上 下
24 / 305

そういうタイプの化け物か……。4

しおりを挟む




 血溜まりが広がる、濡れたアスファルト、冷えていく体。終わりの時、真っ赤に染まる世界……。

 ッ……!!

 抗いたくて力任せに起き上がれば、乱れた金髪が視界に入って前世の自分の体では無いことに気がつく。

「いっ……ッ、っ~?!」

 左肩が異常なまでに痛んで、悪夢で酷い汗をかいていたのか服が体に張り付いて気持ち悪い。

「クレア、どうした?」

 そっと誰かが私の背中に手を当てる。
 
 人が居たのか……。ここは、保健室だろうか?すこし視線を巡らせるとベットがいつくかあり、看護教員の作業机が見える。

 背をさすられて人の体温に少し落ち着きを取り戻し、呼吸を整える。

「悪い夢でも見てしまったのかな、ほら」

 肩を抱かれて、抱きしめられそうになり、痛みのない右側の手で胸板を押し返す。

 声の主を見上げれば、やはりローレンスだった。

「抱擁は結構、子供じゃあるまいしっ……っ」

 痛みに堪えて声を出す。ローレンスは少し意外そうな顔をして、それから椅子に座り直す。ララという人が居ながら、この人は何故こういうことを軽々としようとするのか。

「強情だね、クラリスはもう少し素直だったと私は記憶しているんだが」
「……」
「まぁ、構わない、君はクレアだから、関係のない話だったな」

 彼は自分から引き合いに出しておいて自分で否定する。

「ただ心配はしているんだ、君は私の大切な駒だからね、状況は理解出来ているかな?」

 問われてまた沈黙を返す。正直、ずきずきと痛みが酷くて頭が回らない。私の沈黙を都合のいいように受け取った彼は、事の顛末を話す。

「君は魔法を使えていなかった、それが君の故意かどうかは不明だったが、サディアスはそれに打ち込む直前で気がついたらしい。彼が優秀な使い手でよかったね。おかげで君は真っ二つになる事は避けられたが、勢いは殺せず柄の部分で強打してしまったようだ」

 どうりで、骨がボッキリ折れていそうな痛みなわけだ。しかし真っ二つになる可能性もあったらしい。あの時に感じた本能的な恐怖は嘘ではなかった。

「昏倒した君の状況をすぐにサディアスが報告し、ここは医務室。他の生徒は皆、懇親会に向かったよ。もちろん君の心配をして、ここに残ろうとしたヴィンスも教師に引きずられて行った」
「……そう。……ありがとう」
「あと、君が自分で握っていた短剣がサディアスと衝突した時に頬に傷を残してしまって、サディアスは酷く気落ちしていたな」
 
 同じく左頬に確かにガーゼか何かが当てられている感覚はあるが、見たくは無い。馴染みの薄いこの体でも、さすがに顔に傷というのはショックだ。

 無言でいれば、ローレンスはわざわざコンパクトを取り出して鏡をこちらに向ける。

「ローレンっ……はぁっ、……」

 あまりに気遣いのない行動に、怒鳴ろうとすれば大きく息を吸っただけでも痛みが増して、夢や試合の恐怖から涙が出てきた。

 右手でコンパクトを払い除けて、彼に目を向ける。

「痛み止め……か、何か……欲しいんだけど」
「そんな物より魔法を使えば、直ぐにとはいかなくとも治癒する事ができる」

 多分、使えないんだ。私には。
 
 ローレンスだってその可能性がわかっているだろう。それなのに……。いや、そうだからこそだろうか。

 「ほら、魔法玉を出そうか」

 手を伸ばされて、なんとか抵抗するけれど、服の中から勝手に引き出し、握りこまされる。

「魔法玉に異変があったから、まさかとは思っていたけれど……魔力を込めて、試合の時は出来ていただろう?」

 手を動かすだけでも痛いのに、強く腕を掴まれて、体が震えた。これが終われば、安静に出来るのかと思い、集中して魔力を込める。

「魔法玉は起動しているな」

 顎を持ち上げられて、瞳を覗かれる。視界いっぱいに彼の薄ら笑みを浮かべる退屈そうな表情がうつって、悔しいやら痛いやらで涙が滲んだ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます

葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。 しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。 お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。 二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。 「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」 アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。 「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」 「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」 「どんな約束でも守るわ」 「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」 これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。 ※タイトル通りのご都合主義なお話です。 ※他サイトにも投稿しています。

私の婚約者は6人目の攻略対象者でした

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。 すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。 そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。 確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。 って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?  ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。 そんなクラウディアが幸せになる話。 ※本編完結済※番外編更新中

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。 女神『はい、あなた、転生ね』 雪『へっ?』 これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。 雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』 無事に完結しました! 続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。 よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。 ここは小説の世界だ。 乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。 とはいえ私は所謂モブ。 この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。 そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

処理中です...