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人を襲う計画……。4
しおりを挟む正直、コーディの事で時間は無い。むしろコーディを差し向けられるタイミングだとかそういう時に、彼が私の前に出てこないかなんて考えてもいるのだが、どれも不確定な要素ばかりだ。
「オスカーも、無理やりにでも二人になれば勝ちだから襲うのは正解だって言っていた」
「え。襲っちゃうの?」
「そうだけど? 君たちもそのつもりだったんだろ」
「……まぁ、うん」
「問題はいつ、どこでだ」
急に具体性のぐっと増した話をされて、私は脳みそがついていかない。そんなにフランクに襲うことを決定していいものだろうか。
でも、確かにそれ以外無いと、チームでも話していたし、私だって何度も作戦を考えてみたが、それらは全部ローレンスの情に訴えかけられるだけで、確実性なんてものは無い。
……それじゃダメなんだよね。私は、死ねない。
……やりたい事もあって、これから先、置いていけない人もいる。だから、やれることならやるしかない。
「君は気軽に接しているから、あまり気にしていないんだと思うけど、ローレンス殿下は、ごちゃついているからあまり呼ばれないだけで、王太子殿下だからね。アウガスの国王の次に、ガードが鉄壁だよ」
「……それは、うん、割と最近気づいた」
「だと思ったよ。まぁ、だからローレンス殿下に接触するために強襲するのは難易度が高い」
だいたい常に、護衛がいるし瞬時にかたをつけないと、助けを呼ばれると私たちでは、勝ち目がなくなってしまう。だから襲うのなら確実に援軍を呼ばれないようにやらなければならない。
「日常を過ごしている分には、絶対に隙が無いように緻密にローレンス殿下は守りを固められている。だから狙う側が考えるのはだいたい、イレギュラーが起こるイベントの時……だよね」
「あ、そうだね。確かに」
そういえば私を守ってくれるヴィンスも、同じようにイレギュラーをできるだけ減らそうとしていた。こちらは狙う側なのだから、そういう思考をしなければならないのかと納得する。
「もうすぐある大きなイベントと言えば、わかるでしょ」
「……もしかして団体戦の事? でもあれは、確か色々対策を取られてたよね?」
そもそも個人戦と違ってトーナメント形式ではなく、教師陣が決めた、チーム対チームの戦闘での評価によってバッチが与えられるかどうかが決められる方式だったはずだ。
それにチーム全員が戦いによって魔法を失ってしまえば、様々なリスクを負うことになる。
だから試合後はすぐに寮に戻ってしまえば、同学年以外の危険は排除できるが同学年の者への対策としては、その日に試合では無い子達は、校舎の方に待機というルールがあり、魔力の回復に務められるようになっている。
これは、模擬戦でもそうで、スケジュール上一日一クラスしか、模擬戦をする事が出来ない。そうすると他の二クラスのもの達が魔力を使い切っているクラスの生徒と何か問題を起こさないとも限らないのだ。
だから、模擬戦は午前中に急いで行われて、午後いっぱいは、別のクラスの生徒のいない寮で過ごす。
「そうだよ。だって試合が終わったチームを試合がなかったチームの子が殺害する話はよくあったから、学園側も随分慎重になってるんだ」
「そ、そうなんだ。物騒だね……まぁ、それだとわざわざその日を狙う意味ってなんなの? やっぱり護衛の子達が魔力が少ないから、ローレンスのチームと同じ日に試合じゃなければ私たちは襲いやすいってこと?」
「違うよ。それだと、他の試合がないチームの子にも、教師からも睨まれるから都合が悪い。それに、ローレンス殿下には特権があるから、君と試合の日が違う事がわかったら寮内に護衛を増やすと思うよ」
それでは更に襲いづらくなっているような気がする。ローレンスの事だ、システムにあぐらをかいたりせずに、増やせる護衛は増やすだろう。
納得して、じゃあ結局どうするんだ? と首を傾げると、ディックは、真剣に私を見つめていう。
「だから、逆に、君たちのチームはローレンス殿下と同じ日の試合日……いや、ローレンス殿下のチームの対戦相手に選ばれれば、殿下は、魔力のある君のチームから狙われる心配は無くなる」
「それは、そうだね」
「そして寮に共に戻っていても、問題無いでしょ?」
「……それも確かに……」
「寮には、魔法玉を登録している人しか入れないから、君のチームに戦闘能力さえ無ければ、ローレンス殿下は警戒をする必要が無い」
それもそうなのだが、そうなると私はどうやって、ローレンスたちが魔力を回復するまでに、ローレンスを襲うのかという疑問が残る。
「そしたら、君は、さすがに魔力が、試合直後で少なくなってる人には勝てるでしょ……」
「え? 私!?」
「当たり前だろ。そもそも君の戦いなんだし!……何より、君には君だけの魔法があるだろ。僕が手を貸す。僕のチームはその日に試合が無いようにするから、あとは君次第だと思うよ」
