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 話がひと段落すると、ヴァレールが撃った銃のせいで割れた窓が気になり、それをぼんやり眺めながら抱きしめられていれば、頬にキスが降ってくる。
少し体を離してヴァレールは頬を緩めた。

「さて、今日は何をしようか」

 上機嫌に言われても、俺は疑問符しか浮かばない。前回は、俺がまったくの未経験であった為、必要な行為だったと思っているが、二回目ともなればやる事はひとつだろう。
 彼の手腕なら、前回言っていた、よがらせたいというのも……達成できないことも無いはずだし、そもそも、ヴァレールが快楽を得る事をするべきだと言う考えは変わらない。

「…………?挿れねぇの」

 何となく迷って、声を小さくして問いかけたが、ヴァレールは当たり前のように返事をする。

「君がそうされたいと言うのなら、出来ないことはないが……」
「ち、ちげぇよ。……何、するかって、セックスすんじゃねぇのかって」
「君はまた、私は独り善がりの行為は」
「わかってる。ちゃんと覚えてんだよ。そのうえでだ……」

 あまりはっきりと言うと、挿れて欲しいと言っているように聞こえてしまわないかと思い言葉を濁す。
 すると彼は、ふむと少し考える仕草をしてから、俺をのぞき込むように見た。

「私はこの行為そのものが、性行為と同等だと感じているのでね。特に挿入に関しては関心がない」

 その価値観に、なんだか自分の浅はかな考えが負けた気がして、少し苛立ち悪態が出てしまう。

「んな事いって、不能なんじゃねぇの」
「……今日は腕が自由だ。少し服をたくしあげなさい」

 ヴァレールは上機嫌なのを隠さずに、サイドチェストから今度は、見覚えのある鞭を取り出す。
 それが取り出されるのを命令に従わずにみていると、ヴァレールは早くしろとばかりに鞭の先端で軽くシャツの裾にひっかけて持ち上げる。

「っ、……こ、こんな事も、お前にとっちゃセックスと、一緒ってか」
「シリル、早くしなさい」
「ああ、そう、かよ。……、あんたサディストなんじゃねぇ」

 よく考えず口にした言葉だったが、ヴァレールはそれを聞いてさらに笑みを深める。
 
 ……ま、まさか。んなわけねぇよな?違うはずだ、こんなに穏和そうで、物腰の柔らかい人間が、有り得ねぇだろ。

「さぁ、君はどう思う」

 俺に問いかけ、彼は腿の当たりを軽く音を立てて鞭で打つ。パシと歯切れのいい音が響いてじわっと痛みが広がる。
 命令通りに服の裾を持ち上げ握り締める。鞭が恐ろしくなって逃げ出したいような心地になるが、体が固く強張ってそれを許さない。強く握った手が汗でベタついて気持ちが悪い。

 パンッと弾けるような大きな音がして、腰辺りに焼印でも押し付けられたようなジリと響く痛みが襲う。

「ッ!!……っ~~」
「ふむ……妻にもこんな事をしたことは無いのだが」
「ッ、っ、……っはぁ、……」
「確かに、彼女を鞭で打ってみたいと思った事はあったな」
「……な、っ、はぁっ、なに」

 涙で歪む視界で、彼を睨みつける。本人に自覚がなくても、愛する人間にそういう欲求が沸いた時点で、加虐趣向の持ち主だと思う。

 痛みが和らぐように患部を摩っていると、彼は思案するのをやめて俺の方へと視線向ける。

「そうだったら、君はどうする?」
「……っ、しるか!変態っ」

 また鞭が振り下ろされ、大きな音が、しんと静まり返った夜の部屋に響く。
 痛みに膝が震えて、ヴァレールの方へと倒れ込む。彼はそれを拒否する事はなく、緩く抱きとめる。

「シリル、素直に」

 耳元で、脳が痺れるような声音で命令され、震える唇で、よく考える事もせずに思ったことを口にする。

「痛てぇのは、い、やだ」
「……」
「好きな奴なんかいねぇだ、ろ?」

 本心だ。サディストって奴は、俺ら見てぇな身分の低いやつを滅多打ちにして、それで興奮しやがるクソどもだ。
 それでイカれた奴隷を何人も見てきた。前のご主人様も似たような人種だ。俺を縛って鞭で打ってその傷でシゴいて射精する……あぁ。思い出しただけでも、腹が立ってきた。

 そんなもんの餌食になんのは御免だ、そもそも、俺が言わなければこんな話にならなかったのかもしれないが。

「ふふ、可愛い事を言う……だが、痛いだけなんて、やはりつまらないと私は思うよ。痛みと恐怖と快楽の中で怯え、堪らず泣き出すような行為の方が私は好みだ」

 ヴァレールは俺の額へとキスをして、緩く頭を撫でる。

「この感情はサディストの一言で片付けられるものかね」
「……やっ、ぱり、変態っじゃねぇか」
「否定はしないさ。初めて君を手にした時、壊しがいがありそうだと心躍らせたからね」

 彼は普通なら、躊躇うような事を堂々と口にしてほほ笑みかける。
 どう考えても普段なら、血の気が引いて突き飛ばすような言葉のはずが、彼に言われると、褒め言葉のように感じて鼓動が高鳴る。

 ……これじゃ、俺まで、イカれてる見てぇじゃねぇか。

「大丈夫、本当に壊したりはしない。君がいい子でいれば、快楽だって沢山与えてあげるさ」

 頬を軽く撫でられ、甘い言葉を囁かれる。
 彼の言ういい子とやらになるまでに、散々、痛い思いをさせられるんだろう事はわかっているのに、酷く魅力的に感じてその手に擦り寄った。

「…………本当に、君は……」
 
 ヴァレールの昂ったような声が少しうれしい。決して、彼の事が好きだとかそういう感情を持っている訳では無い、ただこの状況に乱されているのは自分だけでは無いということが知れて安心する。

「君が、他の人間に汚される前に、私の手元に来てよかった。嬉しいよ」
「意味、わかんねぇ」
「だろうね。いつか分かるさ」
「そうかよ」

素っ気なく返事をすると、ヴァレールは鞭をベットに放って俺を持ち上げる、そのままうつ伏せになるように反転させて置かれた。

「四つん這いになりなさい」
「な、なんで」
「理由が必要かな。私がそうしろと言っているんだ」
「……」

 そう言われてしまうと、反論する言葉も出てこず、彼の前で、膝をついて言われた通りのポーズを取る。

「っはは、違う。尻を突き出すようにこちらに向けなさい。言われなくとも今後はそのようにする事、わかったかな」
「ッ、うっせ」

 したがって彼に見せつけるような形に移動すると、さらけ出した臀部を強めに鞭が打つ。
 
「照れ隠しも可愛いが、苦痛は嫌いなんだろう?」
「あッ、っ、……」

 痛みに呼吸を整えていると、後孔に彼の指が触れて、そのまま侵入してくる。滑剤を使っているのか、すんなりと指を受け入れた。

「う、……ぅ」
「熱いね、君の中は」

 指を全て押し入れ、それからゆっくりと引き抜く、完全に抜いてからまた、存在を確認させるように、ゆっくりと腹の中に押し入れる。
 特に苦しくもないその動きは、むず痒くなるほど緩い刺激で、前回のような異物感は無い、けれどその分、行為自体に対する羞恥や抜ける時の排泄感がなんとも言えない。

「動けば罰する、いいね」
「ッ、わ、かった」





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