61 / 305
前途多難……。13
しおりを挟む……私がジョーカー。
異端な存在。なんとなく中二病的なニュアンスのある言葉だが、妄想や設定ではない。
確かに、私が内輪の問題に目を向けすぎていて、放置している事はある。
猫になったクラリスの事、原作の続きの事、ローレンスの目的、本当に私は魔法使いになれるのか、チーム以外の同学年に私がどう映っているのか。未だに続いているいじめ。
問題は山積みだ。どこから何が動いていけばいいのか分からない上に、間違えればいつ私は排斥されてもおかしく無い。
「……それでも、私は、一人一人の感情とかそういうものを優先したい」
カードを手に取る。道化が書かれたそのカード。ババ抜きでは最後に持っていた人が負ける。まぁ、でも切り札とも言えるし、ポーカーではワイルドカード、なんでもなりたい者になれる縛られないカードだ。
願ったり叶ったり。立場が無いということは、なんにでもなれるという事だ。
「……俺は……知らないからな。やれる事はやった」
「うん」
「邪魔をしたのは君だ。俺は悪くない」
「そうだね」
私がジョーカーのカードをヴィンスに渡すと、ヴィンスは手早く、カードをマーク別により分けて、数字順に並べる。几帳面だなと思いながら、私はサディアスの方を見ずに言う。
「シンシアの感情も、チェルシーの感情も、無視したくない」
「真っ向から向き合って、それで傷がつくのは君だけだろう」
「ついてないよ。……それに、サディアスの感情も私は無視しない」
少し自信があった。サディアスが無理をして、最善策を取ろうとして取り繕ってることを察せている自信だ。
私の言葉に、彼は怪訝な表情をした。
「サディアスは繊細だよ。悪役は似合わない、貴方は一歩引いて物事を見てる分、色々気苦労が多くて、立場のある人だから一つの行動をするのだって決意がいるんでしょ、責任感も強くて真面目」
「君に俺の何がわかる」
「わかるなんて言ってないよ私、私の中のサディアスはそういう人間だってこと。だから、シンシアをああやって追い詰める事で、どうなるかもわかっていた。わかっていてもその方が利点が大きいと考えて、サディアスは自分の感情を無視した」
「……」
サディアスは怒るでもなく、また眉間に皺を寄せる。
「本当は、あんな事言いたくなかったんでしょ」
今日は俯いていることが多くて分かりづらいが、顔色が悪い。決闘の時……というかまだ、昨日の事だが、サディアスには負担をかけてしまっている。
……トラウマ大丈夫かな?
心配になって手を取る。相変わらず冷え性かと思うぐらい手が冷たい。
……冷たい手だなぁ。手が冷たい人ほど心が暖かいと言うのは本当だろうか。
暖かくなるように両手で包み込んで、自分の体温を移す。
「…………あつ」
「??」
「分からないのか……?魔力が漏れてる……暖かいが、変な感覚だ」
言われて集中してみると魔力の流れが感知できる。
……魔力って魔法玉を通さないとこんな感じなんだ。なんだがこう、湯気みたいな感じだ。発生した直後は暖かいが、その後空気に溶けて霧散すると何も残らない。
確かにこれじゃ魔法は使えないだろう。
……まぁ、冷たい手を温めるぐらいなら丁度いいだろうが。
私が魔力を意識すると、光の波が生まれて、私の想像通り、それは湯気のようにキラキラ立ち上る。
「何がしたいか分からないんだが」
「あー、あれだよ。セラピーだよ。緊張がほぐれたり、自律神経が整ったりするらしいよ」
「他人に魔力を込めるとか?……聞いたことない」
「いや、手を温めるとって事だけど」
彼のもう片方の頬杖をしている方の手も引くと、不快では無いらしく、私の手に手を重ねる。
「わざわざ、魔力で温める意味はあるのか」
「無いね。まぁ、気分的な問題だよ」
「……やっぱり、常識外れだな君は」
「そう?」
サディアスは、少し前かがみになって、私の手を握る。
すると、背中にザワっと寒気がするような悪寒が走って、急に不安になる。サディアスは私に鋭い視線を向けて、それからふっと表情を緩める。
「魔力ってこういうものだと幼い頃から教えられたんだが、解釈によるんだな」
そう微笑まれて言われると、危機感のようなものは無くなって、ただ私のキラキラとした光だけが残る。
「……暖かい……」
しみじみとそう言って、それから、サディアスは無言になった。私も特にこれ以上何も言うことは無かったので、黙ってカイロ係に徹する。
しばらくして彼はやっぱり寝落ちした。
0
お気に入りに追加
135
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます
葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。
しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。
お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。
二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。
「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」
アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。
「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」
「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」
「どんな約束でも守るわ」
「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」
これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。
※タイトル通りのご都合主義なお話です。
※他サイトにも投稿しています。
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
私の婚約者は6人目の攻略対象者でした
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。
すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。
そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。
確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。
って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?
ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。
そんなクラウディアが幸せになる話。
※本編完結済※番外編更新中
記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました
冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。
家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。
過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。
関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。
記憶と共に隠された真実とは———
※小説家になろうでも投稿しています。
悪役令嬢の居場所。
葉叶
恋愛
私だけの居場所。
他の誰かの代わりとかじゃなく
私だけの場所
私はそんな居場所が欲しい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※誤字脱字等あれば遠慮なく言ってください。
※感想はしっかりニヤニヤしながら読ませて頂いています。
※こんな話が見たいよ!等のリクエストも歓迎してます。
※完結しました!番外編執筆中です。
悪役令嬢の生産ライフ
星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。
女神『はい、あなた、転生ね』
雪『へっ?』
これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。
雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』
無事に完結しました!
続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。
よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m
小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。
ここは小説の世界だ。
乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。
とはいえ私は所謂モブ。
この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。
そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる