227 / 305
告白の返事がそれって……。2
しおりを挟む記念祭に向けて学園街は浮き足立っていた。普段から大きな広場の付近にお店を出している人たちとは別に、露天商のような人達も集まってきていて、平日の夕方だと言うのに街の喧騒は変わらない。
少し冷えた風が足をなでて、私は羽織っている学園指定の外套をぎゅっと握る。
制服も冬用の厚手のものになっているので、それほど寒いという事は無いが、これからあっという間に冷え込んでしまうと思うので早めに防寒具を買っておいた方がいいのかなと思う。
チリーンと音がして、待機していたすぐ側のお店の扉が開いて、チェルシーとシンシアが出てくる。
チェルシーの手には細かな細工の柄が美しいサーベルが大切そうに握られている。
「お待たせしました!無事購入出来ました!」
「良かったね、すごく綺麗な剣……」
「そうだな、君の手によく馴染んでいるように見える」
共にいたサディアスも微笑ましいものを見るようにそう言って「ありがとうございます!」と表情を明るくするチェルシーを褒める。
シンシアも自分に合うものがあれば欲しいという風に言っていたのだが彼女は何も買っていないようだ。
「シンシアはめぼしい物は無かった?」
「ええ……オーダーメイドも可能なようですが、値が張りますからね、慎重に選んでいくつもりです」
「そっか……私も早めに欲しいけど、やっぱり簡単には選べないよね」
「買い物が終わったのなら次に行くぞ、今日は沢山店を回るんだろ、話は歩きながらな」
サディアスは、私たちに声をかけ、チェルシーと先に歩いていく、返事をしそのあとを付いて歩きつつ、そうだったと思い出す。
この後は私の希望のお店に行くのだ。それからヴィンスの行きつけの紅茶のお店に行って、サディアスの寄りたい場所にも行く予定だ。
どうして、ただの平日の放課後にそんなに予定を詰め込んでいるのかと言えば、団体戦トーナメントの練習に力を入れているせいである。
学園街はお祭り気分で盛り上がっているが、個人戦トーナメントで実際にバッチを取得した者が出始めて、ブロンズバッチたちは焦りや悔しさをバネにチームでの戦闘訓練に熱をあげている。
それは私達も例外ではなく、けれど一人でも用事で欠けるのであればチームでの練習としては不十分な物になってしまう。なので、皆で揃って、お祭りで人が増える前に買い物に出てきているのだ。
サディアスが先を歩き、私達が続いていけば、彼はふと指をさして、振り返る。
「俺はここで待っているからな、ヴィンス、君もここに居たらどうだ、女性の店だろ」
「……そうですね、シンシア様、チェルシー様はご一緒に行かれますか?」
ヴィンスがそう聞いて二人は頷き、私の隣に並ぶ。
「左様でございますか、ゆっくりと選んで来てくださいませ」
「おい、時間が無いんだが」
「女性の買い物をあまり急かすものではありませんよ、サディアス様」
ニコッとヴィンスは笑ってそう言い、サディアスは眉間に皺を寄せる。それから、ひとつ舌打ちをしてから私達の方を見る。
「……好きに選んできてくれ」
「うん、ありがとう。行ってくるね」
少し不服そうな彼に手を振って、店構えからすでに華やかなお店の扉を開いて中へと入る。中は化粧品特有の女性らしい香りが充満している。
「しかし、珍しいですねクレア、貴方がこういったお店に来る事あまり無いのではないですか?」
チェルシーがそう言いつつ私に視線を送る。シンシアは普段来ないのか、店内を物珍しそうに観察していた。
「うん、そうだね。今回は特別かな……買うものは決まってるんだ」
私は迷わずに、スティック型のリップが置いてあるブースへと足を運ぶ、二人は眺めるだけで、今日は購入の意思は無いようで私の後ろに着いてくる。
適当にクレヨンのように真っ赤なリップと、ピンクとオレンジの間のようなカラーの二本を選んで、レジへと行き、会計を済ませる。
「そういった濃い色合いのものも、使うのですね、いつもあまり華やかなお化粧をしているところを見ないので想像がつきません」
「ん、うーん、そうだね、確かにあんまりしないかも」
「では、急にお化粧を変えるのはどうしてですかっ?……まさか恋?!」
「あははっ、違うよ、というか、そういう事するとサディアスが怒りそうだしやらないよ」
「なぁんだ……でも確かにサディアスは嫉妬深そうです!」
「確かに……束縛しそうですね」
話しつつ、商品を受け取って二人の方へと振り向く「二人は買う物ない?」と聞くと「大丈夫です」と返答が返ってきて、そのまま店を出る。
二人は、店舗の壁に寄りかかるようにして、話をしており、まだまだ出てくると思っていなかったのか、私達に気が付かない。
「傍から見るだけでは、二人ともとても好人物のように見えるのですけれどね……」
シンシアがぽつりとつぶやく、それだと実際に接すると、そうじゃないように聞こえるのだが、おおむね同意だ。
見た目は良いし、二人とも優しげだ、でもそれでいて学園の生徒なので体格も良い。
「そうですね、あれで性格に難が無ければ、優良物件ですね!」
「難って……まあ確かにね。……二人はお付き合いするならどんな人がいい?」
何となく彼らがこちらに気がつくまで、出入口のすぐ横に逸れて、ガラス張りのウィンドウを眺めながら聞いてみる。
シンシアとチェルシーは少し首を捻って、しばらく間が空く、それから先にシンシアが言う。
「私は、真面目な人ですね。自分自身、融通の聞かない性格をしていますから」
彼女は自分の性格をちゃんと理解しているらしく納得する。一緒にいて怒ってばかりでは、好きなのに喧嘩するというのは辛いだろう。出来るだけ、自分の許せない部分を考えておいた方がいい。
ヴィンスとサディアスの方を見れば、彼らはお互いに、にこりともせずに感情の分からない表情で話をしている。
「私は、一度言った事がありますが!魔法使いでも剣士でも無い人がいいです!」
「そうなの?」
「ええ!だって、総じて男性というのは横暴なものですから、そう言う事を言うようになったら私は、ちゃんと懲らしめるつもりです!」
「な、なるほど」
そう言う彼女の表情は少しだけ険しい。もしかすると身近な男性や父親が横暴なのだろうか。
少しの闇を感じつつ、ぐっと眉間に皺を寄せる彼女に言ってみる。
「そういう事も大事だと思うけど、それだとどんな人が好きか、じゃなくて嫌いにならずに済む人って感じじゃない?」
「そうですね、私は真面目な人が好きですが、チェルシーは好きになる条件などないのですか?」
