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やっとの思いで個人戦……。1

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 飴ちゃんを舐めて魔力を回復していると、ミアとアイリはすぐに戻って来た。その手には、簡素な作りだが頑丈そうな車椅子がある。

「借りてきたよ、クレア!これで一緒に練習場まで行けるね」
「学園の医務室大きいからあるんじゃないかと思って聞いてみたら、案の定だったよ」

 カラカラと私の元まで持ってきて、ロックをかける。

「すごいね、助かるよ」
「うん、良かった、ね、アイリ」
「うん、そうだねミア……ところでそろそろ、起こす? 開会式に間に合わなくなっちゃうよ」
「……それもそうだね」

 そういえばもうそんな時間だ。昨日貰ったプリントでは、開会式があってからすぐに試合が始まるらしい。一日目は一回戦がものすごいスピードで執り行われるのだ。

 出来るだけ急いだ方がいいだろう。

 そんな話をしていると寝室の扉が開く、早速誰か起きたらしい。

 もごもごと何やら口を動かし、目を擦っているヴィンスだった。ぼんやりしている様子だが、仕方ない一時間も眠っていないのだから。

「……おはよう……ございます。おふたりとも」
「おはよう、ヴィンス、眠たそうね、ね、ミア」
「そうね、アイリ。自分の試合まで眠っていてもいいんじゃない? ヴィンス」
「いいえ……クレア、少し整えて来ますから……待っていてください」

 そう言ってのそのそと、彼はこの部屋から出ていった。整えてくるって、準備?……心の?体の?疑問に思いつつもヴィンスを見送ると、ヴィンスが起きた、事で同じく目を覚ましたらしいクリスティアンが、ふらふらしながら出てくる。

 ふと私を見て、額を抑え、それからミアとアイリを見て、ものすごくほっとするようなそんな笑みを浮かべた。

「来てくれたんだねぇ、ミア、アイリ」
「ええ、クリスが心配でね、ね、アイリ」
「うん、こんな事になってるなんて想像もつかなかったけどね、ミア」

 二人はうふふと笑いあってその姿に安心したのか、クリスティアンは二人をまとめて抱きしめる。
 
「っ…………今ほど君たちという存在に、感謝した日はないよ」
「なぁにクリス、こんなに震えちゃって、怖い夢でも見たの?」
「やだ、ふふ、子供見たいね、クリス」

 二人はクリスティアンを抱きしめ返す。
 緩く微笑むふたりに私は、彼は彼女たちがいてくれれば大丈夫かなと思って、微笑ましく見つめる。

 するとクリスティアンは、おもむろに顔をあげて私を見る。それから、何かを言おうとしたので私はそれを遮るように言う。

「クリスティアン、先に行っていてくれる? 貴方の試合が始まるころには、私も練習場に行くから……チェルシーとシンシアに後で来るから心配いらないって伝えておいて」

 私がお願いをすると、クリスティアンは眉を下げたまま、口を閉ざして、それから「了解したよ」といった。

「着替えたり準備をするよね……えっと、乗せてもらっても良い?」

 私が部屋から移動しようと思い。車椅子を見つめると、ミアが軽く魔法を使って、私をそれに乗せてくれる。

「ありがとう、サディアスのところにいるね」

 自力で、車椅子を動かそうと思ったのだが、思ったように進まない。意外と力が必要らしい。

 ノロノロと進んで寝室に入る。

 中にはラベンダーの香りが充満していて、ベットの端の方で小さくなって眠っている彼を見つける。

 ……サディアスは朝に弱い。それに冷え性だし、多分低血圧なんだろう。ベットの横に車椅子を苦戦しながらも付けて、それから布団の下からサディアスの手を取り出す。

 眠っているのに手が冷えていて、今は魔力を使ってしまうと個人戦に影響するので、彼の手をもみもみとして体温で温めた。

「~♪」

 軽く鼻歌を歌いながら、もちもちとしていればサディアスは、しばらくして目を覚ます。ぼんやりとしていて、私をじっと見た。

 起き上がったり何か言うのではなく、ただ横になって、枕に頭を預けたまま私を見つめた。

 …………犬っぽい。

 謎の野性味というか、ぼんやりしていて、人間味のない感じが大型犬を想像させる。

 こういう可愛い犬をよく動画配信サイトをみていたのだが、こちらを見るだけ見て、体を触らせるだけ触らせてだからなんだ、というようにリラックスしている姿がよく似ている。

 まだ眠たいのかサディアスはゆっくりと瞬きして、それからまた眠った。まぁ、もう少しぐらい大丈夫だろう。寝ればいいさ好きなだけ。

 そして健康になって精神的な安定を手に入れればいい。

 暖かくなった手を自分の膝の上に置いて、スリスリと摩った。



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