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私の愛も、彼らの愛も……。8
しおりを挟む記憶を掘り起こしてクリスティアンの状況を確認する。すると彼はうん頷き続ける。
「君は別人、その原理については理解していないが、現実は理解をしているよ。そして、サディアスは……憎悪ではなく、ある種、愛憎というか、そういう情を君が向けられている事も理解した」
「あぁ、まぁ、うん。そうね、私もそれは最近知った」
「彼は、確かにずっと危うい所があったんだがねぇ、愛しているからと言って、自分の望みを通していい道理は無いよ」
クリスティアンは、少しサディアスに対して複雑な感情があるらしい、怒っているのか、悲しんでいるのかよく分からない表情だった。
「ヴィンスも同じだねぇ、彼らの愛は相応に歪んでいる、私は意図せずとも、それに加担してしまった。それを良しとするべきでは無い、謝罪をして、償うべきだと考えているよ」
「それが、クリスティアンの罪悪感?」
「そうだねぇ、間違いは無い、私はそういう愛をめっぽう嫌うたちなんだよ、たとえどんな事情があろうともねぇ」
……それは、まぁ、何となく理解できるけれど。
クリスティアンは博愛的だ、そして健全にというか、それぞれときちんとコミュニケーションを取っていてそれぞれをケアしていて、束縛するような素振りだったり、自分の所有物のように扱ったりしない。
そして、彼自身も押し付けるような愛情を向けられるのが嫌なんだろう。
少しは、彼自身が思っている罪というものが見えて、安堵する。しっかりとした優しい人だからこその線引きがあるのだろう。
「わかった。…………それはわかったけれど、物は受け取れない、謝罪で十分。私は、許す。私も貴方に言わなかった事があるの」
故意に黙っていた事だ、そして、私はクリスティアンが私に悪意を向けることをサディアスへの贖罪のように感じていた。それだって彼を利用したのと変わりは無い。
私が貴族派に協力すると言ったとき、彼は自分で許されようとしないでくれと言っていたのに、私はそれを聞き入れてはいなかった。
「クリスティアン……サディアスの立場が落ちたのは、私のせいなの、ローレンスが私の困っているところが見たかったから、彼が自作自演で、賊を手配したって言っていたから」
「ローレンス殿下ねぇ…………殿下の仕掛けだということは、予測はたっていたんだよ」
「そうなの?」
「ああ、稀にというか、そういう事をされる方だ。それに多くの貴族は、そう言った他人の陥れ方をする、だから決して君のせいだとは断定してはいなかったけれどね」
そんな事普通しないだろうと思うのだが、こんな世界だ。ララの出身地と言うだけでサディアスのお父さんが殺されるように、そういう陰湿な事をするのだろう。
納得は行かないが、事実だけを見れば分かっていてもおかしくない。
「しかし、君はそれをなぜ自分のせいだと思うのかなぁ、私からすれば、殿下の起こした行動だ、責任があるのは君では無いと思うよ」
「それは……」
「何か私的な事情なのかなぁ、説明しにくい事柄?」
「う、うーん」
曖昧に笑って、どう言えばいいのかを考えるが、難しい。
ただかまって欲しいからやったと思うというのも誤解を招くというか、だからといって別に嫌われているという事も無いと思うのだ。
それはとても……そうだ、わかりやすい例えならば、クリスティアンがわかる人間がいるだろう。
「サディアスと似た様なっていうか、わかるかな、ちょっとローレンスはローレンスで多分少し、抜けているというか」
「……けれど、殿下は君を殺そうとしているだろう?それも含めて、君はローレンス殿下の行動を歪んだ愛ゆえだと言うのかなぁ」
「いや、愛とか大層な事を私に思っては無いと思う、多分………………ペットというか、だから思い通りに動かないのが気に触ったみたいで」
ぎこち無く笑って言えば、クリスティアンは眉間に皺を寄せて、思案しつつ、口元に手を当てた。
それから、じっくり考えて、あまりにも理解の及ばない感情だったからか、きつく目を瞑ってそれから言う。
「君が言うのなら、何か心当たりも合って、ローレンス殿下を怒らせるような事をしたのだろうねぇ、そういう解釈でいいかな」
「うん、まあ、それで。私はサディアスに迷惑と負担をかける事になってしまってた。だから、クリスティアンが私に怒っていて、そのまま魔法を使うのは怖かったけど……それを少し利用してたの。ちょっとは許される気がして」
「……なるほどねぇ」
ここまでの説明で少しは納得出来たようで、彼は背もたれに体を預けて、薄らと微笑んだ。
「だから、お互い様ということを言いたいんだねぇ」
「うん、私もごめんなさい」
「……構わない。私も許そう」
「ありがとう、クリスティアン」
どうあっても、私がその指輪を受け取れないという事がわかったのか、彼は、ゆっくりと箱をテーブルに戻して、お茶で喉を潤す。
それから視線をあげる、その表情はいつもの優しげで、この騒動がある前と同じような彼の表情だった。
「それで、相談というのか何かなぁ」
「あ、うん……私、ローレンスが好きなの」
「………………」
私の一言で彼は真顔に戻り、また目を瞑る。それから「失敬、聞き違えたようだ、もう一度」と言った。なので私はまったく同じことを繰り返す。
彼は、しばらく固まってそれから、まったく理解できないらしく苦笑いを浮かべる。
「どこが?」
「……なんとなく?」
「君が好きになる要素はどこにあるかと聞いているんだよ」
「………………」
確かに先程の話をした後だと、私は馬鹿に見えるのだろう。ただ、私だってよくわかっていないのだ、けれど、消去法で言ったらというか、もう自分の判断がそう物語っているのだから仕方がない。
後づけするとするのなら……。
「声……とか?」
「絶対に後悔する、悪いことは言わないから諦めるか考え直すべきだねぇ、それに……いや、君の周りに変な男が多すぎるのかもしれない、私と付き合ってみたらいい、彼らより幸せにしてあげられる自信があるよ」
「……それはちょっと……」
「そうかなぁ、それなら……ほら仲のいい男は他にもいるだろう、君は何か恋というものを勘違いしているんだよ」
「いや……それは、そんな事ないもん」
「なんで意固地になるのかなぁ」
私が言い訳に詰まって、意地を張れば彼は、困ったようにそう言って、少し笑う。おかしな事を言っているつもりは、まあまあ、あるが勘違いはしていない。
「……声だと言うのならいくらでも他にいい者がいるだろう?」
「そういう問題じゃないの」
「では、君は彼を好きな理由をはき違えているねぇ、せめて聞かせてくれないかなぁ、笑ったりはしないから」
子供に言い聞かせるように言われて、まぁ、そう言うのならと思って、しっかりと彼を好きな理由を考える。
しかし何故かと言われても、最近自覚したばかりなのだ。一応、思い浮かんだ事をあげてみる。
「顔も……好きだし」
「貴族なんて顔のいい者ばかりだよ、美人を娶るからねぇ、美男子なんて山ほどいる」
「……たまぁに、優しいし」
「常に優しい人には劣るねぇ」
「す、少し強引なところとか?」
「少しかなぁ、君と彼を見ていると、歴然とした力の差を感じるけれど、それはただの服従じゃないのかなぁ」
確かに、ものすごく本当は強引なのだ。そして私のプライベートなど無視して来るし、そのうえで性格は悪いし、悪魔みたいな人なのだ。怖いし。
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