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人それぞれの企みと行動……。2

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 クルクルとチェルシーと回って、曲は盛り上がりを見せ、最後には、しっとりと終わる。

 途端に会場はわっと湧いて、誰かの指笛の音や拍手の音が聞こえてくる。

「終わっちゃったね」
「そうですねっ……戻りましょうか!」
「うん!」

 私達は現在位置から、サディアス達がいる場所を確認して、捌けていく人々と同じように歩みを進める。

 しばらくして、彼らのそばまで来た時に、不意に私は腕を捕まれ、咄嗟に振り返った。

「っ!……え、あれ、オスカー?」
「お前、なんでこんなところに居んだ?」
「??……どういう意味」

 突然の事に驚いたが知り合いだった事に安堵し、その場に留まる。彼の後ろには、はぐれないように手を繋いでいるディックが控えていた。

 珍しく彼らも私服であり、ディックの二つほど開けているワイシャツの隙間からオスカーの瞳の色に染まった、ペンダントのパールサイズの魔法玉が見えた。

 ……この二人の関係って一体どうなってんだろ。

 瞬時にそんな疑問が浮かんで、けれど、どうやら焦っているらしいオスカーに急にそんな事を聞くわけにもいかずに、オスカー達に気がついたサディアス達がこちらに来るのを横目で眺めつつ、ディックに視線を戻す。

 するとディックは私の視線に気がついたらしく、パッと胸元を抑えてボタンを閉じる。

 見られると誤解を生むということはわかっているらしい。ただ、この二人の場合本当に誤解なのかという疑問があるが。

「どうかしましたか、クレア」
「お前も……サボリか?さすがに不味いだろ」

 すぐにヴィンスがよってきて、私はチェルシーと手を離して、皆と合流して全員で首を傾げる。

 まったくオスカーの言いたいことが分からずに、ヴィンスと視線を交わす。するとディックが前に出てきて、あからさまに嫌そうな顔をしつつ言う。

「そうだ! 君らにとってはただの試合かもしれないけど、学園にとっては一大イベントなんだから!エントリーしたんなら、ちゃんとしろよ!」
「……エントリーって……え、ごめん、本当に話が読めない」
「嘘だ!そんなこと言ったって僕は騙されないからな!」
「ほ、本当だよ!今日は皆オフで…………ね?ヴィンス」
「ええ、私もクレアの予定はすべて把握していますが……」

 私だけではなく、ヴィンスまで困惑している様子で、ディックは眉を顰めたまま、勢いを失って、すすっとオスカーの後ろに下がった。

 どうやら彼に任せるつもりらしい。

 オスカーの方へと視線を向けると、彼はディックの頭を撫でながら、サディアスへと視線を向けた。

「なんか行き違いがあるように思うがな、サディアス、それからクレア、ヴィンスは公開試合のエントリーリストに乗ってるぞ、ディックが試合を見るのを楽しみにしてたの知ってっからな」
「…………」

 そんなはずない、サディアスもないとは思うが、確実に自分自身と常に一緒に居たヴィンスのことは、間違いなくエントリーしていないと言える。

 それに、エントリーリストは生徒にも交付されていない。いったいどこでそんな情報を得たのだろう。どちらに疑問を持ったのか分からないが、サディアスも怪訝そうな表情で、オスカーの事を睨みつける。

「エントリーしてるメンバーは、公開されてねぇって言いてぇんだろうが、察しろ。ディックが見てた、それを俺も見てたってだけだ。嘘なんかつかねぇよ」
「……確かに、君がここで俺達に嘘つく理由は思いつかないが……しかしな、公開試合は明日だろう? どうしてここにいては行けないんだ?」
「っ、み、ミーティング……前日ミーティングが、エントリーする時に知らされるんだ!……だから、今君らサボってる事になってると思うよ」

 サディアスに睨まれて、ディックはしどろもどろになりながらもそういい、一生懸命に睨み返す。

「でも、学園きっての大イベントだから、評価下がるよ!今すぐにいった方がいい! 特にクレア! 君実技の成績ボロボロでしょ! まったく、僕が居なかったら落第だよ、落第!」

 彼は、私には強い口調でそう言って、フンッと顔を逸らす。舐められている故なのかもしくは、心を許してくれているのか、私にはめっぽう砕けた喋り方である。

「とにかく行けばいいって事?グラウンド?」
「違うって! 練習場! 絶対ブレンダがカンカンだよ!…………まあ、僕が一言口添えしてあげなくもないけど、君のことだし」

 ディックはツンとした表情のままふと視線を下げて、そんな事を言ってくれる。ディックが相変わらずどの教職員の子供でどんな立ち位置なのかよく分からないのだが、彼なりのエールだと受け取っておく。

 それに言われたからには、行かないわけにはいかない。もし、何かの手違いならば、それはそれで、私達は関係ないのだと汚名をはらさなければ。

「わかった、一応行ってみるよ。声をかけてくれてありがとう、オスカー、ディック」
「いいよ!また明日な!」
「ああ……お前、そのうち会いに来いよ、しばらく話を聞いてねぇから」
「!……うん!近いうちに!」

 私の生存戦略についての事だろう。いろいろと進展があったのに報告が遅れてしまった。……しかし今の三股状態にオスカーはなんて言うだろうか。

 少し言いづらい気持ちもありつつも、とりあえず、私は、チェルシーとシンシアに向き直る。

 二人はまだまだ遊び足りないだろう。

「二人とも!ごめんね、せっかく、夜の花火まで見ようって予定立ててたのに」
「…………いいえ、大丈夫です!驚きましたけど、頑張ってきてください」
「……」

 チェルシーは私にそう返し、シンシアは今朝と同じ表情で沈んだ表情を浮かべつつも、一応といった感じに笑顔を浮かべる。

「……観戦はしますから、頑張ってください」
「う、うん」

 まだ、出るとは決まっていないし、何かの間違いではないかという気持ちの方が大きいのだが、シンシアとチェルシーはあっさりと私のエントリーを認めたような返事を返す。

 なんだか疑問に思いつつも、違和感と言うだけで、指摘するわけにもいかずに、私達三人はその場から離れて練習場へと向かった。




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