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楽しい時間はあっという間で……。4
しおりを挟む「ローレンスは優しくないってララは言うでしょ」
「……そうね」
「それは多分、目的のためだったら優しさを捨てられる、人を切り捨てる事が出来るということだと思うんだ」
「……」
「でもその目的って言うのはさ、だいたい、その切り捨てられる人よりも、優先するべき人のための“目的”だと思う」
ローレンスのあの他人の興味を引く、トラブル自体を目的とする、性格は、そういう性格ではなく、言ってしまえば病気のようなものなのだ。
彼を蝕んで、破滅させる、そういう風に進んでいってしまう病気。
「でもローレンスはその目的が少しおかしい。ローレンスが呪いを欲しがる理由ララは知っている?」
「いいえ、分からない」
「……トラブルの火種が欲しいのだって。それを手に入れる事が“目的”なんだって」
「…………それを使って何かをするのではなくて?」
「うん、するとしてもまた新しい火種を手に入れるぐらいじゃないかな」
それでは彼は、永遠に終わらない苦痛の中から逃れることが出来ない。そしてそれらは周りを巻き込む。だから、クラリス達は止めたいのだ。
「だからね、私はそれ自体を辞めさせたい。逃げないよ。コーディーの事を何とかしたりもしない」
「……つまり、貴方は、ローレンスの性格自体を変えると言いたいの?」
その通りだと頷く。ララは少し考えて、それから口を開いた。
けれど、一度口を噤む。それから再度逡巡して、私たちの間には、お祭りの楽しげな喧騒が場違いに聞こえて、けれど、空気が重たくなり過ぎなくて良かったとも思う。
「……」
「……」
「…………ねぇ、クレア、貴方、私を利用すれば、そんな曖昧で勝算の低いことをせずにすむとわかっている?」
予想外の切り返しに、私は目を見開く。
「それこそ、サディアスでもなく、ローレンスでもなく、私を貴方が籠絡すれば、すべて解決してあげるわ、出来るもの私強いから」
「ろ、籠絡?そ、それは、その、色恋的な話?」
「そうとも言えるし、そうじゃないとも言えるわね。どんな形であれ、私は貴方に執着している、それは気がついているでしょう?」
私の手を取って、彼女は路地の壁に押し付けるようにして、私を縫い止める。その手には私のペンダントが握られていて、女の子の柔らかい手と、斜め上から注がれる視線に少しドキッとした。
「貴方ならいいわ。私、貴方が欲しいもの、そばにいて欲しい。貴方が望むのなら私は強くあれる気がする」
「……っ」
くっと顔を近づけられて、彼女の柔らかい髪が頬を撫でて、つけている香水の香りが鼻を掠める。
「……それを貴方が知っていると言う前提で聞くわ。どうして、そんな不確実なことをするの?」
言葉にして言われた事はなかったが、確かに薄々感じてはいた。けれど、私に彼女を利用するという選択肢はなかった。多分ララに私は同じだけの、情を返せない。
ただ、そばにいて、話を聞いたり、楽しいことをする事が出来るが、私はララの執着に対等であることが出来ない。だから、ララの気持ちに答えることはできなかった。
そして、質問の答えは決まっている。
これを彼女に伝えるために私は、この話題を始めたのだから。
「……ローレンスが、好きだから」
「貴方を殺せるような人よ。それでも好きなの?」
「うん、好き。だから、私はローレンスのそばにいたい。これから先もずっと」
「……」
ララは私の瞳の中を覗き込むようにして、その言葉が真意かどうかを読み取ろうとする。
逸らすことなく、見つめ返した。やがてララは、諦めたように目を瞑って、私から手を離す。
「それは私から奪うと言う事……では無いのよね」
「うん、もちろん」
「はぁ、そうよね。なんだか、納得だわ。……それでサディアスとも恋人だけれど、ここからは居なくならないという事ね」
「うん、あと、ヴィンスとも恋人」
「…………貴方、一歩間違えば、本当にすぐに死にそうね」
真顔で言われて、私も苦笑した。
それは昔からだ、ここに来た時から絶賛今まで、崖っぷち悪役令嬢なのだ、もう宿命だろうな。
「まあ、それならこれは、親愛の証という事で貰っておくわ、おなじ男を好きなのだもの、私達がお互いを恨みあったら、それこそ目も当てられないものね」
「ふふっ、そうだね。ローレンスはそれはそれで面白がりそうだけど」
「どうかしら、貴方が弱すぎて、トラブルにもならないから眉ひとつ動かないかもしれないわ」
「…………それは、確かに」
私達は笑いあって、お互いに、お互いの色のペンダントをつけて、どちらともなく、露店のあるメインストリートの方へと戻っていく。
手を繋いではぐれないようにしながら、ララはぽつりと言った。
「なんだか不思議な関係ね。恋敵は恋敵でも、クラリスとは、酷く対立していたから」
「うん、私も妙な気持ち」
「……でも、悪くないわ。型に嵌ったわかりやすい関係より、貴方と私という感じがするもの」
「そうだねぇ……私にとってもララはララだから、友達だけ、とか、恋人だけより、しっくり来るよ」
恋敵という名前以外でこの関係性を表す言葉は知らないが、彼女は私にとって、色々な意味で特別だ。
そしてこれからも、この仲が続いていきますように、心の中で彼女から貰ったペンダントに願いを込めた。
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