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人それぞれの企みと行動……。1
しおりを挟む記念祭、二日目。今日はやっと、私たちのチームでお祭りを回ることが出来る。一日目には、私の予定も入っていたし、仕方なかったのだけど、チェルシーとシンシアがお祭りをすごく楽しみにしていた事もあり、私はこの日が待ち遠しかった。
……のだが。
「ね、ねぇ、これどうかな? お祭りらしくて良くない?!」
「ええ、そうですねっ、陽気な姿です、クレア」
「じゃ、じゃあこっちは!?」
「いいと思いますよ……私はつけないですが……」
私は露店に置いてあった、アホみたいなカチューシャを頭に当てて見せて、二人の方へと向き直ったのだが、彼女たちはクスリともせずに、力無くかえした。
……お、おかしい。チェルシーはいつものような元気が無いし、シンシアは寝不足なのか気苦労なのか、くまができている。
二人に会っていなかったのは一昨日と昨日の二日間だけなのに一体何があったと言うのだろう。
ヴィンスとサディアスは、私たちの両端で剣を携えて警戒しながらお祭りを回っているし。
これではチーム皆でお祭りを楽しんだ事にはならない。人生で一度しかないブロンズバッチの間のお祭りなのだから、きっちり楽しまなければ、とあれほど二人が熱心に言って私も心の準備をしていたのに!
どうしてこんなに陽気な音楽、楽しげな人々の中で二人はテンションが低いのだろう。……もしかして何かあった?
そんな不安が頭をよぎる。けれど、何も言われていないし、彼女たちが憂鬱に思うような事も思い当たらない。最近は至って平和で、このおやすみに至っては学園での試合だってないのだ。
……仕方ないここは一つ、場を盛り上げるしか……。
「これください」
「はい!毎度あり!」
露店のおやじさんに頼んで、握りしめていた、子供がつけるようなアホっぽいカチューシャを購入する。
カチューシャの上部にバネが付いていて揺れる花が二本着いているのだが、それが羽虫の触覚のようで、つければ間抜けな印象になる事間違いなしだ。
購入した、私を無言で見つめる二人を私も見つめ返して、ゆっくりと頭に装着した。
「……」
「……」
「……っ!」
シンシアが途端に顔を歪めて、ぷるぷると肩を震わせて我慢しだした。
私はあともう一息だと察して、髪をファッサーと靡かせて、できるだけキメ顔で言う。
「どう貴方達!!似合うかしらッッ?!」
私が眉を凛々しくして、そういえば途端に、二人は相好を崩す。
「ッ、ひっはははっ、ックレア、おかしっあははっ」
「っ……っ、ふふっ、ふふふふっ」
「フンッ!貴方達にはまだ早かったようねっ!!」
「え?ええ?!えへへへっ、ヤダっ、クレアっほんとっ」
「あ、あんまり笑わせっ、ないで、ふふっ、ください、クレア」
二人は、私の頭のお花がぴよぴよ揺れる度に、声を出して笑って、ようやくお祭りにピッタリの笑顔になる。
何をそんなに悩んでいるのか分からないが、こうして一緒にいるのだ、話せるようになったら話をしてくれるだろう。そして話さないのであれば、今は忘れて笑っていた方が得策だ!
それにきっと、いつかこの日の事を思い出した時に、楽しかった思い出として思い出して欲しいのだ。あれだけ楽しみにしていたのだから、この二人に取っても今日は特別なはずだ。
「ちょっとは元気出た? 何かあったらいつでも言って、今日も無理して、お祭りを回らなくても大丈夫だからね」
「!…………大丈夫ですっ、無理してはいないんです!ね!シンシア!」
私の言葉に、チェルシーはいつもより、元気いっぱいに答えて気分を切り替えたように見える。話を振られたシンシアも、ふう、と一つ息を付いてそれから笑顔を見せた。
「ええ、少し心配事があっただけで問題ありません、さあ次の場所を回りましょう?」
「うん!」
彼女たちに手を差し出されて、私は両手を繋いで歩き出した。お祭りの二日目である今日は、噴水のある広場にある露店の内容が変わっていた。昨日は食べ物がメインだったが今日は、謎の骨董品やお洋服なども販売している。
昨日とは違った部分を楽しみつつも、昨日買って良かったもの、美味しかった物なんかを二人に勧め、露店をしばらく楽しんだ。
展望台へと続く道を往復して、広場の方へと戻ってくると、先日は吟遊詩人が弾き語りをしていた場所には、楽器を持った音楽隊のような人たちがいる。
既に演奏は始まっていて、噴水をぐるりと取り囲むように、音楽に合わせて男女が踊っていた。ダンスに詳しくない私は、とりあえず日本の盆踊りとは違うということだけは理解できたが、カップルがクルクル回っていること以外はまったく分からない。
「あら、始まっていたんですね!」
「知ってたの?」
