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孤高の転入生
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新しいクラスに馴染み、S組グループから徐々に離れていった。馴染んだとはいえ、C組に友人ができたわけではない。C組はおとなしいクラスだった。互いに干渉しない性格の生徒が揃っているようだ。特に転校生の東雲桂羅は独立性が顕著で、私語は何一つ発しなかった。
そしてそういう雰囲気を重苦しく感じる生徒は、休憩時間になると教室の外へと出ていく。部活をしている者は部室へと逃げ、勉強に集中したい者は図書室へ行くか、職員室に教師を訪ねて質問をするようだった。篠塚は教科書を手にして物思いに耽った。
隣の窓際の主は今孤高の存在だ。目を閉じて何か瞑想している。そしてその指先は机の上で細かく動いていた。何かタップしているような動きだ。頭の中で音楽が鳴っているのだろうか。
気づかれないように横目でチラリチラリと観察する。いつの間に自分はストーカーもどきになったのだろう。しかし少々の危険を侵しても東雲桂羅は観察する価値があった。
彼女は昼休みになると学食でひとりランチをする。誰かと一緒に食事をすることはなかった。そして食事が終わると校内散歩だ。部室棟へ行ったり、グラウンドに出たり、中庭を散策したり。その行動パターンを、篠塚は何度かの細切れの「尾行」をつなぎ合わせてつきとめたのだった。
ただ彼女が誰かに話しかけなくても、誰かの方が彼女に話しかけることはあった。話しかけづらい雰囲気を纏っている東雲桂羅に話しかけるだけの度胸を持つ者がわずかでもいるのは確かだった。
その一人は、二年H組星川漣。生徒会書記だ。高等部からの入学者で今や学園を席巻する存在になっている。渋谷とはまた異なるタイプのイケメンで、フェミニストでもある。困っていそうな女子を見つけると、躊躇いもなく声をかける。篠塚の目にはそれがとにかくチャラく映った。その星川が東雲桂羅に声をかけないはずがない。
「東雲さん、ご機嫌麗しゅう」通りがかりの廊下でも無表情の彼女に対して星川は声をかける。「どちらさんで?」と言われてもくじけることはない。
「生徒会書記の星川だよ」と何度でも自己紹介する有り様だった。
「そうですか、どうも。失礼します」東雲桂羅はそういう星川を無視し続けた。
星川は余裕の笑みを浮かべて彼女の後ろ姿を見送る。おそらく生徒会でも会長の舞子実里や副会長の東矢泉月に対しても同じ態度をとっているのだろう。その星川が成績優秀者としてどの教科も常に三位以内に入っている。中等部の頃の上位五位以内に必ず入っていた篠塚にとって高等部入学組の中に何人かいる逸材は太刀打ちできない存在だった。
御堂藤学園の偏差値は高等部の方が中等部よりも高い。高等部から入ってくる生徒が、入試のない中高一貫組より勉強ができたとしても不思議でなかった。かつてのS組十傑に斜陽が差した要因の一つはそこにもある。S組十傑で今も成績優秀者十傑に名を連ねるのは東矢泉月と神々廻璃乃、高原和泉、浅倉明音くらいだ。あとのメンバーは貼り出される上位五十位には入るものの、かつての精彩は欠いている。
篠塚もまた上位十位から二十位の間をうろうろしている状態だった。三百名あまりになった生徒数を考えれば二十位でも良い方だと考えることもできるが、上ばかり気になってしまうのだった。
さて、東雲桂羅に絡む別の生徒は新聞部の面々だった。特にその一人、伊沢という二年E組の女子は転校生への気遣いのつもりなのか、独りでいる東雲にひと声ふた声かけるのを趣味のようにしていた。
伊沢も高等部からの入学者だ。伊沢が東雲に対して何と声をかけているのか遠目で見る篠塚にはわからない。しかし星川に比べれば東雲に敬遠されている様子は見られなかった。ただ要注意なのは伊沢が周囲に目を配らせていることだ。東雲の後をそっと見る篠塚を伊沢は目敏く見つけることがあった。
「C組の篠塚くんね?」伊沢は黒縁眼鏡の奥で目を輝かせ篠塚に話しかける。「転校生の東雲さんをよろしくね」
そう言って笑顔になる伊沢は何もかもお見通しのように見えるのだった。だから篠塚は東雲の観察を少しわきまえるようになった。
