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告白の返事がそれって……。2

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 記念祭に向けて学園街は浮き足立っていた。普段から大きな広場の付近にお店を出している人たちとは別に、露天商のような人達も集まってきていて、平日の夕方だと言うのに街の喧騒は変わらない。

 少し冷えた風が足をなでて、私は羽織っている学園指定の外套をぎゅっと握る。

 制服も冬用の厚手のものになっているので、それほど寒いという事は無いが、これからあっという間に冷え込んでしまうと思うので早めに防寒具を買っておいた方がいいのかなと思う。

 チリーンと音がして、待機していたすぐ側のお店の扉が開いて、チェルシーとシンシアが出てくる。

 チェルシーの手には細かな細工の柄が美しいサーベルが大切そうに握られている。

「お待たせしました!無事購入出来ました!」
「良かったね、すごく綺麗な剣……」
「そうだな、君の手によく馴染んでいるように見える」

 共にいたサディアスも微笑ましいものを見るようにそう言って「ありがとうございます!」と表情を明るくするチェルシーを褒める。

 シンシアも自分に合うものがあれば欲しいという風に言っていたのだが彼女は何も買っていないようだ。

「シンシアはめぼしい物は無かった?」
「ええ……オーダーメイドも可能なようですが、値が張りますからね、慎重に選んでいくつもりです」
「そっか……私も早めに欲しいけど、やっぱり簡単には選べないよね」
「買い物が終わったのなら次に行くぞ、今日は沢山店を回るんだろ、話は歩きながらな」
 
 サディアスは、私たちに声をかけ、チェルシーと先に歩いていく、返事をしそのあとを付いて歩きつつ、そうだったと思い出す。

 この後は私の希望のお店に行くのだ。それからヴィンスの行きつけの紅茶のお店に行って、サディアスの寄りたい場所にも行く予定だ。

 どうして、ただの平日の放課後にそんなに予定を詰め込んでいるのかと言えば、団体戦トーナメントの練習に力を入れているせいである。

 学園街はお祭り気分で盛り上がっているが、個人戦トーナメントで実際にバッチを取得した者が出始めて、ブロンズバッチたちは焦りや悔しさをバネにチームでの戦闘訓練に熱をあげている。

 それは私達も例外ではなく、けれど一人でも用事で欠けるのであればチームでの練習としては不十分な物になってしまう。なので、皆で揃って、お祭りで人が増える前に買い物に出てきているのだ。

 サディアスが先を歩き、私達が続いていけば、彼はふと指をさして、振り返る。

「俺はここで待っているからな、ヴィンス、君もここに居たらどうだ、女性の店だろ」
「……そうですね、シンシア様、チェルシー様はご一緒に行かれますか?」

 ヴィンスがそう聞いて二人は頷き、私の隣に並ぶ。

「左様でございますか、ゆっくりと選んで来てくださいませ」
「おい、時間が無いんだが」
「女性の買い物をあまり急かすものではありませんよ、サディアス様」

 ニコッとヴィンスは笑ってそう言い、サディアスは眉間に皺を寄せる。それから、ひとつ舌打ちをしてから私達の方を見る。

「……好きに選んできてくれ」
「うん、ありがとう。行ってくるね」

 少し不服そうな彼に手を振って、店構えからすでに華やかなお店の扉を開いて中へと入る。中は化粧品特有の女性らしい香りが充満している。

「しかし、珍しいですねクレア、貴方がこういったお店に来る事あまり無いのではないですか?」

 チェルシーがそう言いつつ私に視線を送る。シンシアは普段来ないのか、店内を物珍しそうに観察していた。

「うん、そうだね。今回は特別かな……買うものは決まってるんだ」

 私は迷わずに、スティック型のリップが置いてあるブースへと足を運ぶ、二人は眺めるだけで、今日は購入の意思は無いようで私の後ろに着いてくる。

 適当にクレヨンのように真っ赤なリップと、ピンクとオレンジの間のようなカラーの二本を選んで、レジへと行き、会計を済ませる。

「そういった濃い色合いのものも、使うのですね、いつもあまり華やかなお化粧をしているところを見ないので想像がつきません」
「ん、うーん、そうだね、確かにあんまりしないかも」
「では、急にお化粧を変えるのはどうしてですかっ?……まさか恋?!」
「あははっ、違うよ、というか、そういう事するとサディアスが怒りそうだしやらないよ」
「なぁんだ……でも確かにサディアスは嫉妬深そうです!」
「確かに……束縛しそうですね」

