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 彼女に縋る幼い少女、あの時初めて見たが彼女が聖女ユーリらしく、舌足らずで幼い姿は、丁度、エディーが母親を失ったのと同じぐらいの年頃の様子だった。

 小さな手で必死にシャロンに縋りつき泣きじゃくるユーリに、シャロンは言った。

『おっきくなったね。やっと貴方を抱けた。ただいま。愛してるよ』

 彼女の声はまるで女神の囁きのように優しく、きっとそういって母も生きていたら帰ってきたのではないかと思うと、自然と泣き出しそうだった。

 そう思った自分は、確かに愛されていて、捨てられていなかったのなら、文句もない。

 そんな自分の心は案外薄情で、エディーはただ少女たちをいたずらに傷つけていただけなのだということも理解した。

 彼女たちが今どこで何をしているかはわからない、しかし母子ではないのだ。

 男に振られたぐらいで死ぬほどの事にはなっていないだろう。取り返しはつくと思う。

 それにエディーはシャロンほど思い悩むたちではない。今まで傷つけてきた分、たくさんの人に愛されている彼女を支えたいと思うし、愛おしいと思っている彼女を捨てる理由も今やもうない。

 それに、そうしてエディーに捨てられないために、セシリーの死の真相を探して、見事正解を導き出してくれたはずのシャロンはそうは考えていない様子だった。

 小さな頭が随分と下にあって、すぐにでも立ち上がらせて安心させてやりたい気持ちと、それは置いておいて、小さな聖女とカインの為ならここまでするのかという気持ちがせめぎ合う。

 確かにシャロンはエディーの事を好きになってくれているだろうし、異性として見られていると思う。しかしながら、カインとの距離感を見て、聖女の為に動く彼女を見るとまだまだ他人行儀に感じる。

 それに、もやもやする気持ちを感じて、それからエディーはらしくないと思った。

 ……嫉妬心なんて無縁だと思っていたんだけどね。

 それでもどんな目に合ってもカインとユーリの為なら耐えられるとばかりにそういった彼女に少しばかり不満がある。良くないとわかっていても、無言で膝を折って、シャロンと目を合わせた。

 彼女は怯え半分驚き半分といった具合でエディーの事を見ていて、その行動をじっと見ていた。

 ……また黒魔法に掛けたら、泣いてしまうかな。あの時はすごく怖がっていたもんね。でもきっと我慢するんだろうね。聖女ユーリとカイン王子殿下の為に。

 そう思うと嫉妬心が消えるどころか膨れ上がっているような気がして、はぁっと一つため息をついてから、怯える琥珀色の瞳を見つめたままキスをする。
 
 短くてチャーミングな髪がぴょこんと跳ねて、揺れる。相変わらず小動物のように可愛らしかった。

「捨てないよ」
「……」

 心からそう思って口にしたのだが、シャロンは信じてない様子で、白魔法を使うと、嘘だと思っていると分かった。

 たしかに同じ言葉でこの間、嘘をついた。信じられないのもきっと事実だと思うし、それによく考えてみると、そう思い至った理由の彼女の言葉を説明するのはあまりにも自分が幼稚すぎて恥ずかしい。

 しかしそれを言わずに愛を語っても、でも捨てるのだろうと思われてしまう気がする。

 先ほどのような他人行儀な話し方をされるのは哀しいし上下関係なんてものもない方がいい。

「……俺が、小さな子から母親を奪うようなことをできるわけないよ」
「母親?」
「そう。シャロンはユーリの母親代わりだよね。そんなシャロンを放り出したら俺みたいな勘違いをする人間が増えちゃうでしょ。だから、君を捨てたりしないし、なにより、君を愛してるから」
「……そうなの?」

 本音ではあったが正しい理由ではない。最後に言った言葉が一番の理由だけれど、嘘をつきすぎたせいでそれはあまり信用がない様子で、シャロンはあまり腑に落ちていない見たいだった。

 しかし彼女はすこし考えてから、また頭の中で、謎のポジティブを発揮して、切り替えた。

「うん」
「そっか。ありがとう、エディー」

 嘘をつきすぎて、言葉に信憑性が無くなるという教訓話があった気がするがまったく同じ状況で、エディーの愛情をシャロンは無条件に受け入れなくなった。
 
 ……自業自得ってこの事だね。

 自分の間抜けさにそう思いつつも、エディーはシャロンを抱きしめた。慣れないらしくとても体に力が入っていて驚いているのがわかる。

 いつか信じてもらえるように、エディーはこれからを誠実に生きるしかない。

「ずっと愛してるよ、シャロン」

 思いつくままに言葉にして、自然と笑みを浮かべた。きっともう一生失うことは無い。ずっとともにいられる。それにとても安心して、目をつむる。

 こうしてやっとシャロンとエディーはきちんと理解しあって夫婦として生活を始められるのだった。


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