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球技大会近づく
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球技大会が近づき、体育の授業もその練習に時間を割いた。G組はやる気だけはあったが運動神経の良い生徒には恵まれなかった。他のクラスはたいていフットサルかバスケットのどちらかに運動神経の良い生徒を集めて、もう一方を捨てるチーム分けをしていたようだが、G組は結果的に戦力が均等にわかれたため、どっち付かずになってしまった。
それでも楽しめれば良いと考える生徒が多かった。だから一部やる気のない生徒がいたとしてもそれほど目立たなかった。
フットサルの練習は、通常の体育授業と異なり男女混合で行われた。球技大会がそういうルールだったからだが、それで法月がやる気なしなのが生出にはよくわかった。法月と同じクラスになったのは三回目だが法月とボールを蹴り合うことになったのは初めてだった。
法月はお世辞にも運動神経は良くなかった。いや運動音痴というべきだ。まず転がってきたボールをまともに蹴ることができない。一緒にいた賀村が、一旦ボールをとめてから蹴ると良いよ、と教えたがボールをとめることすらできなかった。
「もう良いわ、私は逃げているからみんなでうまくやっていて」
球技大会のルール上、一度は試合に出なければならない。最低三分の出場が義務づけられていたから法月はボールに触れずに三分過ごすつもりなのだろう。
生出も出来ることなら同じようにしたかったが、学級委員という立場もあったし、運動神経も並より少し上だったから「戦力」にならざるをえなかった。ただ、男子は常時二名までしか試合に出られず、男子のゴールは得点として認められないルールだったのでシュートは女子にうってもらうしかない。だから動きの悪い法月は前線にいてもらうことになった。
法月以外の女子はそこそこ動けた。声もよく出るし元気だ。法月は居心地悪そうにしていた。体育の授業でもない限り法月が女子生徒とどのように絡んでいるのか見る機会はない。少人数相手には毒舌を発揮する法月は大勢の中だと借りてきた猫のようにおとなしかった。人を寄せつけない態度が、単なる人見知りにしか見えなかった。
ただ、そういう姿を見ると女子生徒は声をかけたくなるようだ。少なくとも「元気組」の女子はそうだった。法月は他の女子たちに励まされ、おだてられ、練習に身を入れるようになった。
「うまくいってるようね」いつの間にか鶴翔が生出のそばに来ていた。
鶴翔はバスケットチームの一員だったが、学級委員の立場と球技大会実行委員会の補佐もしていたので、あちこち視察をしていた。
「法月さんもしっかり動いているじゃない」
「世話焼き女子たちのフォローがあるからね」生出はそう返した。
「じゃあフットサルチームは生出君に任せたからね」鶴翔は爽やかに笑うと去っていった。
相変わらず鶴翔は忙しい。あちこち見回って声かけを行っている。法月をはじめ一人一人をよく見ている。まさにG組の顔。学級委員は鶴翔だと誰もが認識していた。生出はその助手、側近のような位置付けで、縁の下で鶴翔を支え、雑用を一手に引き受けていた。この一月あまりでその図式がクラスの中で浸透していた。
「そろそろ試合形式でやってみよう」
フットサル指導をしていた女子体育教師でG組担任でもある沢辺が提案した。相変わらず声が大きい。大きいのは声だけではなかった。
男子生徒はホームルームでの沢辺しか見ることがない。胸が豊満な肥満体格だと男子生徒は思っていた。しかしジャージ姿の沢辺は、肩幅も広く、水泳をしていたという噂が本当だと生出は認識した。
腰の辺りが括れていて上半身は大きな逆三角形をしている。そして尻から太ももにかけて見事な張りがあった。身長は百六十あるかないかなのにかなり大きく見えるのだ。顔が童顔なので女子大生にも見える。可愛い顔に肉付きの良い体格。男子生徒には目に毒だった。
沢辺はサッカーの経験はないようだが、体育教師としてよく勉強していた。だから指導も素人の生徒に詳しく熱弁した。
「男子のシュートは得点にならないから、男子は原則としてゴレイロとフィクソね」
沢辺は用意していたスケッチブックを広げて説明する。そこにはフットサルのポジションが書かれていた。沢辺が書いたのだろう。字が丸くて可愛い。高校生女子の字だ。ゴレイロはゴールキーパー、フィクソはディフェンダーにあたる。なお、ゴレイロは全体をみて指示出しをする重要な役割があるため、声が大きくリーダーシップを発揮する者が適任だ。
G組男子でフットサルチームに入ったのは八人。試合には同時に二名しか出られないから、予選リーグの二試合に四人ずつ、前半後半に二人ずつ出ることになる。
沢辺は生出にゴレイロをやらせたかったようだが、リーダーシップに自信のない生出はフィクソを希望した。生出と組むゴレイロには賀村がなってくれた。女子への指示出しに秀でた賀村なら適任だと生出は思った。
はじめはG組のチーム同士で試合形式の練習をした。大会では七分ハーフなので七分ゲームして、別のチームと対戦もしくは休憩をとる流れとなった。
生出のチームには法月もいたが、ゲームでは法月以外の女子二人が動かざるをえなかった。彼女たちも率先して動くタイプではなかったが、法月よりは運動神経が良かったし、賀村が大きな声で指示出しをしたから、素直に動いた。どのチームも似たような形をとっていた。男子二人がゴレイロとフィクソをつとめ、攻撃時は女子三人にフィクソがパス出しをし、守備時は全員で守った。