 話しつつ、商品を受け取って二人の方へと振り向く「二人は買う物ない?」と聞くと「大丈夫です」と返答が返ってきて、そのまま店を出る。

 二人は、店舗の壁に寄りかかるようにして、話をしており、まだまだ出てくると思っていなかったのか、私達に気が付かない。

「傍から見るだけでは、二人ともとても好人物のように見えるのですけれどね……」

 シンシアがぽつりとつぶやく、それだと実際に接すると、そうじゃないように聞こえるのだが、おおむね同意だ。

 見た目は良いし、二人とも優しげだ、でもそれでいて学園の生徒なので体格も良い。

「そうですね、あれで性格に難が無ければ、優良物件ですね!」
「難って……まあ確かにね。……二人はお付き合いするならどんな人がいい?」

 何となく彼らがこちらに気がつくまで、出入口のすぐ横に逸れて、ガラス張りのウィンドウを眺めながら聞いてみる。

 シンシアとチェルシーは少し首を捻って、しばらく間が空く、それから先にシンシアが言う。

「私は、真面目な人ですね。自分自身、融通の聞かない性格をしていますから」

 彼女は自分の性格をちゃんと理解しているらしく納得する。一緒にいて怒ってばかりでは、好きなのに喧嘩するというのは辛いだろう。出来るだけ、自分の許せない部分を考えておいた方がいい。

 ヴィンスとサディアスの方を見れば、彼らはお互いに、にこりともせずに感情の分からない表情で話をしている。

「私は、一度言った事がありますが!魔法使いでも剣士でも無い人がいいです!」
「そうなの?」
「ええ!だって、総じて男性というのは横暴なものですから、そう言う事を言うようになったら私は、ちゃんと懲らしめるつもりです!」
「な、なるほど」

 そう言う彼女の表情は少しだけ険しい。もしかすると身近な男性や父親が横暴なのだろうか。

 少しの闇を感じつつ、ぐっと眉間に皺を寄せる彼女に言ってみる。

「そういう事も大事だと思うけど、それだとどんな人が好きか、じゃなくて嫌いにならずに済む人って感じじゃない?」
「そうですね、私は真面目な人が好きですが、チェルシーは好きになる条件などないのですか?」
「え?そうですか?……難しいですねっ」

 彼女はむむっと考えるような仕草をしてそれから、パッと私を見る。

「そう言うクレアはどうですかっ?好きになる条件はありますか?」
「わ、私?……そうだなぁ」

 好きと言われて思い浮かぶのはローレンスだ、このあとも会いに行く予定があるし、というか今日は特別な日なのだ。会いに行くというだけでは無い。

 心の準備はしているが、出来るだけ、後回しにしたかった予定の日なのだ。

 好きなはずなのだが得意では無い、無条件に安心できるわけでもない、好きと言いつつ、好きなところはいつだかクリスティアンに話したような、変なところぐらいだし。

 私達がうんうんと悩んで居ると、ふと、影がさして、すぐに見上げる。

「出てきたのなら声を掛けてくれないか?」
「おかえりなさいませ、目的の物は購入できましたか?」

 サディアスは少し怒りつつ、ヴィンスはからわずニコニコして言う。
 私達はお互いに目配せをして、好きな人の話はまた今度と示し合わせて、それぞれに答えつつ、次のお店を目指して歩き始めた。

 買い物が終わる頃にはあたりは暗くなっていて、お買い物と学園外に出られて、少しスッキリとした気持ちで皆で並んで寮へと戻った。




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