上 下
127 / 305

仲直りって大事だね。 6

しおりを挟む



 無心でヴィンスに打ち込む。真剣だが、私が剣を振るったことで、ヴィンスが簡単に傷つかない事を知っているので、物怖じせずに打つことが出来る。

 ヴィンスが私に攻撃すると、途端に試合が終わってしまうので、今日は攻守交替制での稽古だ。

 私が攻める番なので、ヴィンスの隙に見える部分に、無理のない範囲で打ち続けるが、金属の接触する音が鳴るだけで、どんなに強く打ち付けても攻撃は与えられず、いなされたり受け止められたりするだけだ。

「クレア!一撃に力を込めすぎです、必ずダメージを与えられるという時に力が込められなくなってしまいますよ」
「うんッ……」

 でもその、必ず当てられる時と、今のこうして一方的に攻撃をしている時の違いが分からないのだからしょうが無い。

 でもその時が来るまで温存した方がいいと言うのは最もだ。
 少し肩の力を抜いて、遠心力で剣を振るう。

「うわっ」

 すると手からすっぽ抜けて明後日の方向に、剣はぶんぶんと円を描きながら飛んでいく。
 それを瞬発的に魔法を強く起動したヴィンスが取りに言って、着地点に到着し器用にパシッと掴み、しっかりと持ち手部分を掴んでキャッチしていた。

 私はナイフ投げの大道芸でも見たような気持ちになって、凄いなぁと思い少し遠くにいたヴィンスに笑いかけて、手を振った。

 個人的には、療養中と偽って、二人だけの秘密の特訓の最中のつもりだったのでまったく周りを警戒をしていなかったのだが、ガツンとなんだか鈍い音が響いた後に視界が勝手に空を向いた。

 なんだか体がフサフサしている、というかふわふわしていて、頭がグラグラする。
 理解不能な状況に、動く視界だけで何とか、状況を把握しようとすれば、信じられないものを見る目でこちらを見ながら、手を伸ばすヴィンスが見えた。

 こちらも手を伸ばそうとするのに、ろくに体に力が入らない。

 私は力尽きるように、意識を失った。


 目が覚めると、ものすごく体が重たくて、局部麻酔がところどころ施されているような鈍い間隔だけがあった。

 目が覚めたと思ったのは、意識が覚醒したからである。実際は意識が覚醒しただけで、正しくは目は覚めていない。目を開けることができないのだ。アイマスクかガムテープか、何かよく分からないもので目の周りを覆われていて、目が開けない。

「あ、……ン?……ん?」

 今すぐにでも、この不快な目の周りを覆っているものを取り外そうと腕を動かすが、謎に腕が背後にあって、肩の関節が痛い。感覚が全体的に鈍いのは、どうやら苦しい体勢で拘束されているせいかもしれない。

 腕が動かせ無いとなれば足だ、グッと力を入れると、やはり足と足をピッタリくっつけるように拘束されていて、心臓の音が強くなる。

 ……な、なん、だろ、これ。

 どういう事なんだろう、え?意味がわからない。

 ベットに擦り付けて、目隠しを取ろうともがくが、きつく拘束されていて、まったくズレない。
 睡眠用に使うアイマスクとは、用途が違うものなんだろう。腕も足も硬い何かで拘束されていて、背筋が凍る。

 後ろ手である事がまずは問題のような気がして、こういう時はよく分からないが、腕を拘束されたままでも、自分の腕のあいだを体を通すことによって、手を前に持ってこれるのじゃなかったっけと思う。

 ……でも、無理じゃない?だって、どう考えても体そんなことにならなくない?

 絶対に使えない豆知識に腹を立てつつ、モゾモゾと動いてみる。何か柔らかいベットのような場所にいるということは分かるが、感触から他の事は読み取れない。

 ……結局、なんなの?移動してみる?今の状態、怖すぎるし。

 なにかしていないと、大声で「誰か!助けて」と叫び出してしまいそうで、それだけパニックになりそうになりながら、体を転がして、うつ伏せになり、百トリ虫なさがら、腰を曲げて体を前に出した、少し前に進めた事に安堵しつつ、もう一度、足を引こうとすると、カシャン!と何かが突っ張るような感覚がして、足がどこかに繋がれているということを理解する。

「ッ、う、……はっ、う、ッ!誰かっ、いませんかっ、誰か!」

 咄嗟のことに蹲るように足を引っ張りながら、大声をあげる。でも、誰かと言っても、こういう場合相場は決まっている。

 そこにいるのはこの拘束を施した人物だ。

 ガタ、と、椅子を引いたような音がして、本当に誰かがいた事が逆に恐ろしくて体がガタガタと反応する。手足が冷えて、その見知らぬ誰かが恐ろしくて仕方がない。

 すぐそこにその人がいる気がする。絶対に良い方向には進まないとわかっていつつも、不安を解消するために口を開く。

「あ、ああの、なんか、なんか、縛られってて」

 見えないのに必死にその誰かの方に視線を向けるつもりで喋った。
 カチャカチャと何かおもちゃみたいな変な音がして、ジトジトと汗をかきながらガタガタ震える。

「怖い、から、はず……っ、ぐんっ、ゆ、ンン!!」

 変なものを突然口の中に押し込まれて、パチ、パチと、スナップボタンを止めるような音がして、言葉を発する自由を奪われる。

「ン゛っ、ンン!!」

 抗議するように、今更叫び声をあげたが、口の中にこもるばかりでろくな声量にならない。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます

葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。 しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。 お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。 二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。 「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」 アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。 「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」 「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」 「どんな約束でも守るわ」 「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」 これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。 ※タイトル通りのご都合主義なお話です。 ※他サイトにも投稿しています。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

私の婚約者は6人目の攻略対象者でした

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。 すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。 そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。 確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。 って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?  ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。 そんなクラウディアが幸せになる話。 ※本編完結済※番外編更新中

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

悪役令嬢の居場所。

葉叶
恋愛
私だけの居場所。 他の誰かの代わりとかじゃなく 私だけの場所 私はそんな居場所が欲しい。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ※誤字脱字等あれば遠慮なく言ってください。 ※感想はしっかりニヤニヤしながら読ませて頂いています。 ※こんな話が見たいよ!等のリクエストも歓迎してます。 ※完結しました!番外編執筆中です。

悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。 女神『はい、あなた、転生ね』 雪『へっ?』 これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。 雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』 無事に完結しました! 続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。 よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。 ここは小説の世界だ。 乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。 とはいえ私は所謂モブ。 この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。 そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?

処理中です...