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告白の返事がそれって……。9

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 人の口では固いかもしれないが、今のわたくしの牙には心地よく、カリカリと音を立てて崩れるクッキーは、形通りにお魚の風味がして、バターが良く効いている。

 わたくしは、魔法を使って猫の形をとっているけれど、真に猫ということでも無い、不調や不便なところがあれば、魔法が補って、魔力を使って改善される。

 無理をすれば、大きくなって戦闘をする事もできるし、本当は人の形も取れる。けれど、それをするのは、わたくしをまた誰かが捉えに来るのではないかという不安になるため極力ならないようにしている。

 ただ、魔法によって自在に形を変えられるのだとしても、猫という生物の本能や性能に振り回される部分も少なくはない。お昼は眠くなるし、毛繕いをする日課もある。

 だから、食事が猫用でなくとも支障はない、けれども猫用は猫用であるのなら、それはそれで嬉しい事だ。

 カリッ、カリリッと音を立てて、噛み砕き、味わって呑み込む。クレアは実は相当な猫好きなのかもしれない、そうでなければここまで美味しい猫用のクッキーなんか作れないだろう。

 それに彼女は変な知識を持っている、出身の別世界からの知識だとはわかるのだが、こういう部分で発揮するというのは、実に甘すぎる彼女らしかった。

「…………美味しい?」
『悪くありませんわ』

 素直に美味しいと言ってしまえば、エリアルはレシピを、彼女に聞いてしまうだろうと言うことがわかっていたので、適当な返事を返す。けれど、エリアルはわたくしの表情を読み取ってか「そう」と嬉しそうに笑う。

「……また、あの子の変な知識かな。僕はたまに思うんですよ、本当はクレアは、呪いの力なんかより、ずっと、あの子が欲しがる力を持っているのではないかと」
『みゃう』

 そうねと返事をしたつもりが、お魚クッキーで、本能を刺激されたせいか鳴き声が漏れてしまう。エリアルは少し驚いた顔をして、もうひとつクッキーを差し出して私はハグっとそれを加える。

 ……そうよ、だってまったく同じでは無い世界から来たのだもの。その世界での武器、武術、毒、魔法、他にもこちらの者が対応出来ない戦術や力を知っているかもしれない。

 いえ、そういった事にまるで縁のないふ抜けた顔をしているもの、詳しくはないと思うわ、けれど、まったく知らないはずもない。

 そういった案や、物を作れる状況をクレアに渡せば、きっとローレンスの望むもの、もしくはそれ以上のものだって出来てしまうのだと思う。

 クッキーを飲み込んでエリアルを見上げると彼は、私の頭を緩く撫で付けて、思考を巡らせているようだった。

『……けれど、こんなクッキーなんて作っているうちは安心ね。クレアにはあの砂糖菓子のような思考のまま死んで貰いましょう』
「はい、クラリス。…………最近、よく彼女が話しかけてくるのはどう対処したらいいかな」
 
 撫でながら聞かれて、私は横になり、腹も撫でていいのだと意思表示をしつつ、考える。

 クレアが生きるということを諦めていないことはわかっている。ただ、わたくし達に抵抗すると言うのは辞めたのでは無かったのだろうか。

 エリアルとわたくしは、手段も方法も変えるつもりはない。エリアルを使って、その意思表情は夏休み頃にきちんとした。

 実際、あの方が変わらない限りは、問題は解決しない。それはクレアもわかっているはず、それでも、こちらに接触して来るということは、あの方の事で何か情報を集めたい可能性もある。

『……わたくしが話をしに行ってきますわ』
「わかった……クラリス」

 エリアルは腹を上に向けて、撫でられる私の両脇に手を入れて、持ち上げて、ちゅっと鼻にキスをする。

『ふふっ、くすぐったいわね』

 抱き抱えられて、頬擦りすると「クラリス」と愛おしい声がわたくしの名前を呼ぶ。あの方と同じ声色、やさしい手、翡翠の瞳。髪の色以外はすべて同じに見えるのに、この人のそばに居ることが一番安心出来る。

 ……初めのうちは不思議に思っていたけれど、今ではそんな事は無い。どんなに似た人でも、経験してきたことによって、人というのは変わる。

 あの方が、得られなかったものをエリアルは持っている。だから、私はここに居ることに安心出来るのよ。

 それを手に入れられなかったのは、きっとあの方のせいでは無い、少し可哀想には思うけれど、わたくしは薄情者で貴族なのだから、許されると思う。

 そこまで考えて考える事を止めて、ゆっくりと目を瞑った。猫の良い耳では、エリアルの落ち着く鼓動が聞こえて、とても心地が良かった。




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