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クラリスの正体……。4
しおりを挟むそれに、貴族に都合の悪い人物の出身地って……ララの事?
急に嫌な不安が押し寄せる。けれど自分がどうする事も出来ないし、そういえば、彼のお父さんがもう死んでしまっているという話もいつだか聞いた気がする。
「ど、どうしよう……」
「な、ローレンス殿下の事を心配してる場合じゃねぇだろ」
「そう、そうだね。え、でも、サディアスどうなっちゃうの?」
「すぐにどうこうされる事はないと思うけどね。誰だっけ、編入者えーっと……」
「クリスティアンだな」
「そうそれ、多分そいつが取り計らうでしょ」
うんうんと頷いている二人を尻目に、私はまったくピンと来ない。あの好色男がなぜサディアスを助けるのだろうか。
私が疑問ばかりなのは、まったくどうでもいいように二人は話し出す。
「だがアンヴィル侯爵家は、貴族派だろ、正直、サディアスの立場は厳しいだろうな」
「せめてローレンス殿下の派閥ならね、何とかなったけど……って、それも無理か、言っちゃ悪いけど、元凶が幅を利かせててるし」
「そうだな。まったく、俺はあの女が嫌いだな。なんでもかんでも力でねじ伏せやがって、影響ってものを考えやしねぇ」
「僕は別になんでもいいけど、君が吹っ飛ばされたのは見てたから単純に少し怖いよ」
二人は私の分からない会話をしていて、派閥だとか、立場だとかの話もまったくピンと来ない。
ヴィンスを振り返ってみると、彼も難しい顔をしていて、話についていけて居ない私を安心させるように微笑んだ。
「サディアス様は……相当に苦労人という事です。クレアはアウガス貴族が、どう言った分布になっているのかご存知でしょうか?」
ふるふると頭をふる。するとヴィンスは少し考えてそれから、話し始める。
「クラリス様が失脚する以前でしたら、ローレンス殿下の派閥、それから、第一王子を押していた派閥の二つが存在していました、ただ、第一王子が姿をくらませて以降は、第一王子の派閥は衰退の一途を辿っていました、そちらをクラリス様は吸収するような動きをしていました」
「……うん」
「ですが、ローレンス様がララ様を引き立てたことにより、従来の家柄重視の政治状況が変化し、実力主義に王宮は移行しつつあります。その動きに反発したのが、クラリス様の吸収していた長子が王位を継ぐべきだと考えていた歴史の深い貴族達です」
こくこくと頷く。確かにララは貴族同士の序列など一切無視の叩き上げだ。ローレンスが彼女を選んだのだから、そういう流れになるのも自然だと思う。
「クラリス様は大貴族たちの旗頭になるような状態でララ様と敵対していたのですが、罪を犯し、貴族社会に地位はなくなってしまいました。そして残された貴族達は、現在特に動きはありません。そうして、貴族派閥と、ローレンス殿下の派閥が存在しています」
なるほど、リーダークラスの時に私の様子を伺っているのは、だいたいその人達だと言うことだろう。まったく厄介な人達と関わりを持ってくれたものである。クラリスは。
「そして、サディアス様はクラリス様とお知り合いだったと言うことからわかる通り、貴族派に属しています。先程の話にも出ていましたがララ様の出身地はサディアス様の領地です。そういった理由から貴族派の中でも、サディアス様は立ち回るのに大変苦労なさっていると思います」
「……それで……」
……それであの時。
彼はあんなに怒っていたのだろう。確かアナが学校を去ると言っていた時だ、ララは荒れていて、私の部屋で話を聞いた。その時のサディアスの様子が妙に引っかかったのだ。
それはよく覚えていた。
「何か心当たりが有るのですか?」
「うん、そうね……」
「……クラリス様は、そんな立場のサディアス様のところに良く訪問していらっしゃいました。あの方と今度話をする機会がありましたら、その辺を伺ってみても良いかもしれません」
「……そうして見ようかな」
ヴィンスの方からこういう風に言ってくれるのは非常に助かる。彼女がサディアスをどんな風に思って接していたにせよ、夏休みが終わるまでに話をできる機会があるかもしれない。
そういえば……私はクラリスと雑談らしい事はまったくしていない。彼女は私の中では何を考えているのか分からなくて、少し怖い相手だ。
それでも、私は、エリアルと話をしてみて良かったと思う。まったく理解できない、自分を害する人間の思惑や行動を理解しようと思うのは、とても苦痛だ。でも、エリアルがあのローレンスと兄弟であると言うこと、クラリスを愛しているという実感。
それがあるのとないのとでは、やはり、接する感情も理解度も変わってくる。
クラリスは原作によく登場していたのにも関わらず、分厚い仮面を被っていて、ただ本心を隠すのが上手いと言うこと以外は、本来の彼女というものはよく分からなかった。この騒動に関すること以外でも何かクラリスについて知れることがあるといいな。
考え込む私の肩にディックが手を触れる。
顔をあげると、少し心配そうにこちらを見ていた。
「そんなに、落ち込むなよ。どうせ帰ってくるって、ね?」
「うん」
「そうだぞ、そんな心配より、お前は訓練でもしてた方がよっぽどサディアスの助けになんだろ」
オスカーにも励まされて、そしてまぁ、確かにと思う。その通りだ。
私がサディアスを心配して気を揉んでいても仕方がない。それにシンシアやチェルシーとも、一回り大きくなってまた会おうと約束しているのだし。
食べ終えたサンドイッチの包み紙を丸めてきゅっと拳を握る。
「うん!さて、今日から特訓再開しようかな!」
「お供します、クレア」
立ち上がった私にヴィンスがそう返し「僕らも一緒にやるよ」とディックが言った。
長い長い夏休み、特訓の日々はどんどんと過ぎていった。
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