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頑張ったんだけどな……。2
しおりを挟むそもそもの前提が間違っている。この行動の意味も、先程お茶をこぼしてティーカップを割った意味もある。ローレンスは怒っているのだ、私が、彼の寂しがりに嘘でも付き添ってあげないから、怒ってる。
深夜にわざわざ来るという事も、私に自分から来て欲しいと望んでいる事も、すべてローレンスが寂しがりだと言うことに起因するのだ。
ならばそれを刺激しないのが一番良い方法、それを実践していたのがクラリスだってわかっている。それでも……それじゃあ、この人なんだか、ずっと嘘でしか接されない本当に寂しい人のままなのではないかと、考えてしまって。
……だから、こんな感じになってしまって。
でも寂しそうだからといって、構ってあげたり、彼が望むように、感情を向けるだけでも何か違う気がして。
ぐるぐると考えるが、いっこうに今の状況を打破する良い言葉は浮かばない。
なんとか集中して、ローレンスの事を考えているが、こっちの通したい要求の事もあるし、お腹は苦しい。
足をバタバタと暴れさせて見るが抵抗にならない。
「何故こんなにまで、君に辛く当たってしまうのか私にも分からなくてね」
……多分それは、私に図星を突かれてるからじゃない!!
「ヴィンスの事で君が報告に来るのを待っていてあげたのに、いっこうに訪れない、君は誰に命を握られているのかわかっていないんだろうね、今はどうかな」
「わかってるってば、ぐぅ」
「そうか、それなら、君は自殺願望でもあるんだろう。もう少し世渡り上手になってからまた産まれてくる事だね」
この人、自分の行動の意味を本当に理解していないのだろうか。そして怒っている時は大概こうやって私の所有権を主張し出す。
いつもだいたい同じことしてる自覚ってないの?!
それとも、地雷を踏みまくって接する私が悪いの?!
「ッぐっ、あー、頭に血がのぼるっ、う」
「……馬鹿みないな声だね」
「っ、誰のせいだとっ!」
反射的に答えたが、そうなのだ、私は基本的に悪くないと思う。だってこんな幼稚な性格している方が悪いんだ。そのくせに、やけに外面がいいし、優秀だと名高いし、なんだか前世にはびこるモラハラ男のようだ。
ローレンスは少しの沈黙のあと、私に問いかける。
「…………少し、私の思い通りになってみてくれないかな」
「ッ、いいよっ」
拒否権は無さそうだが、あえて答えてみた。
「落ちてみてくれないかな?私はそうすればやっと君への感情の整理がつくような気がするんだ」
「っ、無理っ!」
「では、落とされないように頑張ってみるといい」
グイッと押されて、足が浮く。
まだ夜の暗闇の中なので、地面は見えないが、真っ暗闇に落とされそうだということだけで怖かった。
私はローレンスとそのまま、命懸けで、口論を続けた。幸い寒い時期では無かったので、風邪は引かないと思うが、何せ、腹が痛くて、背筋がちぎれそうだったのは言うまでもない。
ローレンスに木のコップで、ジンジャーティーをいれた。それを乱暴にテーブルの上に置く。
「今度はこぼさないでよね」
「……どうだろう」
ぽつりとローレンスはそう言って、それから、コクリと飲む。
私はまた、落とされそうになるのはごめんなのでいつでも逃げられるように立ったままローレンスを見つめる。
気まぐれに私を突き落としにかかったローレンスだったが、しばらく問答を続けると、ふと、手を離し、それから勝手に部屋の中に戻った。
なにがなんだか、色んな場所が痛んで、しばらく泣いていたのだが、部屋に戻り彼の顔をみるとメソメソしていちゃこの人に食い物にされるだけだと思い直し、お茶を淹れ直した。
木のコップは嫌がらせである。
「私は……君が嫌いなのかもしれないな」
憂鬱そうにローレンスは言った。その言葉だってかまって欲しいから言っているだけだ、でもそれを指摘すると怒って、また乱暴をする。
……まったく難儀な人だ。本当に困った。
こんな人から逃げたくなるクラリスの気持ちが痛いほどわかる。でも目の前にいて、色々握っている人なのだから私は逃げようもない。
言い方を考えて発言するしかないだろう。
「……はぁ、ローレンス。私ね、乱暴する人の思い通りにだけはなら無いって前世から決めてるの」
「それが私とどんな関係があると言うのかな。乱暴は、確かに他人にする事は避けるべきだが、君にであれば、私は暴力を振るっていいしなぶっても、問題がない」
大ありだ。そんなわけない。私自身がそれを問題視しているのに、なぜそう言いきれるのか。
でも乱暴する人が嫌いだと言ったら、ローレンスは私に本当に乱暴な事をして真偽をたしかめ、そしてそれを実行して、私が鬱々としたり怯えたりするのを見て楽しく寂しさを紛らわすのだろう。
……ああ、もう、難しい。面倒くさい。
そもそも!今日、私はそんなことを解決するつもりは無いのだ、ローレンス自身のことなどどうでもいい。いや、良くは無いんだけど今は別なのだ。
ヴィンスが自由な意志を得ることに同意が欲しいんだ。彼を自立させられる最後の一手はローレンスからでないと貰うことが出来ない。
サディアスは、あくまで私の安全のために、穏便にすませる方法を考えてくれたが、私の頭にあるのは、端からヴィンスの事だけだ。
一番重要な事は、本当は一つだけなんだ。だからその一つの目的に達せるように、ローレンスが納得してくれるだけの話をしようとしていた。
でも実際、彼は思ったよりも色々なものをこじらせていて話が進まない。
「…………そうだろう?」
そんな事を同意すると本気で思っているのだろうか。私は、都合の良い人間にはなら無いって決めている。ふいっと顔を逸らす。また、引き倒されるかもしれなかったが、そう決めているのだから仕方がない。
もしかすると、私は、ローレンスとものすごく相性が悪いのかもしれない。
サディアスやヴィンスのように、柔らかく対応してくれる人には、それなりに上手くコミュニケーションが取れるのだが、シンシア達とは対立してぶつかったし、オスカーとも喧嘩をした。
よくよく考えると私のこの性格だって、ある種こじらせてるとも取れる。人の性格に正解なんか無い。わかっていつつも、ここまで噛み合わないと少し落ち込んでくる。
「違うのか…………君は……君も、奴の方がいいのだろうね」
……やつって、誰だ、意味深な事を言われても困る。
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