新聞部の人間は常にゴシップを探している。彼らに下手に目をつけられるとろくなことがないのだ。篠塚は東雲に対する観察を教室内だけに限ることにした。
そしてそういう雰囲気を重苦しく感じる生徒は、休憩時間になると教室の外へと出ていく。部活をしている者は部室へと逃げ、勉強に集中したい者は図書室へ行くか、職員室に教師を訪ねて質問をするようだった。篠塚は教科書を手にして物思いに耽った。
隣の窓際の主は今孤高の存在だ。目を閉じて何か瞑想している。そしてその指先は机の上で細かく動いていた。何かタップしているような動きだ。頭の中で音楽が鳴っているのだろうか。
気づかれないように横目でチラリチラリと観察する。いつの間に自分はストーカーもどきになったのだろう。しかし少々の危険を侵しても東雲桂羅は観察する価値があった。
彼女は昼休みになると学食でひとりランチをする。誰かと一緒に食事をすることはなかった。そして食事が終わると校内散歩だ。部室棟へ行ったり、グラウンドに出たり、中庭を散策したり。その行動パターンを、篠塚は何度かの細切れの「尾行」をつなぎ合わせてつきとめたのだった。
ただ彼女が誰かに話しかけなくても、誰かの方が彼女に話しかけることはあった。話しかけづらい雰囲気を纏っている東雲桂羅に話しかけるだけの度胸を持つ者がわずかでもいるのは確かだった。
その一人は、二年H組星川漣。生徒会書記だ。高等部からの入学者で今や学園を席巻する存在になっている。渋谷とはまた異なるタイプのイケメンで、フェミニストでもある。困っていそうな女子を見つけると、躊躇いもなく声をかける。篠塚の目にはそれがとにかくチャラく映った。その星川が東雲桂羅に声をかけないはずがない。
「東雲さん、ご機嫌麗しゅう」通りがかりの廊下でも無表情の彼女に対して星川は声をかける。「どちらさんで?」と言われてもくじけることはない。
「生徒会書記の星川だよ」と何度でも自己紹介する有り様だった。
「そうですか、どうも。失礼します」東雲桂羅はそういう星川を無視し続けた。
星川は余裕の笑みを浮かべて彼女の後ろ姿を見送る。おそらく生徒会でも会長の舞子実里や副会長の東矢泉月に対しても同じ態度をとっているのだろう。その星川が成績優秀者としてどの教科も常に三位以内に入っている。中等部の頃の上位五位以内に必ず入っていた篠塚にとって高等部入学組の中に何人かいる逸材は太刀打ちできない存在だった。
御堂藤学園の偏差値は高等部の方が中等部よりも高い。高等部から入ってくる生徒が、入試のない中高一貫組より勉強ができたとしても不思議でなかった。かつてのS組十傑に斜陽が差した要因の一つはそこにもある。S組十傑で今も成績優秀者十傑に名を連ねるのは東矢泉月と神々廻璃乃、高原和泉、浅倉明音くらいだ。あとのメンバーは貼り出される上位五十位には入るものの、かつての精彩は欠いている。
篠塚もまた上位十位から二十位の間をうろうろしている状態だった。三百名あまりになった生徒数を考えれば二十位でも良い方だと考えることもできるが、上ばかり気になってしまうのだった。
さて、東雲桂羅に絡む別の生徒は新聞部の面々だった。特にその一人、伊沢という二年E組の女子は転校生への気遣いのつもりなのか、独りでいる東雲にひと声ふた声かけるのを趣味のようにしていた。
伊沢も高等部からの入学者だ。伊沢が東雲に対して何と声をかけているのか遠目で見る篠塚にはわからない。しかし星川に比べれば東雲に敬遠されている様子は見られなかった。ただ要注意なのは伊沢が周囲に目を配らせていることだ。東雲の後をそっと見る篠塚を伊沢は目敏く見つけることがあった。
「C組の篠塚くんね?」伊沢は黒縁眼鏡の奥で目を輝かせ篠塚に話しかける。「転校生の東雲さんをよろしくね」
そう言って笑顔になる伊沢は何もかもお見通しのように見えるのだった。だから篠塚は東雲の観察を少しわきまえるようになった。
新聞部の人間は常にゴシップを探している。彼らに下手に目をつけられるとろくなことがないのだ。篠塚は東雲に対する観察を教室内だけに限ることにした。
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