「え?そうですか?……難しいですねっ」
彼女はむむっと考えるような仕草をしてそれから、パッと私を見る。
「そう言うクレアはどうですかっ?好きになる条件はありますか?」
「わ、私?……そうだなぁ」
好きと言われて思い浮かぶのはローレンスだ、このあとも会いに行く予定があるし、というか今日は特別な日なのだ。会いに行くというだけでは無い。
心の準備はしているが、出来るだけ、後回しにしたかった予定の日なのだ。
好きなはずなのだが得意では無い、無条件に安心できるわけでもない、好きと言いつつ、好きなところはいつだかクリスティアンに話したような、変なところぐらいだし。
私達がうんうんと悩んで居ると、ふと、影がさして、すぐに見上げる。
「出てきたのなら声を掛けてくれないか?」
「おかえりなさいませ、目的の物は購入できましたか?」
サディアスは少し怒りつつ、ヴィンスはからわずニコニコして言う。
私達はお互いに目配せをして、好きな人の話はまた今度と示し合わせて、それぞれに答えつつ、次のお店を目指して歩き始めた。
買い物が終わる頃にはあたりは暗くなっていて、お買い物と学園外に出られて、少しスッキリとした気持ちで皆で並んで寮へと戻った。
0
お気に入りに追加
135
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます
葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。
しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。
お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。
二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。
「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」
アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。
「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」
「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」
「どんな約束でも守るわ」
「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」
これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。
※タイトル通りのご都合主義なお話です。
※他サイトにも投稿しています。
私の婚約者は6人目の攻略対象者でした
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。
すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。
そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。
確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。
って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?
ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。
そんなクラウディアが幸せになる話。
※本編完結済※番外編更新中
記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました
冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。
家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。
過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。
関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。
記憶と共に隠された真実とは———
※小説家になろうでも投稿しています。
悪役令嬢の居場所。
葉叶
恋愛
私だけの居場所。
他の誰かの代わりとかじゃなく
私だけの場所
私はそんな居場所が欲しい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※誤字脱字等あれば遠慮なく言ってください。
※感想はしっかりニヤニヤしながら読ませて頂いています。
※こんな話が見たいよ!等のリクエストも歓迎してます。
※完結しました!番外編執筆中です。
悪役令嬢の生産ライフ
星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。
女神『はい、あなた、転生ね』
雪『へっ?』
これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。
雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』
無事に完結しました!
続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。
よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m
小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。
ここは小説の世界だ。
乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。
とはいえ私は所謂モブ。
この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。
そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる