49 / 305
前途多難……。1
しおりを挟む次の日、登校すると、私に向かって色々な視線が向けられる。それは軽蔑の目線だったり、嫌悪だったりもするけれど、昨日の大立ち回りのおかげで多少好意的な反応をする人もいる。
その中に、昨日やっとチームメイトとしてやっていく事を認めてくれたチェルシーとシンシアも入っている。
彼女達は私に気がつくとすぐに「おはようっ」と笑顔で声をかけてくれる。
「おはよう!チェルシー、シンシア」
私は挨拶を返して、ヴィンスが軽く頭を下げて挨拶をする。
早速、席へ向かうとそこには、変わらず空欄のポジション決めの書類があった。
「クレア、怪我は大丈夫でしたか、私、本当に容赦なく貴方に攻撃をしてしまって……」
「大丈夫!一晩眠れば痛みも取れたし、気にしないでシンシア」
申し訳なさそうに眉を下げるシンシアに、元気だと見せつけるため少し大袈裟に腕を動かして見ればチェルシーはうふふと笑って、それから二人の間にあった書類を私の方へと差し出してくる。
「クレア早速で悪いのですけどっ、私は出来るだけこれを早く決めた方がいいと思うんですよ!」
「ポジション……普通はどうやって決めるものなの?」
私がそう問いかけると、二人は顔を見合わせて少しの間、思案したあと答える。
「団体戦が盛んな学校から来たのであれば、それぞれ自分がやっていたポジションにつくのが通例です」
「個人戦メインだったのであれば、大体がアタッカー希望をする事が多いので、そのまま全員アタッカーということもありますっ!ただ、リーダーだけは、確実に決めなければならないので、くじ引きにしたり信用の置ける人物にしたりと様々ですね!」
「……なるほど」
そう言われて考えるが、原作では大体が個人戦であり、団体戦の授業があることは書かれていたが、ポジションまでは書いていなかった。私はそもそもなんの役職があるかも曖昧なのだ。
二人にそんな基本的な事を聞くわけにもいかずに、書類を見れば、それぞれ、アタッカー、ディフェンダー、サポーター、リーダーという枠がありその隣に記入欄がある。
大体役割は名前通りだろう。
「おはよう、早速話し合いか?」
私たちが首を捻っていると、サディアスがチームの長机につく。個々に挨拶を返し、今の話題を隣の席のシンシアが説明した。
「ポジションか……とりあえずそれぞれ、自分に向いていると思うポジションを上げて見るのがいいんじゃないか?」
確かに、今全員揃っているのだから、それがいいだろう。けれど私には自分に向いているものがそもそもあるのかわからない。
皆はどうだろうと視線を向けると、シンシアもチェルシーも口ごもってそれからヴィンスがぽつりと言う。
「私はクレアの指定するポジションを希望します。それ以外に意見は特にありません」
「……」
それを聞いてサディアスが、どんな感情なのか私をじとっと見つめてくる、そんな目を向けられたって困るんだ。確かに、ヴィンスにはまったく自主性は無いがそれは私のせいだろうか。
シンシアとチェルシーはヴィンスの反応に少し不機嫌になる。そりゃそうだ、多分この中で一番戦力にならない私が、戦闘力のある彼のポジションを指定するのは、魔法の戦力重視のこの学園ではお門違いの行動である。
……ダメダメ!また険悪になっちゃうよ。
「っ、サーチが固有魔法のディックが言っていたんだけど!ヴィンスは攻守一体のバランス型で回復が得意らしいんだ!だから、サポーターなんてどうだろ?」
知識の浅い私の意見では、角が立つと思い、申し訳ないがディックの名前を出させてもらう。
すると私の発言に二人は、クラスの端の方でオスカーとお喋りしているディックの方へと視線を向け、多少ましな案を出した私に少し機嫌を直す。
「そうなんですねっ……出来れば、最初の試合で成果を出した彼に仕切ってもらうのが一番なんですが……」
チェルシーは私とヴィンスを見比べて、ふぅとため息をつく。
「仕方ありませんね」
そう言われると申し訳ない。
ぎこちない笑顔で笑う私に、チェルシーは続けて話す。
「それでは、クレアはどうですか?自分の役職の希望はありませんか」
「私?!」
皆の発言を聞いてからにしようと思っていたし、なんなら余り物でいいと思っていたので、つい驚いてしまう。先程アタッカー志望が多いと言っていたのでとりあえずその方向で考える。絶対に向いてないと思うけど。
「アタッカー……は」
「貴方には向いていません、私に一撃も攻撃をしなかったことをお忘れですか?」
「あ、うん。覚えてる。じゃあ……ディフェンダー?」
「昨日の決闘を拝見した限りだと……盾の魔法も使えていないように見えたのですけれどっ、大丈夫ですか?」
「……サポーターは」
「……クレア、サポーターはチームに一人以上は必要ない」
「…………ごめん、私。ええと」
しっかりと理由付きでどの役職も希望できないという事になり、必死に頭を回した。私がこれを言っていいのか迷ったが、仕方ない。
「じゃあ、リーダー……なんて」
「……」
「……」
……やっぱりそういう反応になりますよね??
1
お気に入りに追加
135
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます
葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。
しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。
お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。
二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。
「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」
アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。
「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」
「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」
「どんな約束でも守るわ」
「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」
これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。
※タイトル通りのご都合主義なお話です。
※他サイトにも投稿しています。
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
私の婚約者は6人目の攻略対象者でした
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。
すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。
そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。
確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。
って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?
ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。
そんなクラウディアが幸せになる話。
※本編完結済※番外編更新中
記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました
冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。
家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。
過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。
関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。
記憶と共に隠された真実とは———
※小説家になろうでも投稿しています。
悪役令嬢の居場所。
葉叶
恋愛
私だけの居場所。
他の誰かの代わりとかじゃなく
私だけの場所
私はそんな居場所が欲しい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※誤字脱字等あれば遠慮なく言ってください。
※感想はしっかりニヤニヤしながら読ませて頂いています。
※こんな話が見たいよ!等のリクエストも歓迎してます。
※完結しました!番外編執筆中です。
悪役令嬢の生産ライフ
星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。
女神『はい、あなた、転生ね』
雪『へっ?』
これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。
雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』
無事に完結しました!
続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。
よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m
小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。
ここは小説の世界だ。
乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。
とはいえ私は所謂モブ。
この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。
そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる