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腹黒男め……。12

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 ……ええと、とにかくこの世界の魔法と言うものの概念が……。

 試合を眺めながら整理する。

 原則として、確か、魔法使いの一番重要な魔法は、自分の体に使うものだ。火をつける、水を生み出す、そういった魔法は生活魔法と言って戦闘にはあまり使われない。
 一方、自分の体にかける魔法を身体魔法と言って筋力をアップさせるパワー型と速さをあげるスピード型それから、自らを耐久力強化する防御型、盾の魔法は一応、防御型と区別されるんだったなかな、と三種類に分かれていて、それらを駆使してこんな戦いが出来るのだ。

 生身の人間が剣で切られれば、普通は血が出て死んでしまうのだが、防御をある程度固めているため、魔法使い同士の戦いではそういった事は起こらない。

 あとここ、ユグドラシル魔法学園に通うことによって与えられる本物の魔法玉のみ使える、固有魔法というものがある。

 『ララの魔法書!』では、ララが昔技師であった祖父の魔法について書かれた、魔法書を見つけて、簡易魔法玉を改造して簡易魔法玉でも固有魔法を使えるようにした事こそが、ララが王子に見初められるほど活躍した理由だ。

 ちなみにローレンスの魔法武器も固有魔法だった気がする。原作時代に使えていた理由は、王族なのでね、その辺、学園側とズブズブなのだろう。

 ララもローレンスと同じく魔法武器で戦うそれが、恐ろしく強いんだ。小説での相手を吹っ飛ばしただとか、地にめり込ませたというのは誇張では無さそうである。

 ……でもやっぱりその辺、正直、それら以外の固有魔法の定義って曖昧で原作にも詳しく乗ってなかったんだよね。

 まあしかし、この魔法学園での戦いというものは、その機能を存分に使ったトリッキーな戦いになるのだと、思っていたのだが、せっかく魔法玉を手に入れたのに、皆それを使っている気配もない。そんな汎用性の高そうなものを使わないなんてもったいないとも思う。

「ヴィンス、これじゃ簡易魔法玉使っていた時と大差ない試合じゃない?」

 とにかく一瞬で試合が終わってしまうので私はヴィンスに問いかけてみた。

「えぇ、ここ最近はスピード重視のウィングが多いようですから、一辺倒な試合内容になっていますね」
「……ウィングって魔法の、その、えっと方向性とかも決められるものなの?」

 いまいちピンと来なくて再度聞く、するとヴィンスは瞬きをして小首を傾げた。これは、私が知っているはずの事を彼に聞いた時にする反応だ。

「流行り廃りがありますが、それぞれ個人のコアに合わせるのが一般的と言われています。ただ簡易魔法玉を使い込んでいれば、おのずと、それと引き換えに渡されるコアには、固有魔法があるていど備わっております」
「うん」
「ですのでそれを読み取って技師の方々が、ウィングの特化する方向性を決め、合わせて作成してくださいます。もちろん注文者が指示すれば自由度は高くありませんが、それなりに得意分野に合わせて指定することが出来ます」
「ふむふむ」
「自分の得意分野を自覚し開花させる、もしくはある程度使って具合を確かめてから、自ら再度指定して、パワー、スピード、防御のどれかを特化させるウィングをつけるのが好ましいようです」

 ですが、と彼は話を続ける。

「ララ様の活躍により、初手一撃が何より重視され、それが一番、色濃い我々の世代にはウィングをとにかくスピードに重視にしているものばかりになっていますね」

 なるほどララの影響か。

「ウィングは作り直し可能なものなの?」
「もちろんです、学園街にはたくさんの技師が店を構えていますから、チームの役職が決まってから新たに作り替えられる方、お金を在学中に貯めてより良い技師に注文をする方、様々です」

 ほー、なるほど。じゃあ自分のコアに備わっている固有魔法がどんなものかわかったら、作り直したい!となる可能性もあるのか。

 それを鑑みて試合を見てみれば、多少なりとも特色がある気がした。
 皆、開幕一番、最速のスピードで初撃を打ち込むのは皆変わりないが、防御を主に使っているもの、パワーで押しきろうとする者など様々だ。でもまだ固有魔法を使っている人間は居ない。

「ヴィンスは自分の能力がどんなのだか分かる?」
「……」

 私が観戦しつつ質問すると、ヴィンスは答えることなく沈黙がかえってくる。彼の方へと視線を向けるけれど目は合わない。ヴィンスはじっと自分の魔法玉を見つめていた。
 彼の髪の色と同じ色合いの緑だ。なにか思うところがあるのなら、そっとしておこうと、私は視線を元に戻す。

