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腹黒男め……。7

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 寮での食事は、割と美味しい。今回は、朝食だが野菜もしっかりと取れるし食べ盛りの子供が多いからか、量もそれなりにある。

 それに食事中にマナー違反がないように、ベラが目を光らせながら、共に食事をしているので子供の集団と言えど秩序が保たれていた。

 安心して、黙々と食事をしていると斜め前の男の子が何やら、嫌な笑みを浮かべて隣の子のソーセージをパッとフォークで奪ってしまった。

「……」

 私が無言でそれを見ていれば、向かいに座っているヴィンスはそれに気がついたようで私と同じように視線を向ける。

 その奪った側の男の子は、身なりが良い感じだ。貴族やローレンスのように位の高い学生は、自室に食事を運ばせているようで、食堂では見ることが無い。つまりは平民の中での金持ちの家の子供だろう。
 取られている子は少しダボッとした、草臥れた制服に目元が隠れてしまうほど伸びている野暮ったい前髪。あまり裕福とは言えない身なりだ。

 昨日入寮で今日これか、まぁ、集団生活なので仕方がないが、見てて気分の良いものでは無い。またもやソーセージを男子生徒が取って、気弱そうな生徒は、視線を落としてそれからしょうがないかと言うふうに笑う。

 ……。

 それを見ていたヴィンスが、あっと納得したように、自分のおかずが乗った皿をニコニコしながら私の方に差し出した。
 違うんだけど……。

 ……。

「……いらないわよ、他人のものを取るなんて卑しい」
 
 わざと、裕福そうな男子生徒に向けて言った。
 まだクラス発表がされていないので、あまり、グループが出来ていない。その男の子が集団で、貧乏そうな子を詰っていたのなら先生に相談するが、今は一対一だ。私が少し嫌味を言えば、収まるかななんて思った。

「さ、左様でございますか」

 私の思惑とは関係なく、ヴィンスがすごくしょんぼりした顔でお皿を引き下げる。

「あっ、いや、違くてっごめんねっお腹いっぱいなの」
「構いません、クレア様」

 そんな意図はなかったのに、ヴィンスは私の気分を害したと思い、しょもしょもとクスランブルエッグを口に運ぶ。

 あ、後でフォローしなきゃ……。
 
 そう考えてから、さて、彼はどうなったかなと気になって視線を向けようとするとダンッ!!とテーブルが揺れて、すぐに彼が拳をテーブルに打ち付けたのだとわかった。
 大きな音に反射的に体がビクつき、そちらを見やる。

「いい度胸だなぁっ!遅刻女!!」

 一斉に辺りの注目が集まり、大きな食堂がしんと静まり返る。

 注目の的は、叫んだ彼だけでは無い、昨日遅刻したのは私だけだ。つまり私を相手に怒っているという事は明白だろう。

 やらかしたぁ……言わなきゃ良かった。けど今更謝るわけにはいかないしっ。

「な、なんの事だか分からないっ」

 声が震える。咄嗟に言いがかりだと、示してしまおうと、とぼけてみるが、男子生徒の視線は鋭くなるばかりで、言い逃れはできそうにない。

 大勢の目線がこちらを向いていて、奇異の視線が痛い。
 
 っ……情けないぞっ私!
 何のための悪役令嬢フォルムだ!
 
 よく分からない理論で自分を鼓舞して、口を開く。

「っ……独り言にわざわざ反応するなんて、よっぽどやましい事があったのね?大声で威嚇するなんて動物以下かしら!」
 
 しっくり来ないお嬢様言葉で言い返す、こんな子供に言い負けるわけが無いはずだ。私、社会人ですから!

「な、なんだと!?何様のつもりだよ!!このクソアマ!!」
「なんとでも!私は悪くありませんから!それとも私が貴方に何かしたという根拠があるのかしら?!」

 彼の声に呼応するように声を大きくして答える。
 それにクソアマて、なんだクソアマて。言葉遣い悪すぎだろ。

「おっまえ!!許さねぇ!外、出ろよ、分からせてやる!!」
「今度は脅迫?野蛮がすぎましてよ」

 心臓がバクバクとうるさい。すぎましてよってなんだ私も、今度お嬢様言葉練習しとこ。

 彼は椅子を蹴飛ばすように立ち上がり、怒りに歪んだ表情で私をグッと睨む。私も負けじと睨み返すと、彼の堪忍袋の緒がプッツンといってしまったようで、私の食事が乗っているお盆に素早く手を伸ばし、ちゃぶ台返しのように思い切りぶちまける。

 まだ食べかけの食事がのったお盆は中を舞う、そしておかずやスープが私の顔面に直撃する。
 幸い熱々ではなかったものの、べっしょりとスープが髪や顔、服に付着する。
 お皿やグラスは真っ逆さまに落ちて床に大きな音を上げつつ打ち付けられて割れる。

「きゃあっ」
「うわっ」

 背後や周りで声がして、私は呆然としていた。
 目にスープが入らないようにと顔を拭う。
 それから乱暴をした男の方を見ると、勝ち誇ったような表情をしていた。

 そこでさすがにカチンときて、唯一無事だった、なみなみと入った牛乳のコップを掴んで彼に引っ掛ける。

 パシャと軽い音がしただけだったが、狙ったとおりに彼の制服も牛乳まみれになる。

「……」
「……」

 一瞬の沈黙が私たちの間を包み、それからまた彼が叫び出しそうになったところで、パンッパンッと規則正しい音が聞こえる。

 音のするほうを確認すると、そこには顔を真っ赤にしたベラの姿があった。



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