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しおりを挟むリネン室、掃除用具入れ、空き部屋、中庭、それぞれ中を覗いては、何となく立ち入って何となく出てくる。同じことを繰り返していくと、本館に続くであろう、渡り廊下に差し掛かった。
確か、ヴァレールが本館で魔術をどうこう言っていた気がする。
魔術は嫌いだが、彼が仕事にしている以上は、仕える手前関わらないわけには行かないはずだ。
それに、部屋に戻ってもモーリスは寝ているし、外は雨だ。
本館に立ち入り禁止なんて言われてねぇよな?
だったら、少し探索していても怒られないだろう、使用人用の部屋や通路を回るだけだし。
本館に入ると、別館とは違いずっしりとした重たい空気があった、この城は大きさの割に人が居ないから、空気が澱んでいるのかもしれない。
それに、悪魔や、精霊がいるように、幽鬼も存在する、人が多く死ぬ場所には、魂の残滓が残り溜まる、たまり続けると害のある存在になると聞いている。
……まぁ、俺は霊感が無いんでな、感じたことも見た事もねぇが。でも、晴れの日に来りゃあ良かった。
使用人用の通路なんかは、曇天の空では光も入らず薄暗い、幸い夜目が効く体質なのでそれほど不便は無いが不気味だと言うことに変わりはない。
雨の日特有のじめっとしたねっとりと張り付く空気に暗い廊下、誰でも引き返したくなるだろう。
「ああっ!何してるんですか!!」
ある程度、進んでエントランス部分に顔を出すと、怒号が飛んできた、体がビクと大きく震えて、声のした方を覗き込む。
アルフレッド?何してるって、入るななんて聞いてねぇよ、唐突に言われても困る。
「ふざけないでください、私これでも忙しいんです、次から次に仕事を増やして、何がしたいんですか?答えなさい!」
彼は烈火の如く怒り、捲し立てる。ただ、その声はどうやら俺に向いていないらしい。
エントランスに出てみれば、大きな階段の脇に並んだ調度品の壺が真っ二つに割れていた。
俺じゃない……?じゃあ誰が怒られてんだ?非常勤の使用人?
ただ、どこをどう見ても、アルフレッドのそばに人は居ない。
「いつもボソボソボソボソとっ!今日という今日は許しません、いつもいつも私の予定を狂わせて、ああああっ!!弁償してくださいませんと困るんです!」
アルフレッドは一人で、頭を掻きむしり、エントランス中に響き渡る声で、悲鳴のように叫ぶ。
「この後、私が何をやるか知っていますか?!ヴァレール様に三時のお茶をだし、本館の見回り、剪定業者へと依頼を出し、その後は主人の相談役を務め、夕食の準備をし、フロランに引き継ぎ、新入りの指導や教育も!!山ほど、それはもう山ほどあんるです!!」
し、仕事多そうだな。
「秒刻みで完璧なスケジュールを立てているのに!どうしていつもこう上手くいかないっんだっ!!ああああっ、だいたい、気を引きたいのなら仕事の一つでも、こなして下さないませんか?!私は完璧なのに常に貴方がたのせいで、どう責任を取ってくださるんですか!!」
今にも発狂しそうな声音で言うので、実際に怒られている人が居たら憐れむが、その、怒りを向けられて居るであろう人間が見えない。
というかやっぱり居ないのだ。アルフレッドは誰もいない空に向かって怒り散らしている。発狂しそうだと思ったが、彼はもう既に発狂した後で何処かがイカれている可能性もある。
俺が気迫に動けずにいると、胸元から銃を取り出し、アルフレッドは一点を連射し始める。
耳を劈くような発砲音が響き渡り、ビリビリと肌に伝わって、咄嗟に走り出す。
全力疾走で部屋に戻り、扉を乱暴に閉めて、鍵までかける、するとモーリスが目をこすって起き上がる。
「……なに、うるさいんだけど」
「……」
「え、どしたの」
「アルフレッド……が」
「なに?怒られでもした?」
「……い」
「い?」
「イカレ、てる」
「はぁ?」
どう伝えていいか分からないし、何より、人に言っては行けない様な気がして、端的すぎる物言いになった。
見てはいけない物を見てしまったと思う。あれは、そう、多分、あれだ。
自分の失敗を受け入れられ無くて、とかそういうんだ。癇癪の延長線だ!!
何とか結論づけて、不審がるモーリスを尻目に窓辺に戻る。
雨はまだまだ降り続いていて、幼い頃同様、出来るだけ早く止んで欲しいと思った。
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