 すると、くじを引いていた先生が何やらきょろきょろしている、二階席の前まで移動してきて、テーブル席の方にいる者から一人、そしてこちらの長椅子の方へと視線を向け「ヴィンス・カトラス!」とメガホンを使って声をかける。

 突然の事にヴィンスはビクッと反応してワンテンポ遅れて「はいっ」と慌てた返事を返した。

 立ち上がってヴィンスは振り返る。

「行ってまいります、クレア」
「うん、怪我しないようにね」
「はいっ」

 そう言うとヴィンスは、少し苦しそうに目を瞑って、それから開いた時には既に淡い光を瞳に灯らせていた。彼の黒曜石のような瞳の中で魔力の光の小さなつぶが波のように揺らいでいる。

 もっと近くでのぞき込みたくなったけれど、ヴィンスはそんな私に気がつかず、柵のない場所まで歩いていって何の躊躇もなく落ちる。

 大丈夫だとわかっていつつも私は、心底驚いてしまって腰を浮かした。真剣に見つめていれば、すぐにコートの脇を通るヴィンスの姿が見えた。

 ……っ、なんかヴィンスって危なっかしいんだよね!!別に私が小心者という訳では無いのだ決して。

 私が自分の心に言い訳していると、周囲からくすくすと言う笑い声が聞こえて、試合の方を見れば、どうやら女子生徒が転倒してしまったらしい、試合にも負けて、顔を真っ赤にして今にでも泣き出してしまいそうだ。
 
 ……あちゃー……緊張しちゃったのかな……。

 その女の子は毛量の多い髪をひとつにまとめている気の弱そうな子で、震えながらも立ち上がり、顔を俯かせて走り去っていく。

 大丈夫かなぁと少し心配になりつつも次の試合を見逃すまいと、私は立ったまま観戦できる前側に移動した。

 私が隣に来ると、元から居た男の子のグループが、ヒソヒソ言いながら少し距離をとる。

 ……やっぱり避けられてる……。

 でも今は、そんなことはどうでもいい。問題はヴィンスだ。怪我しないだろうか、痛い目に合わないだろうか、ひたすらに心配でコートに入った二人を見る。

 あまり、自信がなさそうなヴィンス。相手は、十中八九知らない子だろうと思ったけど、どうにも見覚えがある。

 ……外で見ても黒髪なのね、コンラット……。

 嫌な思い出が蘇る。私の頬を打ったあの男だ。

 複雑な気分だ、でもとにかく怪我はしないで欲しい、ヴィンス……。

「始めっ!!」

 私の様々な感情とは裏腹に、先生は彼らが所定の位置に着くと早々に試合開始を告げた。

 今までの試合と同じようにヴィンスもコンラットもお互いに剣を構えて向かっていく。コンラットの大剣でも素早い一撃をヴィンスは押されつつも受け止める。

 ヴィンスが使っているのは、女性でも持てそうな短剣だ。今までの試合を見てきて、男性はあまり使用していない武器のように思う。魔法を使えば男女の性差など関係ないと思っていたが、そうではないらしい。

 やはり体の基礎体力に関係しているのだろうか。ヴィンスはどちらかと言うと、同世代の中でも線が細く小さい、戦いのいろはは、分からないけれど大剣を使ってる方が強そうな気がしてヴィンスが負けてしまうと思った。

 彼らの細かな表情までは、ここからだと分からないが、今のところは、コンラットの猛攻をなんとか防いでいるが、ヴィンスは劣勢といった状況が続いている。
 他の試合よりも長い。

 いつ、ヴィンスに攻撃が当たってしまうかと怖くなって、できる限り細めで見ていたら、ふとヴィンスが変わった動きをする。わざとなのか分かりやすく、大きく剣を振り上げる。反対の手で盾の魔法を使ってるらしく手をかざしているのにそれもパッとといて防御魔法の光の膜が消える。

 ヴィンスの渾身の攻撃はコンラットに易々と避けられ、大きな隙ができる。
 それをコンラットが見逃すはずがなく、剣が打ち込まれる。

 私は咄嗟に目を逸らして、ドッと何かがぶつかる音。

 二人の試合に釘漬けだったのは、私だけでは無いらしく、しんと会場が静まり返っていた。

 恐る恐る、試合結果を見なければと視線を戻すと、肩に剣を受けるヴィンスの姿と、顔面にヴィンスの蹴りを受けるコンラットの姿があった。

 僅かにコンラットがぐらっとバランスと崩し、それから体の力が抜けてバタリと倒れ込んだ。

 人が地面に激突する重たい音が聞こえて、ヴィンスは痛むのか肩を手で抑えながら、ゆっくりと瞬きをして魔法をとく。
 それから私の方をぱっと、見て試合の結果などどうでもいいように笑いながら向かってきた。

 ……い…………いや…………怖っ!!!!



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