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仲直りって大事だね。 3
しおりを挟む私が前世で原作を読んでから、死んでここに来るまでの時間的な問題や、色々な歪みが存在しているが、私がこの世界に記憶を持ったまま、渡ってきた以上は、もしかすると、この世界を観測した人がいて、その人が作者となって、前世の世界で本を出したという説だ。
そう考えると、この世界は、前世で都市伝説なんかとしてよく、面白がられていた、パラレルワールドの世界なんかでは無いかと考えられる。
つまりは作者の意思など関係ない。私たちを操る大きな力などない。
どちらが正解かは、分からないけれど、前者であるならば、ララに関わるということは、危険を伴う。
けれど、ここまで、自分も手を出して関わってしまっている以上、違うかもしれないと、まずはそう思ってララと関わるべきだろう。でもこの関わらなければならない状況自体が逆に、大きな力に動かされているような気もしなくもない。
考え出すとやっぱりキリがなくて、思考を打ち止める。
……まぁ、いいか。ララの退屈なんか、正直今は、どうでもいいはずだ。アナが学園から居なくなるのだろう。その話をしに来たはずだ、私がクラリスだろうがクレアだろうが私だろうが、ララはそんなに気にしないだろう。そして復讐なんかもする必要性がとにかくない。
「まぁ、いいけど、とにかく私はクラリスで今はクレア、私は私、それだけ。復讐する気もなければ、ララを楽しませるつもりもないから」
「…………そう、退屈ね」
「うんうん、それで?アナと昼に喧嘩していた事でしょ?」
「そうだけど?」
「相談するんじゃないの?」
「するわよ」
「はいはい、どーぞ」
私が言えばララは、またふくれっ面になって、それからぽつりぽつりと話し出す。
「私の、魔法学校時代よりずっと前からの……グローヴにいた時からの親友が、学園を辞めるって言い出したの」
グローヴは、ララの出身地方だ。どこかの貴族の領地だと思われるが、そういった領主のような人物は原作には登場していない。
「……はぁ、…………すまない。やはり俺は君の話を聞きたくない、帰らせてもらう」
突然、サディアスは少し乱暴に立ち上がった。彼がこういったことをあまり面識の少ない相手にするのが珍しくて、私は呆然と見ていたが、ララはサディアスの手を引いた。
「どうして!?……まだ、話し始めたばかりなのに」
「すまない。場の雰囲気を悪くして悪いとは思うが、失礼する」
ばっとその手を振り払ってサディアスは部屋を出ていく。私は彼の目に宿った怒りの色が少し怖くて驚いた。あんな風に怒ることもあるのだと。
「…………私、彼に何か、してしまったのかしら」
「……」
唖然とするララの問いかけに、私も、事情が分からずに、何も答えることはできなかった。
ふとヴィンスが立ち上がり、サディアスのお茶を下げて、全員分新しいものを淹れ直す。その作業中にヴィンスは口を開いた。
「……私は、サディアス様とララ様の折り合いが悪い理由に検討が着きますが、どうしようもない事です。いずれ時が来れば露見する事実ですので、今はお二人で、アナ様の事をお話してはいかがですか?」
……え?今聞きたい。私はララのことより、どちらかと言うとサディアスの方が心配で知りたいのだが。そう思ってヴィンスを見るけれど、言われたララは「そうね」と頷く。彼女はあまり気にならないらしい。
せっかく話出したのに、これ以上、遮るのもなんだか可哀想に思えて、口を噤んだ。
「彼女はアナと言って、昔から、自己主張のあまり強い子じゃないのよ。それでも、魔法使いになりたいっていう、私と同じ夢があって……」
ララは表情を曇らせたまま続ける。
「やっとここまで来たのよ。それなのに、アナったら模擬戦の結果が悪かったっていうだけで、諦めようとするなんて……そんなの私は納得行かない」
大方、やはり、アナから聞いていた事であり、それをただララの口から直接聞いただけなのだが、ララの言い方に少し引っかかる。
