 色々ありましたからっ」

 二人は懐かしいといった感じに、目を細める、確かに団体戦の時は大変だった。準備も当日も、二人にはとても助けられたのだ。今でもその恩は到底忘れられるものではない。

「そうだねぇ、今年は平穏に過ごせるように頑張るよ」
「そうしてください、ただでさえ学園生活だけでも十分に忙しいのですから」
「そうです! それに、私達はもうすぐ先輩になるんですよ! ふふっ、この学園は縦の関係は少ないですが、ブロンズバッチ達の模範になれるよう頑張ります!」
「おおー、チェルシー目標高いなぁ」

 チェルシーは割と体育会系のノリが好きなのだ、先輩という立場に憧れを抱いていても不思議じゃない。がしかし、本当に縦の繋がりがこの学園は皆無なのだ、それがプラチナバッチになっただけで変わるかと言われたら疑問である。

 つまり、先輩らしい事とかあまりなさそうなのだが、わざわざ突っ込むまでもない。「頑張ってね」と言いつつ、きっとバイロン先生達がアタッカークラスの子をそう焚き付けたのだろうなと思う。

 今ごろ純粋なアタッカークラスの子達は、先輩かぜを吹かせたくて仕方がない子が沢山いるのだろうと予想を立てた。



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