上 下
139 / 305

夏休み早々……。3

しおりを挟む



 死というワードに納得が行く。エリアルに協力しているということは私の中身に彼は気がついているのか、もしくは教えられているのだろう。
 だから、殺されてしまうかもしれない事を憂いて、話をしに来てくれた?

 ……でも、それだと、少し違和感がある。ディックは私のことを一度、クラリスと呼んだ事がある。
 それなのに、クラリスが魔法を解くことによる私の死を知っている……?もしくは、単純にそれを知らない、けれどこの体が殺される可能性があるという事?

 少し難しい話になりそうな気がして、そして、もし私の正体を知らなかった場合には、どうするべきか、それも私は考えなければならないだろうと思う。

「……そっか」
「殿下がやろうとしていることは……」
「待って、ディック」
「なに」

 早速、話出そうとした彼を制止する。

 少し不服そうに、ディックは私を見て、私は何となく笑顔を作った。無理はしなくてもいい。

「体調が悪いでしょ……回復してからにしない?それに、ただでさえオスカーもいなくて調子が出ないんだから……無理しないで」
「そんな事……気にしなくても」
「それに、最近ディックとあまり話もできなかったから、ね、回復するまで数日間一緒に過ごさない?」
「……」

 私の言葉にディックは少し怪訝そうにするが、こくんと頷いた。
 その方が良い。この子はまだまだ子供で、弱っている時もあって、そんな時に、わざわざこんな話をせずとも良いだろう。

 それに、この話自体とても大切な話で、そしてすごく繊細な問題だ。予想外の事実を教えられて、私はそれでもディックを尊重して話をできるか分からない。

 だからせめて、回復してからちゃんと話をした方がいいと思った。

「良かった。……それに、ディックが辛そうなのに私が無理をさせたって知られたら、オスカーに怒られそうだしね」
「……別に、あいつは……この事も、色んな思惑とか、なんにも知らないよ」
「あれ、そうなの?」
「うん……だって、ややこしいし……物騒だろ」
「確かに……そうだね」

 ディックは少し表情を暗くして、自分の膝を引き寄せた。

 ……言えない事が多そうで……大変だね。

 あれだけ仲がいいのに、言えないなんて、ディックは辛く無いのかな……違うか。辛いけどそれ以上に、巻き込んで彼に何かあったらと考える方が辛いのかな。

「お互い、色々あるね……ねぇディックは、巻き込んで危険に晒すのが怖いの?」
「怖くないし、どうでもいいし」
「……そっか」

 彼の反応で、怖いし、どうでも良くないことはわかる。でも、そんな厄介事であっても、オスカーであれば、全然まったく不安にも思わなさそうだと思うのは私だけだろうか。

 彼ならむしろ、言わない事の方が怒りそうだ。

「言っちゃえばいいんじゃない」
「無責任なことを言うなよ……君は今、自分がどんな状況にいるのか分からないからそんなことが言えるんだ」
「……そうかな。ディックがどういう立ち位置だか分からないけど、私は、危険だからこそ頼って欲しい、ってオスカーは思うと思ってるよ」
「酷い思い違いだね!」
「そのぐらい、貴方達は仲良く見えるってこと。夏休みだって、オスカーについて行けば良かったのに」

 帰らないでと言うのは、相手の行動をねじ曲げてしまう行為なので良くないと思うが、ついて行きたいというのは、いいんじゃないかと思う。それぐらい、ディックとオスカーは大体そばにいて、ディックはオスカーがいないとダメな事が多いのだ。

「っ、…………そんな事するかっ、僕は今までも一人でやってきてたし!」

 ディックは少しむきになって怒って、フンッと顔を逸らす。その反応を見て思う。

 ……あれ、もしかすると。

「ついてくるっ?て、聞かれた?」
「……聞かれてないっ!居てやろうかってあいつが言ってきたから、追い返してやったし!」
「っ、え、ほんとに?!寮に残ろうかって!?」
「そうだよっ、まったく、僕を見くびってさ!」
「見くびってないじゃん、現にさっき倒れてたじゃん」
「うう、うるさいっ!!」

 ギャンと彼は怒鳴って、それから私の布団に潜り込んで籠城を決め込んだ。
 
 私が思っていたよりも、二人はとんでもない仲良しだったらしい。なんというか、笑ってしまって、しばらくディックをいじり倒し、帰ってきたヴィンスと皆でご飯を食べた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます

葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。 しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。 お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。 二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。 「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」 アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。 「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」 「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」 「どんな約束でも守るわ」 「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」 これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。 ※タイトル通りのご都合主義なお話です。 ※他サイトにも投稿しています。

私の婚約者は6人目の攻略対象者でした

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。 すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。 そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。 確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。 って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?  ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。 そんなクラウディアが幸せになる話。 ※本編完結済※番外編更新中

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。 女神『はい、あなた、転生ね』 雪『へっ?』 これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。 雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』 無事に完結しました! 続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。 よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

悪役令嬢の居場所。

葉叶
恋愛
私だけの居場所。 他の誰かの代わりとかじゃなく 私だけの場所 私はそんな居場所が欲しい。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ※誤字脱字等あれば遠慮なく言ってください。 ※感想はしっかりニヤニヤしながら読ませて頂いています。 ※こんな話が見たいよ!等のリクエストも歓迎してます。 ※完結しました!番外編執筆中です。

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

処理中です...