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もっと早くこうして欲しかったんだけど……。2
しおりを挟むシンシアとチェルシーはもう既に登校しており、教室に入るとすぐにこちらに気がついて、ぱっと表情を明るくした。私は人が沢山いる教室が久しぶりで、宿敵というか、いい思い出のないコーディでさえきちんと登校している事が何となく嬉しくて、上機嫌に自分の席へと向かう。
「おはよー!二人ともっ」
「おはようございます!」
「おはようございます」
サディアスは少し後ろをついてきて、少し気まずそうに二人と顔を合わせる。私は昨日サディアスに会っていたが、その後サディアスはすぐに眠ってしまったので、二人は会えていない。久しぶりの再会に、チェルシーはとびきりの笑顔で言う。
「サディアスっ……良かったです!心配していたんですよ!」
「私も同じです。しかし驚きました。クレアがサディアスが帰ってくる気がするから待つと言ったのは当たっていたんですね」
「すまない。ありがとう、俺は無事だ。俺も君たちが大差ないようで嬉しい……確かに当たっていたな、俺も戻ってきた時にクレアがいた事には驚いた」
言いながら彼も席について、私に視線を送る。私がいたというか、ララと仲良くしている私がいて驚いたと言いたいのだろう。気まずくなって、サディアスから視線を逸らしつつ、笑顔を作る。
「ま、まあ、それはそれとして、昨日はどうだった?」
「ええと……相変わらずでしたよ!始業式は長いお話を聞かされて……あ、それから昨日は個人戦についての説明がされましたっ!それで今日のくじ引きの日に間に合わなければ、個人戦には出られないとの事で、私サディアスが間に合うかすごく心配だったんです!」
「くじ引き?」
なんのくじ引きだろう、というか私、そもそも個人戦がどんなものかあまりわかっていないのだ。それなのに説明を聞いていない。後でヴィンスに色々聞くことになってしまうので申し訳ない。
「個人戦はトーナメントなんです。クレア、そして対戦相手は、完全なランダム、くじ引きで決める事になっています」
後で聞こうと思ったが、ヴィンスがすかさずフォローを入れてくれる。
その言葉を聞いて、私の個人戦への理解度がまったくない事にシンシアも気がついたのか、こちらを向いて補足をしてくれる。
「ちなみに、くじ引きで決まった対戦相手は、半月後に公表されます。決まった相手の対策を立てるもよし、自分のペースで鍛錬もするも良しです。個人戦まであと一ヶ月です。一戦でも多く活躍するために練習あるのみです!」
いつになく気合いの入っているシンシアはガッツポーズをして私に笑いかける。私だって夏休みの間、頑張って剣術の鍛錬をしていたのだ。一回戦ぐらいは勝てるように頑張りたい。
同じくガッツポーズをして見れば、シンシアはふふっと笑う。夏休み前より少しだけ、大人びた表情に、うっと妙な感情が込み上げる。少女の成長というのは早いものだ。私も負けてられない。
「いいね、なんかやる気出てきた!一回戦だけでも勝つぞ~!」
「その意気ですクレア、夏休みでどれほど修練を詰んだか私に見せてください」
「よっしゃ、お昼休みに武器申請しとこ!」
「あ、私もっ!二人とお供させてくださいっ!私だって頑張って日々の鍛錬を欠かさなかったのですから!」
「……ヴィンスもどうせ行くんだろ?ならチーム全員で練習場広場でやれば良くないか?」
サディアスの提案に満場一致で賛成し、私達はお昼休みの練習を楽しみにしつつ、午前中の一大行事であるくじ引きをした。
謎の数字が出て、それを先生に言って終了という流れだったのだが、対戦相手が発表されるのが楽しみだ。
昼にみんなで交代で剣を撃ち合って腹ごなしと練習が終わり、午後はポジション別クラスだった。
私はディックと一緒に、そちらに向かって、途中クリスティアンやカリスタなんかと合流しつつ、西倉庫に向かう。
到着して、今日は座学からという事で、倉庫内に移動する。このクラスはそれほど人数が多くないので教室に収まるが、護衛たちも中に入るので正直威圧感というかむさ苦しい。
出席を取るために名前を呼ばれて返事をし、何となく当たりを見回すと、教室にゆるりとクラリスが入ってくる。その様子を見て、ララはうずうずといった感じにクラリスを見つめる。
ローレンスは、隣に居るララをなんだか少し機嫌良く見つめていて、久しぶりに見る彼もキラキラしていて眩しいなと思う。
「……うへぇ……クラリス様だ」
私の隣に座っているディックがぽつりとつぶやく。エリアルの教卓に飛び乗って香箱座りをする彼女に、ディックはいろいろな感情と葛藤があるらしく、眉を落として顔色を青くさせる。
「どういう感情で、見ればいいのこれ……」
さらにエリアルが彼女のことを撫でると、ディックは耐えきれなかったのか小さく独り言を言う。気持ちは分かる。私もあんまり彼らが目の前でイチャイチャするので、たまにクラリスをただの猫だと自分に暗示をかける時があるぐらいだ。
次々名前を呼ばれていく中、一人聞き覚えのある名前が呼ばれる。彼女は貴族派の中でもクラリスと仲の良かった相手らしい、そして、今、私に接触してくる可能性が高いのも彼女だ。
シャーリー・ド・セルデン。
地位は侯爵家令嬢で、クリスティアンと同じだ。ブルーの髪色をしていて、貴族らしいキラキラとした装飾を沢山身に着けている。
ヴィンスからの情報だから確かだろう。サディアスはあまり具体的な事は言ってこなかった。私がこの情報を知ったからと言って、今日の明日で何か起こることは無いと思うが一応警戒は必要だろう。
「それでは、今日からは個人戦に向けた、リーダーポジションの戦い方や戦術について、授業を行います。夏休み明け最初のリーダークラスの授業です。気を引き締めるように」
相変わらず、エリアルの声は聞こえづらいが外にいる時より幾分マシだ。
教科書を開いて、文字ばかりで頭の痛くなりそうな文章をエリアルの指示通りに追っていく。
そこには、細かな足運び、攻撃の型、魔法同士の相性など事細かに記述されている。
……エリアルとローレンスって兄弟なんだよね。よく考えると、こうやって兄が教職に就いていることについてはローレンスはどんな風に思っているんだろう。
ふとローレンスを見ると、彼は腕を組んで、教科書を開くことすらせずに、先程とは打って変わってエリアルに冷たい視線を送っていた。
それをクラリスは睨み返すようにローレンスの方をじっと見ていて、二人は微動だにしない。今までエリアルの小さい声を聞き取るのに必死で他人の授業を受けている姿勢など気にならなかったのだが、こんな攻防がおこなわれていたとは驚きだ。
エリアルを見る彼の表情でエリアルのことが嫌いなのだとわかる。
……今更だけどリーダークラスってカオスだよね。色んな場所の色んな権力者がいてややこしくて、色んな思いが交錯している。
私も、そんな中にいるのだときちんと自覚する必要があるだろう。私の立場は弱い、出来るだけ派手に動かずに、危険だと言われている相手には警戒をして、夏休み中の目的であった、ローレンスに直接話を聞くことが先決だ。
一応、ヴィンスにローレンスに会いたいという旨を伝える手紙を渡してもらっている。素直に来てくれるかどうかは分からないが、気長に待とうと思う。
ついでに、強くなっておいて、何かあった時に対処できるようになるのも大切だ。せっかく、こうやって授業があるのだから真面目に聞こう。
考え事をやめて、教科書に視線を落とした。
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