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新章開幕……? 2
しおりを挟むエリアルが言い負かされたことによって、やっと彼女は話をする気になったらしい。
まったく暖かくない紅茶が目の前に置かれて、クラリスはぺろぺろとそれを舐める。そして、元の席に戻ったエリアルはその彼女の背中を愛おしげに撫でた。
私と向き合っていた、狂人めいた彼の雰囲気は幾分和らぎ、ただの猫好きの教師のような風になる。
この変わりようは気合いの入れ具合か何かなのだろうか。
『クレア……乱暴をした事、確かに、怒りを感じて然るべきだわ、そして、わたくし達に協力できないというのも理解ができるわ、けれど、傲慢はあなたもね』
「……どういう、意味?」
『どうもこうもないわよ。この世界はね、ままならないのよ。きっと、あの方の事を選んだことを後悔するわ。変えようのない事実に打ちのめされる時が来るのよ』
「……」
『自分が何も知らず、分からないと言う事を理解しているのならば、その場の感情に流されない事ね。うふふ』
クラリスは優美に笑う。
『わたくしから言えば、裏切りをしたのに、のうのうと生活をしていたのだから、わたくし達に簡単に捕まる方が悪くてよ』
そう、言われてしまえばそれまでだ。クラリスの言葉には矛盾がない。そして、私を説得しようという気もない。
言われた事を無視してローレンスと関係を持つことを選び、クラリスの言った力以外を手に入れて、私自身には力がない。それがあれば今回だって抵抗ができただろう。ローレンスの事を選ばなければ、そもそも、私達二人はこんな仕打ちを受けることもなかった。
受け入れ難いが、仕方が無いことはままある。そんなことばかりだ。私がエリアルを言い負かしたところで、私がスッキリするだけで状況は変わらない。
『時間をあげるわ。クレア、今日のことはお互い水に流しましょう?貴方の言葉を忘れてあげますわ。いつでも、私達に協力を仰いでも構いませんのよ』
「……」
水に流す、は被害者だけが言っていい言葉のはずなのに反論が出てこない。ここで意地を貼るのはかっこ悪い気がして口を閉ざす。
先程私は何も知らないといったばかりだ。それなのに半ばローレンスの肩を持つような発言ばかりをしてしまっている。
『けれど、忘れない事ね。貴方の固有魔法、担任の教師にも言っていないのにどこから私達に漏れたのかしら?』
クラリスは歌うように軽やかに言う。私はそこまで考えていなかったのだが言われて見れば、確かにそうだ。エリアルは私の魔法玉に魔力を注いでいた。けれど報告しているのは、ヴィンスの助けによって回復力が上がるということだけだ。
それなのに、ヴィンスをダウンさせ、エリアルが魔法を利用しようとしていた。
私の固有魔法を知っている人間は限られている。情報を流した人間に心当たりはあるが、じゃあ、やっぱり、私がローレンス側に付けば彼、もしくは彼らとも敵対するということなのか?
クラリスは続ける。
『貴方があの方を納得させた方法、それが貴方を完全に消し去る方法だと言う事、それがわたくしには簡単にできること……くれぐれもよく考えて行動をする事ね』
クラリスは私を完全に黙らせる方法をしっかりをわかっていたようで、更には魔法を使ってみせる。
瞳に灯る光。それは魔法の光だ。クラリスという存在は、魔法を常に使っていることによって確立されている。
その魔法が失われた時、もしくは彼女が魔法を解いた時。
私はこの世界から消えてしまう。
……でも……それでも、私は私が選んだ、何者かになりたいの。
心の中で呟いて、クラリスを見つめる。底知れない、測れない彼女に不安を悟られないよう少し睨む。
「わかってる……わかってても……簡単には譲れない」
『そう……もういって構わなくてよ、クレア』
「えぇ、そうさせてもらう」
立ち上がって、ヴィンスの魔法玉から魔力を奪い魔法を使う。彼を抱いて部屋を出た。不安で恐ろしかったけれど、今はただ、ヴィンスを休ませる事を一番に考えて寮への道のりを走った。
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