上 下
6 / 30

6

しおりを挟む



 ……好きかと言われればそりゃ異性として見てはいるって、だって距離近いし、愛してるとか好きだとか平気で言うし、むしろ意識しない方がむずかしい。

 だがしかし、惚れたらまずい。絶対まずい。何があるとは言わないが何かあるんだ。私、むしろポジティブに考えよう。意識できてるって事はまだ、抗えてるって事だっ、 いいことだ。

「なんで?」
「っ、」
「惚れたらいいんじゃない。夫婦なんだから仲がいい方が甘えられるでしょ?」
「……ご、ごめんなさい」

 咄嗟にした思考を読まれて、言葉を返される。どうやら読まれていたらしい。

 悪口は考えてないが生意気だと言われる可能性を考えて、あらかじめ謝ったすると、エディーは喉を鳴らして笑って、聞いてくる。

「なんで謝るの?」
「生意気な事思って」
「言ってないんだから思うのは自由だよ。っていうか驚かないね、やっぱり俺の魔法気がついてた?」
「……あ」

 ……そうか、逆だ。エディーが白魔法を持ってるってのを知ってるか試されたらしい。

 察してたから当たり前のように受け入れてしまったけれど、普通は驚くだろう。今更ながらそう思い至ってシャロンは黙った。もう喋っても墓穴しか掘らない気がして。

「白魔法の使い手はあまり多くないから、有名な家系以外はもっててもバレない事が多いけど、シャロンは使われ慣れてるのかな。だから、俺の事もすぐわかったんだよね」

 ……その有名な家系がオリファント子爵っていうか、うちの実家だし、ね。

「ちなみに言っておくと、俺は魔力も多いから割と多用していてね。だから成り行きで色々知ってるだけだよ。……例えば君の白魔法の事も、表舞台に出てこない聖女の事も全部知ってる」

 ……なんでそんなことまで私に言ってくるんだろう? きっと信頼されてるのかなって……ね。

 何とかポジティブで乗り切ろうと思ったがそうもいかずにシャロンは口を閉ざしたまま空虚を見つめた。

 頭の中を空っぽにして、だからシャロンの慰謝料の件も知ってたんだ~と納得してしまいたかったが、そうもいかない。

 白魔法だけでそんなことが出来るだろうか。何か別の手段も使っていないだろうか。

 それともよっぽど彼の魔法は使い勝手がいいのか、よくわからなかった。

 とりあえず聖女の事は噂程度に貴族たちにも知られている事なので、口止めをする必要はないとして、言わない情報を他にもいろいろエディーは持っているのだろう。

「だから特別何か悪い事をしてるわけじゃないよ。普通の貴族が普通に情報収集するのと同じ事しかしてない……だからそんなに俺の事警戒しないでよシャロン」
「……う、うーん」
「それに、シャロンだって人が知りえない情報を知ることが出来る魔法を持ってるんだから、俺たちってお揃いだね」
「……」

 やはり正しく、シャロンの魔法は理解されてしまっているらしい。知られて困るようなものではないが、知られていたら動きづらいのは確かだ。

「ね、シャロン。君はそれなりの立場になるはずだった子だから、いつかそのうちいろんなことに気がつくと思うけど、知っても楽しい事なんかないよ」
「何か……知らない方がいいこと、あるってこと」
「そうは言わないよ。ただ気分が滅入るって話」
「うん」
「だから、もっと楽しい事を考えようよ。素直になれないなら俺が本心を読み取ってあげようか」

 そういって後ろからエディーはシャロンの目元を手で覆った。暗くなる視界の中で耳元に口を寄せて彼は言った。

「俺の白魔法は、他人の事をたくさん知るためにあるようなものだからね。こうやって、君の得られる情報をこうやって遮断して、それから、強く魔法を使うと、君が考えまいとしてることまでわかるよ」
「あ、えと、あ、の、ちょっと怖いというか」
「俺の前で考えないようにって意識してることも見通せるし、シャロンの全部を知れる」

 耳元で言われるとぞわぞわして身じろぎしてイスから立ち上がろうとした。

 しかし、振り払って逃げ出すというほどでもないし、本当にやんわり手で目元をおおわれてるだけで、何も他に拘束されていない。でも手をどかそうと片手をあげるとそっと抑えられて、割と怖かった。

 なんでこんなことになったのか考えたが、答えは、もう二度と彼のが立っていて自分だけが座っているような状況にならないようにしよう、と教訓にもならない事ぐらいしか考えつかない。

「君が心の底で求めてる欲求も満たしてあげるよ。シャロン。大好きだからね」
「っ、う」

 チュッと耳に唇が触れてリップ音がした。途端に建設的な思考は失われて、シャロンは耳まで真っ赤になって言われた言葉の意味を考えた。

 ……心の底の欲求……??

 そんなものまで満たしてくれるなどと言われても、そんなものはない、ただシャロンは平穏があればそれでいい、そんな大層なことは考えていない。

 しかしそれをあるものとしてエディーは言う。ならば彼には何かあるのか、それは何なのか。

 気になっても、エディーは自分の事をあまり話さないし、話したくない様子だ。

 シャロンだって強気に出たかったが、こうして若干強引ではあるけれど比較的穏やかで優しいエディーを怒らせたくなくて、黙ってされるがままになるのだった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

あなたが幸せならそれでいいのです

風見ゆうみ
恋愛
流行り病にかかった夫の病気を治すには『神聖な森』と呼ばれている場所にしか生えていない薬草が必要でした。 薬草を採ってきたことで夫の病気は治り、今まで通りの生活に戻るはずだったのに、夫に密かに思いを寄せていた私の親友が、自分が採ってきたと嘘をつき、夫もそれを信じてしまったのです。 わたしが採ってきたと訴えても、親友が採ってきたと周りは口を揃えるため、夫はわたしではなく、親友の意見を信じてしまう。 離婚を言い渡され、追い出された私は、実家に帰ることもできず、住み込みで働ける場所を探すことにしました。 職業斡旋所に行ったわたしは、辺境伯家のメイドを募集している張り紙を見つけ、面接後、そこで働けることに。 社交場に姿を現さないため『熊のような大男』(実物は違いました!)と噂されていた辺境伯の家での暮らしになれてきた頃、元夫の病気が再発して―― ※独特の世界観であり設定はゆるめです。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

聖女の私と婚約破棄? 天罰ってご存じですか?

ぽんぽこ狸
恋愛
 王宮内にある小さな離宮、そこには幸運の女神の聖女であるルーシャが住んでいた。王太子の婚約者であるルーシャはその加護を王太子クリフにすべて捧げるために幼いころから離宮に隔離され暮らしている。  しかし、ある日クリフは、アンジェリカという派手な令嬢を連れてルーシャの元を訪れた。  そして彼らはルーシャの幸運の力は真っ赤な嘘で、ルーシャは聖女を騙ってクリフをだましているのだと糾弾する。    離宮でずっと怠けていて社交界にも顔を出さない怠惰なごく潰しだと言われて、婚約破棄を叩きつけられる。  そんな彼女たちにルーシャは復讐を決意して、天罰について口にするのだった。  四万文字ぐらいの小説です。強火の復讐です。サクッと読んでってください!  恋愛小説9位、女性ホットランキング2位!読者の皆様には感謝しかありません。ありがとうございます!

処理中です...