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早期発見って大事……。1

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 入寮式をすっぽかし、入学式は説教をくらい、懇親会は大怪我で寝込むというスリーコンボを決めた私は、クラスでそれはそれは浮いている。

 大気圏に突っ込むほどに浮いているのだ。

 団体戦で共に戦うチーム選びは、どうなったかというと他のチームに入ることができなかった、私と同じ余りものの人たちと、いつの間にかチームが編成されたらしい。

 ちなみに、私と一緒にいたローレンスは、懇親会に参加していなかったという事ではなく、懇親会の目的であるチーム決めは既に自分の騎士やらなんやらですべて固めてあり、書類を提出するだけだったそうだ。そして私のところで暇を潰していたらしい。

 懇親する必要のないローレンスと、違って少しでも良いチームを組めるように、私は自分をアピールしなければならなかったのだが、欠席。必然的に余ったチームへと入れられたということだ。そこには必然的に、懇親会で無言を貫き通したヴィンスも入っていた。

「……」
「……」
「……」
「……」
「……」

 誰も居ない教室で、私達のチームだけが、ただただプリントを眺めて沈黙している。

 メンバーは五人、どこのチームも同じ人数であり、メンバー変えは両方のチームが了承し、さらに当人同士の希望がない限りは、することができず大体は、卒業するまで同じメンバーであることが多い。

 それに、進級の査定に大きく反映されるトーナメント戦もこのメンバーで挑まなければならないし、ついでに座学の成績、素行なども全部、チームの総合評価できまる。

 この学園でのチームというのは、運命共同体と言っても過言ではなく、そのメンバーというのは非常に大切であり、将来も一生の友や、仕事仲間になるほど人生に関わってくる。

 それを……その大事なメンバーを、ただ余ったからという理由で結成された私たちには正直、落第という絶望しかない。

 プリントにはチーム戦でのポジションについて説明がなされており、それを誰に割り振るのかを記載する欄が設けられている。そして今は、本当ならポジションごとの実技学科の時間のはずだった。

 私たちは、ただただ沈黙するばかりで、ポジションが決められないどころか自己紹介すらしていない。

 キーンコーンカーンコーン。

 懐かしい学校の鐘の音が聞こえて、その実技の授業まで終わったのだと全員が悟った。

「クレア、昼食に向かいましょう」
 
 一番に動いたのはヴィンスだった。彼は割と、ドライだ。私以外の事にあまり興味が無いようで、すぐにそう提案した。

「……はぁー」

 頭を抱えてため息をついたのは、この中で一番身分の高いサディアスだ。彼はなぜ、余り物になってしまったのか不明だが、初戦で私があまりにも弱かったせいで試合で周りに力をアピールできなかったのだろうか。

 そして後の二人は、ものすごく深刻そうな表情で、変わらず俯いている。

「ヴィンス……そのもう少し……」

 もう少し、なんと言おう。空気を察して?でも、このままここにいても進展は無いような気もする。

 私が言い淀むと、ヴィンスはなんの事だかまったく分からないというように、頬を緩めて小首を傾げた。

 ……かわいい。

「食堂の席が埋まってしまいますよ」
「そ、そうねぇ」

 まったく悪意のない言葉に、私はぎこち無く返す。

 その途端に、ばっと一人のチームメンバーが顔を上げた。

「ッ、呑気すぎるじゃありませんか!!!」

 突然の怒鳴り声にびっくりして、彼女の方に顔を向ける。

 この子は、最初の試合で盛大に転んでしまっていたドジっ子な女子生徒だ。相変わらず、ゴムが弾けそうなほど、くせっ毛がモコモコとしている。

「貴方!貴方です!一番の問題は、貴方がこのチームにいる事なんですよ!?!いい加減、その偉そうな態度を改めてくれませんか!?!」
「…………え、私?」

 偉そうと言われても、ヴィンスとしかまだ話してすらいないのに……。悪役令嬢フォルムのせいだろうか、それともなんだ雰囲気?

 同じく、と言うようにショートカットの切れ長の目を持つ美人さんも私のことを睨んだ。

「魔法が使えないなんて、この学園になにしに来てるか分からないけど、迷惑です。……本当に」

 彼女は怒鳴ることは無かったが、ただ静かにそう言い、席を立った。「はぁー」とサディアスがまた大きくため息をついた。

 彼も女の子に続いて席を立ち、私をギリギリと睨んでいて、今にも叫び出しそうな女子たちを連れていった。

「失礼な方々ですね、クレア。参りましょう?」
「う、うん、……うーん」

 私も釈然としない気持ちで、プリントを鞄にしまって教室を後にする。
 
 それ以降は座学、そしてまた実技を沈黙のまますごし、放課後になってしまった。

 同じクラスには、他に知り合い……というか名前を知っている人は、ディックとオスカーが居たが、彼らは同じチームを結成したようで、私とは面識がない男子生徒に気を使って、私に話しかけてくることは無い。

 それからこのクラスにはコーディが居る。
 原作では影が薄かったが、クラリスの弟だ。そして彼も声をかけてこない。

 私はヴィンス意外と結局、話すことがなく、登校一日目を終えてしまったのだ。ちなみにクラス担任はブレンダ先生という、ベラを細身にして、美人にしたような、勝気な女性教諭がクラス担任である。そして彼女も、私を微妙な表情で見るのであった。



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