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 数日間シャロンはエディーの事を伺いながら過ごした。その間に白魔法で読まれないようにできるだけ距離を置いた。そして彼が出かける日を見計らってこっそりとエディーの部屋へと忍び込む。

 使用人の掃除が終わって彼女たちも食事をとる時間帯だ。その時を見計らって中に入った。

 嘘は嫌いだといったエディーにこんなことをするのは気が引けたがそれでも下手に疑いを話して真実をかくされる方がよっぽど厄介だ。

 結局、白でも黒でも最悪の事態を避けられる以上は、明確にするしかない。

 ギデオンはきちんと真実を明らかにした場合のみその温情を与えてくれるとシャロンに約束した。

 つまりは真実がわからない事が最もリスクがある。だから一人で動くことにした。それに、フレドリックの死の真相といっても様々な種類があるだろう。

 例えばエディーが殺したとする。しかしそれが正当防衛だったらどうだろか、不可抗力であったり、虐待の仕返しであったとするなら、サムウェル伯爵も納得せざる終えない。

 だからその当時の彼らの状況が知れるものがあれば、エディーの行動のフォローをすることが出来る。

 シャロンの白魔法は人ではなく、物からその魔力の記録を読み取ることが出来る。

 他人の秘密を暴くような使い方以外、あまり使う用途がないのだが、この魔法のおかげでこうしてここにいる。才能の女神さまには感謝してもしきれないぐらいだろう。

 そして読み取るものについてはもう決めてある、エディーの部屋には少しだけ年季の入ったものがある。男性の部屋にあってもおかしくはないが、作りが他の家具と違ったのでこの部屋に来た時、印象深かったのだ。

 静かに歩みを進めて、シャロンは彼の部屋のドレッサーの前に立った。大きな鏡のついている白いドレッサーは、よくよく見てもやっぱり女性ものだろう。

「……鏡なら映したものが分かってありがたいね」

 罪悪感を打ち消すためにそう口にした。それから、イスを引いて座りテーブル部分に頭を預けた。

 ……時間もない、急ごう。

 目をつむると、シャロンとエディーのこの部屋でのやりとりが記録としてめくるめく、それよりも前に戻ると、仕事をしているエディー。

 そして彼がたまにこのドレッサーをみて黙り込んでいる姿が見える。

 もう少しさかのぼると、フレドリックらしい姿を見ることが出来る彼は柔らな金髪の男性だった。エディーと同じぐらいの背丈だが、顔は似ていない。

 彼が最後に移った日を思い出していくとその時のエディーとフレドリックの姿がありありと映し出された。


 いつも通りのにこやかなエディーは、目の前に座っているフレドリックを見つめている顔は笑っていても、その目はまったく笑っていない。

「では、フレドリック兄上、遺書を書いてください。きちんと御実家に怪しまれないように」
「……」
「手紙は俺が預かっておきますから」
「……」

 フレドリックはなんだかぼうっとしている様子でエディーに従って、ペンを時折止めつつも丁寧な文字で自死をすることを許してほしいという文面の手紙を書き始めた。

 彼はきっと操られている。遺書なんて他人に言われて書くものではない。それに、手が震えていて、震える呼吸で涙をこぼしつつもペンを止めない姿は異様だった。

 そんな光景が続き、しばらくしてエディーは丁寧に、それを封筒の中にしまう。それから、予めテーブルに置いてあった薬の包みをフレドリックに持たせた。

「自死してください。今までお疲れさまでした、フレドリック兄上」

 平坦でいつもと変わらない声でそういう。彼の言葉にフレドリックは抗おうとしている様子だった。しかし、最後には根負けしたように口を開いて毒を呑み込む。

 そのまま暫くして、喉をかきむしるようにして苦しんでフレドリックは最後を迎える。まったくエディーは取り乱す様子もなく淡々と処理していた。

 ……これは、つまり、エディーは殺したし、何なら疑われた時の工作まで終えているという事、で合ってるって話?

 そんなものがあるなんて聞いていない、それがあれば疑われることもないのだから、出回っていないのだろう。十中八九彼は今もそれを持っている。

 それに、こんなに繊細に操れるのなら、彼は、黒魔法の道具なんてものではなく彼自身の魔法として持っているのだろう。そうでなければ、困る。こんなことが当たり前にできる人間がそうそういて堪るかと思う。

 しかし、これではこの情報では、駄目だ。これだけだとより悪質な計画的殺人として、罰されてしまう。

 ……もっと昔、彼がそうするに値するだけのフレドリックの悪行があれば。

 そう考えてシャロンはさらに昔の記憶をさぐった、しかし、フレドリックと部屋にいるシーンは少なく、その代わりに、この部屋に招かれた女の子たちとエディーのやり取りを見ることになった。

 この屋敷に連れ込まれた女の子の数は多い。それなりに高貴な身分の子から、下級貴族の女性まで様々だった。

 彼女たちはやつれた様子で、この屋敷に始めはいるのだが、次第に回復していって、顔つきが優しくなる。しかし、いつもエディーはそれなりに彼女たちが回復すると平然とフレドリックを殺した時と同じ平坦な声で別れを告げる。

「私何かした?! お願いなんでもするから捨てないでっ!」

 可愛い髪の女の子がそういってエディーに縋った。しかし宥められて終わる。

「別れたくありません、お願いします」

 頭を下げ続けた子もいたが、エディーは首を振るのみで答えない。

「っ、ううっ、ひっく、ああっ」

 泣き出す子もいたし、本当に様々な女性と別れを繰り返す。この部屋以外で分かれたであろう女の子は、ぱったりと姿を消す。これは確かにカインの言っていた悪癖というやつだろう。

 どんなに泣いて縋っても、彼はまったく心を揺らしている様子はなくて、むしろうれしそうなまであった。

 戸惑いつつももうここまで来たらと思い、シャロンははるか昔の記憶を見た。それはまだエディーが小さく丁度今のユーリと同じ年頃の時だ。

 部屋はこのエディーの部屋ではなく、どこか見知らぬ女性貴族の部屋で、そこにはとても優しそうなエディーによく似た女性がいた。

 ソファーに座って母親に甘えるエディーを愛おしそうに抱いている。

「エディー……私ね、貴方を守りたいだけなのよ。ただ、ずっとそれだけ」

 切ない声だった。窓の外からは春の心地よい太陽が差し込んでいて、エディーはよくわかっていなさそうに、首をかしげて、彼女を見つめている。

「貴方のお父さんが亡くなってから、どうにかやってきたけど……ごめんね……エディー」

 言いながらほろほろと涙が零れ落ちて、エディーの頬におちて流れる。急に泣き出した母を心配してエディーは「母さま?」と拙く言った。

「エディー、愛してる、ごめんね」

 問いに答えることはなく、心底優しい声と笑顔でエディーの母親はそういって、それ以来一切登場しなかった。

 ……何があったの? どういう事? なんでこんなに悲しそうなの? 

 失踪したらしいという話を知っていても、状況は理解できないし、ほかにめぼしい記憶はない。ただ、エディーと母親のやり取りにどうしてもユーリの事を想いだして、シャロンは目を開いた。




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