「ええ、二日目にはこうしてダンスをするのが恒例ですから」
「そうなんだ」
私たちのように、周りにいる人達は、それぞれ手を叩いてリズムを取って参加したり、何やら歌詞を呟いている人もいる。
「そうだ、クレア、私と踊ってくれませんか?」
「え?私、振り付け全然分からないよ?」
「大丈夫です!ダンスは剣術と似ているところがあるんです!息を合わせれば、問題ありません!」
そんなに共通点があるとは思えないのだが、チェルシーが、何とも、楽しそうに誘ってくるので、断るに断れない。ヴィンスやサディアスに相手をしてもらう事は出来ないだろうかと思い、二人を見る。
すると彼らは私の視線に気がついて、ヴィンスはニコッと笑った。
「チェルシー様でしたら、リードも上手いと思います。一曲踊ってみるのもいいと思いますよ」
「俺は剣を持っているから、あいにく踊れない。チェルシー、クレアは割と運動音痴だ、転ばないようにな」
「はいっ、大丈夫です!」
サディアスとヴィンスに後押しされてしまい、断れる状況ではなくなってしまう。どうしたものかと思っていたら、急に手を引かれて、彼女はダンスをしている輪の中へと飛び込んだ。
自ずと私もその輪の中に入ってしまい、チェルシーに腰を支えられてリードされるのを受け入れた。
「っ、あ、わっ、あうっ」
「クレア、リラックスですよ、私の体の向きや動きに集中してください」
そうは言われても、ターンが入って、前後ろと足を動かし、なおかつ、他のカップルに当たらないようにしなければわならない。
やっぱり助けを求めようと奮闘しつつ、一周噴水の周りを回ってヴィンスを探すと、何やら、シンシアは、サディアスとヴィンスに顔を近づけて何かを差し出していた。
…………??内緒事かな?
そちらに気を取られてしまうと、ぐんっと強く体を引かれる。パッと見てみれば、チェルシーは魔法を使っていて、別のカップルの女性と当たる寸前だったことに気がつく。
「クレアっ、よそ見ですか?……ダメですよ、ほら私と魔法を使いましょ?」
そう言って片手間に、魔法玉を差し出されて、私もグッと彼女と近づいて魔法玉を触れ合わせた。
魔力を吸い取れば、私の透明な欠損部分は彼女の魔法玉の色の黄色へと染まる。魔法を使うと体が軽くなって、圧倒的にチェルシーのリードへの感度が上がる。
導かれるままにリズムに乗って、チェルシーと目を合わせて体を動かすのが心地いい。調度良い運動量に、少しは動きに慣れてきて、私も次の動きを意識して、踊る。
普段の私であれば、数秒でヘトヘトだっただろうに、魔法を使えばここまで簡単に体が言うことを聞く。前世にもあったら体育の授業で変な動きをせずに済んだのにな、と今更考えても仕方ないことが頭に浮かぶ。
「……踊れると気分いいね、これ」
「ですよね!わかって貰えましたかっ、良かったです。……でも、やっぱり周りは男女のカップルが多いですね!」
「それは確かに……この中に学園の生徒もいるのかな?」
「そうですね、学園の生徒は、横の繋がりは多くとも縦のつながりは少ないですから、分からないだけで沢山いると思いますよ」
そう言われてリズムに乗りながら、辺りを見てみれば、私たちと同じように淡く瞳を輝かせているカップルが多い。
私はみんなが皆、このダンスを知っていて一糸乱れぬ動きになっているのだと思っていたが、魔法を使って私と同じようにドーピングしている人がいると思えば、何となく親近感も湧く。
「そっか、なら来年には、私達のチームも、それでそれ恋人を連れてここに来る事になるのかな……」
「そうですね!私もそれまでに恋人が欲しいです!一緒にお祭りを回ったりして、お祭りの終わりには冬初めの鐘を一緒に聞くんです!」
「いいね、ロマンチックだ」
「ええ!きっとプラチナバッチになっても、きっとその先もチームの皆とはずっと一緒で、ですから彼氏には寂しい思いをさせるでしょうから、お祭りの期間だけは、そうして過ごすのも悪くないです!」
ロマンチックだと言いつつも、少し寂しいななんて思っていた私にチェルシーはそう言って、にっこり微笑みかけた。確かに、学園に入学してからチームはずっと一緒だ。
きっと来年もその先もと言われると納得だし、同じ学生を恋人にしないと公言していたチェルシーの彼氏は寂しい思いをするだろう。なら、お祭りぐらいは、快く送り出すのが筋だろう。
それに、もしかしたら周りの人もそうなのかなと思う。
座学も、実技も基本チームで動く私たちは、チーム外の人とは、敵対することが多い。こうして学園が長く休みを取って、課題も何も課さないのはその間に交流を深めるという意味もあるのかもと深読みをした。
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