「納得行かないって言ってもさ、アナが決めた事なんでしょ?ララが口出しするようなことでもないと思うけど」
「……違うのよ、あの子は、本当は学園を辞めたいなんて思ってないはずだわ!」
「思ってるって、喧嘩のあと、アナと話したけど言ってたよ」
私が言うとララは「え……」と消え入りそうな声を出す。
「勘違いしているって、アナも言ってた。……私も、自分の道は自分で選べる歳だと思うし、友達の進路に寂しいからって口出しするのはあまりいい事じゃないと思うよ」
思った事をそのまま口に出すと、ララはグッと眉間に皺を寄せる。それからお茶を飲んで、ティーカップを両手でぎゅっと握る。
「違うの、そういう事じゃなくて……」
「じゃあどういうこと……?」
「ただ、アナは、私が言ってあげないと、人に気を使って上手く話ができない事も多いし。だから今回の事だって……アナは」
「模擬戦で足を引っ張った事は関係なく、辞めるって決めてたみたいだし、むしろ選択出来るようになったんなら喜ばしいぐらいじゃない」
「違うんだって、アナは学園で出会った今のチームメイトに遠慮してるだけで」
「遠慮しているって言ってたの?」
「それはっ……言っては無いけど」
私が、問い詰めるとララは顔を歪めて、怒っているような表情で私を見つめる。認められないんだろう。
ララとアナとの仲は知っている。いつも一緒で、アナはララの事をいつも頼りにしていて、一見アナの方がララに寄りかかっているようにも見えるが、この話を聞いていても思うが、実際は頼られることによって安心を得ているのはララの方だ。
……まぁ、歳も歳だし、自立は大事だよね。
ちらっとヴィンスを、見れば、彼はやはりさほど興味が無いのか、場違いにニコニコしたままララを見ている。
「ッ、貴方にはっ、分からないのよ!私のアナの事を大切に思っている気持ちなんて」
「ん、そうだね」
「私が、あの子を縛っているって言いたんでしょ!」
「言わないけど」
「いいえ思っているんでしょっ、だって、他の子達も、言ってたの!……ッ、アナの事、場違いだって!」
それは分からないが、そんなにヒートアップしないで欲しい。ララはすぐに手が出るのだから、自重した方がいい。今回のは完全にララの独りよがりだ。多分、正当性が自分に無いとララだって気がついている。
だからここまで怒るのかなとも思うけど。
「でも、……っ、でも、仕方ないじゃない。本当に……昔からの付き合いはあの子だけなのっ、大切な子なの!」
「……」
「クレアには分からないかもしれないけれどっ、合ってないよっ私だって、こんな有名な学校に合ってない!!」
「?」
「皆、変なのよっ!貴族のお友達なんてつまらない!!私はただっ、ただ……」
自分で話しているうちに、認めざる追えなくなってしまったらしく、ララは学園の愚痴を言い始めた。今は環境も変わって、アウガス魔法学校の知人も少なく、そんな中、メルキシスタ、アウガスの二国から貴族を中心に集まっているこの学園がララにとっては、居心地が悪いらしい。
原作でも、貴族連中と彼女の折り合いはめっぽう悪かった。その最たるものがクラリスだった訳だが。
「誰よりも強い魔法使いになりたいだけなのにっ、なんで、こんなにっ…………こんなんじゃっ……っ」
「ララ」
「っぅ……う……うぐ」
彼女はグッと唇を噛んで、ぷるぷると震えながら涙を流した。
貴族が多く、大人になるにつれて増えていくしがらみに、無邪気で我の強いララは随分と頭を悩ませていたのだろう。
ここに来て一番、信用していた子、それも、いつまでも自分のそばに居てくれると信じてやまなかった子が居なくなるとなったら、こうもなるだろう。
「ンくッ…………ひっ……ひうぅ」
本当に子供みたいな泣き方をするので、思わず立ち上がって対面に座っていたララの方へと行く。
その大きな瞳からは、大粒の涙がこぼれ落ちて、テーブルを濡らす。パタパタ音をたてて落ちる涙の雫が、宝石のように綺麗に見えて、彼女の眦を指で拭った。
それから何となく背後から抱きしめる。
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