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故郷 佐原編

撒き餌する二人

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 翌日朝。火花ほのかは心身とも痛みを抱えて登校した。
 体の痛みは明日にはとれるだろう。祖父とやりあった時も、喧嘩をした時もすぐに治った。しかし心に空いた穴が塞がるのは時間がかかる。日和ひよりとはまだ顔を合わせていない。何と言うべきか言葉も浮かばなかった。
 昼休みに階段踊り場で佐内一葉さないかずはといつもの密談をした。
 ふだんなら隠密気分で面白おかしく話ができるのだが、そういう気分にはなれなかった。
「何かあったの?」一葉は目敏く火花の変化を見つける。
雷人らいとと日和が付き合うことになった」
「あちゃー、火花、ふられたの?」一葉は「鮎沢君」ではなく「火花」と呼んでいた。
「告ってねえし」
「ぼやぼやしてたから」
「俺が告ったって結果は同じだっただろうな」
「そうかな」
「そうだ」
「まあ、私には関係ないけど」
 そういう話をしていると、それを嗅ぎ付けたかのように西銘にしなが通りかかった。
「先生、よく会いますね」一葉が先に声をかけた。
「本当ね、よく一緒にいる二人だこと」授業中の西銘ではない。「どうしたの、鮎沢くん、元気がないよね?」
「ただいま傷心中です」
「あら、あなた選ばれなかったの?」
「選ばれる以前の問題。告ってないです」
「そうだったの。私はてっきり二人並んで手を差し出したのかと思ったわ」
「どうも先生はそれを狙っていたようですね。でも俺は何も言わずに去りましたから」
「意外と乙女チックだったのね、鮎沢くん」
「女みたいで悪かったです。てか、先生、そんな経験がありますね?」
「な、何を言っているのよ、ないわよ」
 地雷を踏んだかな、と火花は思った。
「とにかく俺は学級委員さんに慰めてもらっているところです」
「学級委員も大変ね」西銘は一葉を見た。
「でも先生に邪魔されたので、続きは放課後にでもします」火花が言うと、一葉は「バカじゃないの」と返した。
「邪魔者は退散するわ」
 西銘が踵を返した後、しばらくして火花と一葉は向き合った。
「これで種を撒いたことになるのかしら?」
「俺は食いつくとみた」
「半々ね」
「その時は頼んだぜ」火花は笑った。  
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