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もっと早くこうして欲しかったんだけど……。3
しおりを挟むしばらく講義を受けて、ある程度進んだところで、皆で外に出る。実際に体を動かさなければ身につかない事もあるだろう、それに私もそろそろ昼下がりのちょうどいい陽気で眠たくなってきていたところだ。
「今回はグループ制で打ち合いをしてください。グループは三つです、その中で三試合行い、それぞれをこのプリントにまとめてください。プリントは私が回収します。きちんと人の試合を見て講評を書くこと」
「はーい」
実際に真剣を持たされてプリントも配られる。護衛さん達によっていくつかテーブルも用意されているのでそこで書けばいいのだろう。
何も言わないと言うことは多分魔法はありだ、簡易魔法玉を持ってきておいて良かったと思う。
配られるプリントには、三試合分の枠がきちんと書かれており、エリアルは意外と先生をしっかりやっているなと思う。
脳筋過ぎず、理論的過ぎないというか。これだってグループにして試合をする人間以外のグループメイト達に講評を書かせて、それを参考にこの後の個人の課題や問題を見つけていこうと言うことだろう。
一人一人をエリアル自身が見ていくよりもずっと効率がいい。それにリーダーチームは固有魔法も個性的で、主張の強い人間が多く揃っている。個別の能力の把握は大事になってくるだろう。
……ほんと、バイロン先生みたいな脳筋な人のクラスじゃなくて良かったと思う。ただでさえ筋肉のない私だ。きっと授業の度に死ぬ思いをする羽目になっていただろうと思う。
「グループも、対戦相手も自由ですが、自らと力量の近い者を選ぶように心がけてください。ではグループを作って」
言われて、隣に居るディックを見るが、彼は私とあまりに力量が合わないだろう。それに彼に頼りすぎるのは申し訳ないし、こういう授業の時に迷惑をかけるのは良くない。
「クレア……君と力量の見合う生徒なんていないと思うから、僕が同じグループになってやってもいいよ」
隣で聞いていた彼は、私の思考を読んだようにそう言う。ありがたいが、さすがにそういうわけには……と思い断るべきだと考えるがディックは続ける。
「それで適当なグループに入れてもらおうよ。君は組まない方がいい相手が多すぎる」
既にまとまり初めて居るまったく知らない子たちが居るグループの方へとディックは私の手を引いて歩いていく。
それは……多分その通りだ。一日でも平穏な日々を長く過ごしたいのなら、今は、ローレンスにも、ララにも、そして貴族派の人たちともあまり関わらない方がいい。
彼の気遣いにこくんと頷いて、私も動く。
こうして、導いてくれるのはとってもありがたい。私も何か返せるように強くならなければならないな。しかし、ディックも貴族派の話は想定していたのだろうか。
サディアスの問題から、貴族派の話は、もしかすると私が考えているよりも密な関係にあるのかもしれない。
私たちが適当なグループに声をかけようとすると、ふと、いつもの人好きしそうな穏やかな笑顔を浮かべて、ふっとクリスティアンが視界に入ってくる。
「クレア、同じクラスの好だ、私達と組まないかな」
相変わらずのキラッキラとした雰囲気とゆるっとした話し方、いつもの彼なのだが、その後ろには、今朝言われたばかりの要注意人物が少しの笑顔も浮かべずにこちらを見ている。
固まるディックに、私は一応関わらない方がいいだろうと思い口を開く。
「ごめんなさい、別の人と組もうと思っているから」
「もしかしてその浮浪者と組むおつもり?呆れましたわ」
「へ……」
「まあまあ、シャーリー。ディックも一緒にどうかなぁ、私はまったく構わないよ」
ディックは私の手を少し強く握る。
シャーリーの言った言葉の意味は、侮辱だろうと思うのだがなんで……私ではなく、ディック?そして、別に浮浪者じゃないだろ。どういう意味だ?
意味がわからないし、なんでクリスティアンはシャーリーと一緒にいるの?というか私、一度断っただろう空気が読めないのか?
感じの悪い二人に、私が怪訝な表情を浮かべているとまたこちらに来る人影がひとつ。
「その好で言うなら、ボクも同じグループになってもいいんだよね」
無感情な、透き通るような青年の声だ。そういえば私は、平常時の彼の声を聞いたのは初めてかもしれない。コーディは感情を大きく乱している時以外は、とても大人しく落ち着いた性格の青年に見える。
髪色だって神秘的で、深い藍色の瞳は、宝石のように輝いている。一言で表すなら綺麗だ。
あらぬ人物の接触に、私は頬を引き攣らせた。
「世捨て人が大きく出たものだね」
「あら、わたくしも同意見ですね。すこし希少な固有魔法を持っているからと言って、貴方が手を引いていような相手ではなくてよ」
言われているディックは黙り込む。彼はこらえるように唇を噛んだ。先程は、シャーリーの発言を窘めたクリスティアンも朗らかに笑っているだけで、何も言い返す事は無い。
世捨て人……浮浪者……。
何となく、彼らが言わんとしている事は分かった。夏休みの時に言っていた、この場所にいる人々の成り立ちから察するに、帰る国が無いということを詰っているのだと思う。
シャーリーの方はクラリスの事を慕っていた?らしいし、そこから来るクラリスへのリスペクト的な事で、そんな人が一緒にいるべきでは無いし身分を弁えろ的な話だろう。
ディックは、ふと私と握っている手を離そうとする。けれど、私はディックの手を繋ぎ直した。
「ディックは、浮浪者でも世捨て人でもないよ。ここが居場所として認められないなら、私だって世捨て人だ。こんな人間とグループなんて組みたくないでしょ」
せめて黙っている事、少しは彼らに迎合する事、それが大事なのは重々承知だ。
それでも、言わずにはいられなかった。こういう、いざと言う時に、私以外の人が傷つけられそうな時に、仲間を見捨ててなにが友達だと……思う。
「……」
「……」
二人は黙り、辺りにピリついた雰囲気が流れる。
重たい空気に、私は今更、緊張してきて、心臓が大きく音を立てる。クリスティアンはこの状況にも関わらず、フォローも一切無い。
コーディや初対面のシャーリーが何を考えているかも分からず、重たい沈黙に私は次に何を言ったらいいのか、まったく分からなくなってしまう。
……今まで、ここまで、こんな風に言われた事ないからつい言い返しちゃったけど、言っちゃダメな事だったのかな?ディックはいつもどうなんだろう。
でも言い返しちゃダメな事なんてあるのかな?だって、彼女らとはそもそも同じグループになりたくないのにさ……。
「そんなのは屁理屈ですわ。くだらないわね」
シャーリーは怒気を孕んだ声でそう言って、胸元からぱっと扇子を出して広げ口元を隠す。
「らしくないように思いますわ……クレア」
……それはシャーリーの言っている "らしい"は私のでは無いだろう。
コーディは何も言わずにこちらを見据えている。
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