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前途多難……。4
しおりを挟むゴミを拾い終えて、しっかりとゴミ箱を抱えて歩き出す。
「私が拒絶するんじゃなくて、出来れば、ヴィンスの方からやりたい事なんかを見つけて離れていく方が……いいと思ってる、私からヴィンスを突き放すのは出来ない……」
彼は、私以外に……本当に私以外に話をしたり、そばにいる人間がいないのだとしたら私が彼を放りだしたら一人ぼっちになってしまう。
「うーん……私には、どっちもどっちに移りますけどね!確かにヴィンスは、クレアが居ない時は、糸が切れた操り人形のようですが、クレアはヴィンスが居る時はヴィンスの反応や答えを一番重視している様な気がします。お互いが居ることで、他に目を向けないのはクレアも同じでは?」
「……た、確かに、仰る通りで」
言われてみれば、確かにその通りであり、こちらの世界で一番信用している存在だ。そして私が守るべき相手でもある。
「ですから、互いに距離を置いてみるんです、少しそれぞれの行動範囲や出来ることが増えて、またそばに戻りたいと思えるのなら戻ればいいのですっ」
「……うん、わかった。少し挑戦してみようかな。……でもすごいなチェルシーは、私達の事よく見てくれていたんだね」
「いえ、私なんてっ!不躾に踏み込んで、図々しいことばかり言うとよく……言われますからっ」
焼却炉に到着して、ゴミを捨てる。
……そうか、まぁ、分析されて、指摘されたらそれを受け入れられない人だっているだろう。でも決して思ったことを言うのは悪いことじゃない。チェルシーの周りに、都合の悪い事を言われても、怒らない人が集まるといいな。
「私は図々しいなんて思わなかったよ」
図々しいと誰かにそう言われて自信を無くしているのなら、気にしないでほしい、人の意見何て十人十色なんだから、そう思って、チェルシーと目を合わせて微笑むと彼女は、パッと嬉しそうにしたあと、何かを思い出したように表情を曇らせる。
「……どうかした?」
「私達、お友達ですか」
「うん!」
「……では、クレアがお話してくれたように私も……話させてください!」
「うん?」
私は、教室へと戻る途中でチェルシーから話を聞いた。
最初の試合の日、チェルシーは酷く緊張していたそうだ。私もその日の彼女の事をぼんやりと覚えている。
ぎこちない動きで一生懸命に戦おうとして、そして、派手に転んだ。
それだけなら良かったのかもしれないが、練習場に笑い声が響いた、皆の嘲る声、それが頭から離れないんだそうだ。
教室に戻り、長机に二人で腰掛ける。三人はまだ、昼食から戻ってきていない。
「私はアタッカー志望です!でもメルキシスタの田舎の学校が出身で、ここには同校出身の人がいません」
「そうだったんだ」
「私、野暮ったいでしょうっ?髪だってボサボサで、都会の子みたいに華奢じゃないしっ、初めて実力を見せられる場であんな失態!恥ずかしくて、恥ずかしくてっ……」
チェルシーは膝の上で拳を握って、うるうると瞳に涙を滲ませる。
「だからこそ、貴方が気取っているように見えて仕方がなくてっ!可愛くて、小さくて女性らしい貴方が羨ましくてっ」
確かに可愛いということは認めよう。でも、小さいのはいい事ではなくないか?彼女は確かに大きい、そりゃあもう大きい。身長の話では無いが。
すってんてんの私より、誇るべきことだと思うのだが。
「それをシンシアの友人の方に話したら……あんな事に……頬、叩いて、本当に申し訳ありませんでした、クレア」
「うん、平気。色々話をしてくれてありがとう」
なるほど、シンシアの友人……首謀者はあのツインテール女子か。まぁ、今は大丈夫だろう。現状彼女は特に私に興味は無いようだし。
それから、あ、と思い出して、カバンの中から筆箱を取り出す。中身を確認してみるとやはり私の一番よく使っているペンが無い。
興味はなさそうに見えてもどうやらまだ、蟠りは残っているように思う。でも、それは今反省しているチェルシーには関係が無い事のはずだ。私の大事なお財布ポーチはもうずっと制服の内ポケットに入れてあるし。
……うん、大丈夫だ!
「チェルシーは、自信が無かったからポジションを希望できなかったの?」
「……ええ、だって、決闘の時でさえ、貴方を庇うだけなのに手が震えて、また、醜態を晒すのでは無いかと……怖くてっ!」
失態を思い出したのか、チェルシーはぎゅっと目を瞑る。
……自信か……私は別にチェルシーが野暮ったいとは思わないけどね。本来なら別に、お化粧もいらないようなピチピチの年頃のはずなのに、しっかりとしているし、髪だってボサボサというかボリューミーなだけだ。
傷んでいるということも無いし……。
「田舎者の私は本当はこんな場所にいちゃ行けないんじゃないかって」
そういえばオスカーも、学園に出てきて不安になって拗らせていたような気がするが、チェルシーの場合にはベクトルが違うような気がする。
それにその気持ち、私もわかるような気がする。実家からでて、都会に就職する時、私も同じような気持ちになって、既に都会に馴染んでいる女の子達が自分を笑っている様な気がしてならなかった。
大体の場合、そういう女の子の自信をつける方法は一つだ。
「よし!チェルシー!イメチェンしようっ!」
私は、自信満々に微笑んだ。午後の授業など知ったことか。チェルシーとシンシアのポジションが決まらなければ、ポジション別授業には参加出来ないのだ。私は彼女の手を引いて歩き出した。
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