ジミクラ 二年C組

hakusuya

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先発隊の五人

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 時間がもったいないとか言って樋笠ひがさが早速マイクを握った。飲み物やらピザやらをオーダーしている傍でだ。
 樋笠は歌を歌わせている方がうるさくない。
 届けられたピザを栗原が食べる横で、篠塚は久しぶりに高原や神々廻ししばと喋った。
「A組はどうなの? まとまってるの?」
 高原に対してそれは愚問だと思ったが篠塚は遠慮なく訊いた。
「思ったよりおとなしい感じかな」高原は答えた。
和泉いずみがいるからまとまっている」神々廻が言った。
 外では高原のことも名前呼びだ。学校では名字に「さん」付けして呼んでいるし、制服姿の時は男性口調でもなかった。
璃乃りのがこうして目を光らせているし、助かっているよ」高原は笑った。
「B組が予想以上に対抗意識を見せている」
「そうだね、あっちは学級委員からして好戦的だね」高原は否定しなかった。
「誰だっけ?」
酒寄さかきさんと三井君だよ」
「顔しかわからない」
「同じクラスでなきゃそんなもんだよ」
「恭平と純香すみかはそれに手を貸しているのか?」
「あの二人は好戦的にはなれないけど、同じクラスだし、学級委員の二人を含めてグループ作ったからね」
「なんか大変だな。それに比べたらうちはゆるゆるやってるよ」
「そうかな? 球技大会はけっこうガチだったと思うけど」
「ああいう時はガチになるんだろ、多分」
 篠塚はすっとぼけた。東雲しののめ西潟にしかたはそういうタイプだ。
 マイクは高原に渡った。
 樋笠が寄ってきた。
「璃乃の私服姿、久しぶりに見たけど、破壊力ハンパない」
「別に、地味な格好だと思うが」
「女王の風格が出ているよ。まさにS組一の美貌」
「大地が言うとウソにしか聞こえない」
「いや、俺もそう思うよ」篠塚は穏やかに言った。「学校でもコンタクトにして髪を下ろせば良いのに」
「やはりシノはチャラくなったな。女に囲まれているからか?」
「そうかもよ」樋笠が口を挟む。「シノはC組に男友だちいないみたいでさ、女子と一緒かボッチかのどちらかだぜ」
「たまにしか来ないくせに何がわかるんだ?」とは言いつつ、当たっていると篠塚は思った。
 どうもこのメンバーだと昔に戻ってしまう。自称が「俺」になるし、仲間を名前呼びだ。篠塚は苦笑した。
「そういえば音楽室の件」神々廻が思い出したように言った。「週に一度、軽音が使えるようになったから」
「軽音同好会から頼まれたのか?」
「それもあるけど、生徒会からも週に一度くらい貸して上げてと言われた」
「それは泉月いつき?」
「そうだ」
 東矢泉月とうやいつきが動くとは意外だと篠塚は思った。
「意外そうな顔をしているね」
「ああ、何となく彼女らしくないかなと」
「まあ、意外でもないのだが」
「ん?」
「いや、何でもない。聞かなかったことにして」神々廻は口を噤んだ。  
 出番が回ってきたので篠塚はいつものようにアニソンを歌った。
 樋笠にしかわからない。いや、案外高原も知っていて知らない振りをしているのかも知れないが、オリジナルがわからなければ誤魔化しが利くのだった。
「優等生のシノとアニソン、意外と合うんだよな」
「俺は大地みたいに芸に秀でてないからな」歌い終わって樋笠と並んで話をする。「演劇部の助っ人するんだろ?」
「今度は主役だぜ」樋笠はソファーにのけぞった。
「演劇部の人材難を考慮に入れても、大地の芝居はなかなかだからな。何をやるんだっけ?」
「『マリウス』」
「ん?」
「マルセル・パニョルの『マリウス』だよ。マルセイユ三部作、知らねえかな」
「知らないし」
「名画座オリオンでもやってたぜ」
「芝居は見ないし」
「ふつう、そうだよな」
「いつやるんだ?」
「七月公演だな」
 御堂藤みどうふじ学園は敷地内にホールを持っていた。音楽部の演奏会だのを定期的に披露している。全校生徒が入るには小さいが、一学年くらいは入場可能だ。
「期待しているよ」
「ありがとー」
 神々廻がしっとりとした失恋ソングを歌っていた。けっこう様になっている。
「渋い選曲だねえ」言い方や態度がふざけているが樋笠は間違いなく称賛していた。
「失恋でもしたのか?」篠塚は真顔で訊いた。
「お、気になるか?シノ」
「いや別に」
 先日、受験勉強開始宣言を神々廻の口から聞いている。浮いた話があったとも思えなかった。
「誰でも、それなりに、いろいろあるんだろ。俺はないけど」樋笠はしみじみと言った。
「そろそろ着く頃合いかな」たいていのことは高原の言った通りになる。
 程なくして追加メンバーが三人登場した。
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