私だけの……魔法。か、なるほど、私の魔法は他人の足りない所を強化する側面がある。言葉の通りに受け取ればそのままなのだが、それは相手だけではなく、私にも言える事だ。
つまり試合が終わったら、ディックと魔法を使って、彼の魔力を使って、ローレンスの魔力が少ない護衛たちを倒せばいいと言うことか。
作戦の概要は納得ができたが、それらにはいくつか運要素があるように思う。
「私次第の前に、団体戦の対戦カードは、そんなに上手くいくかな? まだ発表されてないけど、ローレンスと当たらない可能性もあるし……」
「そんな可能性はない。……君はさ、僕がどうしてこの話を渋ったのかいまだにわかってないだろ」
「う、うん」
ディックの呆れたような言葉に、私は何か聞き逃してしまっただろうかと心配になって、彼を見る。ディックは、はぁとため息をついて、仏頂面で言う。
「僕、学園長の息子だから、対戦相手ぐらい自由にできるんだよ……ていうかよく今まで気が付かなかったよね、似てるだろ? 髪とか目とか」
言われて、彼の目も髪も見てみるが、そもそも私は学園長にあった事がなかったというか、見たことも無い。
大きな式典に参加できない病にかかっているせいだと思うが、今までまったく学園長の顔を見たことがなかった。
「……」
「なんか言えよ!」
「……いや、確かに、たまにどの目線なんだろうってこと言ってるとは思ってたよ?」
「偉そうだって言いたいんだろ!! でも、本当に偉いんだぞ!! 僕! 跡継ぎだし!」
「偉そうっていうか…………経営者目線? ぽい発言があったというか……」
ただ思い返してみても相変わらずのそのダボっとした制服に、野暮ったいクルクルの髪、学園長の息子だと言われても実感がわかなかった。
ただ、それなら試合相手を変えるくらいなら何とか出来そうだ。普通はやっちゃいけないとかそういうことは気にせず、ディックがやってくれるというのなら、出来る範囲内だと考えた方がいいだろう。
「ディックは、学園側から見ていつも考えたんだね」
「そんなの当たり前だろ! だって僕ここ以外知らないし」
「……確かにそうだよね。ていうかディックがあとを継ぐんだ。将来は学園長ってこと?」
「……そうだよ、ただ学園長って言っても、まとめ役ってだけで、この場所には色んな考えの人が集まるから、ただ純粋にここで育った僕は、公平であるべきだっていつも言われてた」
「……公平ね」
「そう。でも、僕は僕の決意で、君に協力するって決めたんだ、今更、ごめんなんて言うなよ! それで結局、僕の案をやるの?やらないの?」
私が彼の矜恃を曲げる決断をさせてしまった事に、罪悪感がある事をディックは察しているが、彼には一回の謝罪で十分だったらしい。
せっかく提案してくれた具体的な方法を蹴る理由なんかない。それに、襲うということは私の中で、どうあってもやってはいけないという気持ちは抜けなかった。
だから、時間が無いとわかっていつつも、作戦はまったく立てることが出来ずに進まなかったのだ。
「やるよ。……その作戦ができるならそれが一番勝率が高そう。……ていうかね。多分それ以外無いと思う。人を襲う計画って立てるの難しくてね。割と苦戦してたんだ」
「……僕も……僕もそうだし。それでいいだろ。オスカーはパズルみたいなものって言ってたけど、そう簡単に割り切れるような君だったら、怖いし! 気持ち悪い!」
そういうディックは当たり前のことのように言い切って、口角をきゅっと上げてにっこりと笑った。彼の茶色の髪がふわっと揺れて、やっぱり少し犬っぽいなと思う。
「だからさ、いいんだよ考えられなくても別に。こんな嫌なことを考えるのはこれで終わるよ。学生なら本分に戻らないとダメだ」
ディックはガタンと席を立って言う。
「勉強して、戦って、遊んでさ。僕、これでも学生になるのに憧れてたんだ。まだまだ君とも遊び足りないし、終わらせてきてよ。クレア」
「…………そうだね」
確かに私たちの本分は学生で、本当だったら、死ぬだとか殺されるだとか襲うだとかそういうのとは無縁の生活を送っているのが正しいはずだ。
「作戦、チームで共有してからまた内容を詰めて教えてね、ここからはオスカーの方が得意分野だから部屋に来てくれればいいし」
「うん、そうさせてもらう」
「……じゃあね。クレア」
「うん、またね。今日はありがとう」
そう言って呆気なくディックは去っていく。
きっとこういう学園生活だって間違ってなんか居ない。こんなに殺伐としていようとも、思い出は沢山できた。
それでもやっぱり、誰も、不安にならない、怖い目に合わない生活がいい。まずは生きることを勝ち取らなければいけない私がそれを望むなんて、随分と欲張りすぎるけれど、望むだけなら自由なはずだ。
少し目を瞑って、先程の切り傷を抑える。今は治って跡形もないのに、痛みは鮮明に思い出す事が出来る。
……いつか、前世での青春みたいな日々になるように、今を頑張るしかないね。
決意をして私も立ち上がり、廊下の掃除に向かったヴィンスのために、部屋を出た。
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