生出はなるべく法月へパスをしないようつとめた。法月から拒否の顔が常に向けられていたからだ。しかし全くパスをしないというのも不自然なので、ゲーム展開に差し障りのない程度に法月へパスを出した。結果は良くはなかったが、少なくとも蹴り出した足が空振りするようなことはなくなっていた。
それでも楽しめれば良いと考える生徒が多かった。だから一部やる気のない生徒がいたとしてもそれほど目立たなかった。
フットサルの練習は、通常の体育授業と異なり男女混合で行われた。球技大会がそういうルールだったからだが、それで法月がやる気なしなのが生出にはよくわかった。法月と同じクラスになったのは三回目だが法月とボールを蹴り合うことになったのは初めてだった。
法月はお世辞にも運動神経は良くなかった。いや運動音痴というべきだ。まず転がってきたボールをまともに蹴ることができない。一緒にいた賀村が、一旦ボールをとめてから蹴ると良いよ、と教えたがボールをとめることすらできなかった。
「もう良いわ、私は逃げているからみんなでうまくやっていて」
球技大会のルール上、一度は試合に出なければならない。最低三分の出場が義務づけられていたから法月はボールに触れずに三分過ごすつもりなのだろう。
生出も出来ることなら同じようにしたかったが、学級委員という立場もあったし、運動神経も並より少し上だったから「戦力」にならざるをえなかった。ただ、男子は常時二名までしか試合に出られず、男子のゴールは得点として認められないルールだったのでシュートは女子にうってもらうしかない。だから動きの悪い法月は前線にいてもらうことになった。
法月以外の女子はそこそこ動けた。声もよく出るし元気だ。法月は居心地悪そうにしていた。体育の授業でもない限り法月が女子生徒とどのように絡んでいるのか見る機会はない。少人数相手には毒舌を発揮する法月は大勢の中だと借りてきた猫のようにおとなしかった。人を寄せつけない態度が、単なる人見知りにしか見えなかった。
ただ、そういう姿を見ると女子生徒は声をかけたくなるようだ。少なくとも「元気組」の女子はそうだった。法月は他の女子たちに励まされ、おだてられ、練習に身を入れるようになった。
「うまくいってるようね」いつの間にか鶴翔が生出のそばに来ていた。
鶴翔はバスケットチームの一員だったが、学級委員の立場と球技大会実行委員会の補佐もしていたので、あちこち視察をしていた。
「法月さんもしっかり動いているじゃない」
「世話焼き女子たちのフォローがあるからね」生出はそう返した。
「じゃあフットサルチームは生出君に任せたからね」鶴翔は爽やかに笑うと去っていった。
相変わらず鶴翔は忙しい。あちこち見回って声かけを行っている。法月をはじめ一人一人をよく見ている。まさにG組の顔。学級委員は鶴翔だと誰もが認識していた。生出はその助手、側近のような位置付けで、縁の下で鶴翔を支え、雑用を一手に引き受けていた。この一月あまりでその図式がクラスの中で浸透していた。
「そろそろ試合形式でやってみよう」
フットサル指導をしていた女子体育教師でG組担任でもある沢辺が提案した。相変わらず声が大きい。大きいのは声だけではなかった。
男子生徒はホームルームでの沢辺しか見ることがない。胸が豊満な肥満体格だと男子生徒は思っていた。しかしジャージ姿の沢辺は、肩幅も広く、水泳をしていたという噂が本当だと生出は認識した。
腰の辺りが括れていて上半身は大きな逆三角形をしている。そして尻から太ももにかけて見事な張りがあった。身長は百六十あるかないかなのにかなり大きく見えるのだ。顔が童顔なので女子大生にも見える。可愛い顔に肉付きの良い体格。男子生徒には目に毒だった。
沢辺はサッカーの経験はないようだが、体育教師としてよく勉強していた。だから指導も素人の生徒に詳しく熱弁した。
「男子のシュートは得点にならないから、男子は原則としてゴレイロとフィクソね」
沢辺は用意していたスケッチブックを広げて説明する。そこにはフットサルのポジションが書かれていた。沢辺が書いたのだろう。字が丸くて可愛い。高校生女子の字だ。ゴレイロはゴールキーパー、フィクソはディフェンダーにあたる。なお、ゴレイロは全体をみて指示出しをする重要な役割があるため、声が大きくリーダーシップを発揮する者が適任だ。
G組男子でフットサルチームに入ったのは八人。試合には同時に二名しか出られないから、予選リーグの二試合に四人ずつ、前半後半に二人ずつ出ることになる。
沢辺は生出にゴレイロをやらせたかったようだが、リーダーシップに自信のない生出はフィクソを希望した。生出と組むゴレイロには賀村がなってくれた。女子への指示出しに秀でた賀村なら適任だと生出は思った。
はじめはG組のチーム同士で試合形式の練習をした。大会では七分ハーフなので七分ゲームして、別のチームと対戦もしくは休憩をとる流れとなった。
生出のチームには法月もいたが、ゲームでは法月以外の女子二人が動かざるをえなかった。彼女たちも率先して動くタイプではなかったが、法月よりは運動神経が良かったし、賀村が大きな声で指示出しをしたから、素直に動いた。どのチームも似たような形をとっていた。男子二人がゴレイロとフィクソをつとめ、攻撃時は女子三人にフィクソがパス出しをし、守備時は全員で守った。
生出はなるべく法月へパスをしないようつとめた。法月から拒否の顔が常に向けられていたからだ。しかし全くパスをしないというのも不自然なので、ゲーム展開に差し障りのない程度に法月へパスを出した。結果は良くはなかったが、少なくとも蹴り出した足が空振りするようなことはなくなっていた。
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