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本当の罪……。3

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 せめて痛くない方法で死にたいな。
 
 櫛で髪を梳かしながら考える。一日学校を休んで考えたのだが、私の思考はそこで停滞していた。

 でも、コーディの仇だしな私、多分剣で一突きという訳には行かないだろう。私は彼に一度、滅多刺しぐらいにはされているんだ。

 髪にひたすら櫛を通す。顔がいつもより血色が悪くて、体調が悪そうだ。悪そうというか確かに体調が悪い。

 一日学校を休みはしたのだが、ほとんど眠っていない。私がどんな決断をしようと、いくら頭で考えようとしても、目を瞑って夢を見ると、赤い鮮血が飛び散る夢を見てしまう。

 それが怖くて、すぐに目を覚ましてしまうのだ。まるで子供だ。それでも、鮮明に思い出される、固くて冷たくて死にゆく記憶は、私の安眠を許してはくれない。それから謎に鳩尾が痛い。多分ストレスだと思われる。

 一日二日でよくここまで、不調が出るなと思うが……大丈夫だ、多分慣れる。こういうストレスが出やすい体質の人だって、前世の社会でしっかりと働く事が出来ていたのだ。学生である私が我慢できないはずがない。

「クレア、本日は登校なさるのですね」
「うん……やる事があるから」

 ヴィンスが荷物をまとめつつ言う。私は何度も髪に櫛を通しながら返す。すると彼は準備が終わったのか、少しこちらに近づいて来て、鏡越しに首を傾げる。

 ……ヴィンスには、固有魔法で、クリスティアンと手を打ったという事しか話をしていない。

 話をした方がいいとわかっていつつも、どうにも、言いづらいというか、言えないというか。多分、私のしていたことが恥ずかしいからだろうと思う。
 
 私のせいだったのに、私が解決しようとしていた。その事実があまりに滑稽で、馬鹿らしくて、それが恥ずかしくて言えないのだと思う。

 私が考えにふけっていれば、ぱっと髪をといていた手を止められる。

「今日は私がやりましょうか」
「…………あ、うん」

 ヴィンスはニコッと笑って、私も口角をあげて返す。彼はあっという間に私をいつもの髪型にしてくれる。

「準備も出来ましたし、参りましょうか」
「うん」

 言われて、部屋を出る。ヴィンスの隣を適当に歩きながら、どこのタイミングで、協力することを言おうかと考える。でも早い方がいいはずだ、準備というか色々あると思うし。
 
 そういえば今日の予定は……。と、ふと手を見るが鞄が無い。

「!……ヴィンス、私、鞄忘れて来た」
「私が持っておりますよ、少しぼんやりしているようですね」

 ……ぼんやり……してるか。うん、してると思う。

 寝不足と胃痛のせいだと思うし、考え事ばかりしてしまう。

「……ありがと」
「はい」

 ヴィンスから鞄を受け取って、とことこと校舎までの道のりを歩く、もう残暑も無い、最近は過ごしやすい気候だ。
 まだ、木々は色づいていないけれど秋の空気を感じるようになってきた。

「クレア、個人戦の対戦相手のお話は聞いていますか?」
「ううん」

 個人戦、私出られるんだろうか。

「運のいい事に、私たちのチームは全員がバラけていて初戦では当たらないようです」
「そっか、嬉しいね」
「ええ、ただ……クレアの初戦の相手がシャーリー様のようでして、チェルシー様やシンシア様が、どのようにしてクレアを勝利に導くかと作戦を練っていましたよ」

 ……シャーリー。リベンジはしたかったし、それに固有魔法を使えばそれなりに戦える相手だとは思うが、当日どうなっているか分からない。これまで沢山みんなと一緒に練習してきたのに結果を出せないのは残念だが、私は勝ったとしても特に意味はないように思う。

「ありがたいね、私も頑張らないと」
「……ええ」

 そんな話をしつつ学校に向かう。教室に入ると、昨日休んではいたもののいつもと同じ、空間に少し安堵する。

 シンシアとチェルシーは、既に居てすぐに私に気がついてくれる。

「おはようございます!クレア!体調はもう大丈夫ですか?」
「おはようございます、まだ少し顔色が悪いみたいですね、無理しないでください」

 この二人は私の騒動のことはまったく知らない。私がくじ引きの結果を見に行くのをすっぽかしたのも、昨日のお休みも体調不良のせいだということにしてある。

「ううん、大丈夫、ありがと」

 そう言えば、二人は少し間を置いて、それから私に合わせるように笑顔になる。何となく、元気が無いことは察されてしまったようだが、あまり、心配をかけるわけにはいかない。気持ちを切り替えようと、私から話題を振ってみる。

「ヴィンスから対戦相手の話聞いたよ、二人の相手はどんな人?」

 鞄を置いて席につく、我ながら上手く切り替えが出来たように思えて、自然な笑顔になれている気がする。

「私は、ディックのチームの……彼みたいです!」

 チェルシーは同じクラスに、初戦の相手がいるようで、少し探してからピッと指さした。ディックのチームはオスカーとディックの二人の主張が強いせいかほか、三人はあまり記憶に残っていない。

 本人たちもあまり目立つのを喜ぶようなタイプではないようで、チーム内では仲良くしているようだが、だいたい表立ってなにかする時にはオスカーとディックが引っ張っていっている印象だ。

「誰が相手でも、私は攻撃あるのみです!それがアタッカーの戦い方ですから!」
「ふふっ、私は同じディフェンダークラスの子でした、試合が長引きそうなので、攻撃の修練も増やして行きたいです」

 意気込むチェルシーにシンシアは少し笑って、自分の相手のことを言う。確かにディフェンダー同士の試合は、決定打に欠けることが多い。練習しておいた方が、有利に事が運ぶだろう。

「そう言えばヴィンスの相手は貴族の方で、それもアタッカーの中でもお強い方です!初戦は苦労しそうですねっ」
「はい……強敵ではありますが、よく存じ上げている方ですので、できるだけ対策を立てるようにするつもりです」
「知ってる人?」
「ええ……コンラット様です」
「あ、あぁ」

 ……ふ、不憫な……。

 確か、最初の試合の時に、ヴィンスがノックアウトしていただろう。ヴィンスは強敵だと言っているが、力関係は変わっているのだろうか。

「クレアは、シャーリー様ですよね! 同じリーダークラスですから、どのような戦い方をするのか知っているんですよね! ぜひ教えてくださいっ、対策を立てましょう!」
「う、うーん」

 そうは言われても、盾と剣を持っていて攻守一体型だよねと思った以外、あっという間に負けてしまったから、なんとも言えない。





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