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トラック競技オーバーテイカー プレセア暦三〇四八年 ローゼンタール王都学院
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生徒会室を離れたロアルドは、寄宿舎に戻るために歩いた。その途中でアーサーたちがトラック競技の練習をしているのを見かけた。
トラック競技は空中飛行しながらトラックを周回する競技で、魔法を使えない仕官科の生徒には縁のない競技だった。どこのチームも代表が出場することになっている。
そのトラック競技の中でもオーバーテイカーという追い抜き競技が体育祭では人気の目玉競技になっていた。しかも配点が高い。空中騎馬戦と同じくらい高い配点になっている。
このオーバーテイカーを制したチームが高得点をとるのは間違いなかった。
ロアルドのチームは十二人だが、オーバーテイカーは一チーム五人なので、アーサーら騎士科魔法科の生徒が代表になっていた。
とはいえ、戦力として期待されるのが一年生のアーサーとオスカーだけだったので、ロアルドのチームは決して強いとは言えなかった。
オーバーテイカーのルールは単純だ。
空中のショートトラックに敵味方四名ずつがぐるぐると高速で飛行している。攻撃側にはさらにジャマ―と呼ばれる得点源のプレイヤーがいて、このジャマ―が前を飛ぶ敵を一人追い越すたびに一点が加算される仕組みになっていた。
敵プレイヤーは追い越されないようにブロックする。味方プレイヤーは追い越しをサポートするために敵プレイヤーをブロックしたり、味方ジャマ―の加速をサポートしたりする。
攻守は原則として一分で交代。守備側になったらジャマ―は退場し、敵側ジャマ―が参入してプレイが再開されるのだった。
なおブロックに魔法による攻撃は許されない。あくまでも体で追い抜きを阻むかたちだ。ほぼ体当たりだけが許されている。
そういう過激な競技だったために、騎士科生徒の花形競技であった。魔法科の生徒はジャマ―として高速飛行で敵プレイヤーのブロックをかわしながら数多くの敵プレイヤーを追い抜いていくのだ。
アーサーはブロッカーとして、オスカーがジャマーとしてチーム練習していたが、他のプレイヤーがあまりにも脆弱で、練習相手のチームに良いようにあしらわれていた。
その練習相手がジェシカのチームだったのだ。
いつぞやのアーサーが騎士科先輩にからまれて私闘をした一件からアーサーはジェシカに顔を覚えられ、こうした体育会系の練習に協力してくれるようになったようだ。
アーサーの様子は気になったが、そこにジェシカがいたので、学院内では姉弟の関係は表に出さないという大原則にのっとり、ロアルドはその場を離れて帰ろうとした。
しかし思いもよらぬものが目に入ってしまった。
ジェシカのチームのジャマ―。恐ろしいくらい高速でトラックを旋回しながら飛ぶ男。その男が跨るステッキは見たこともないタイプのブルーム型ステッキだった。
黒光りするそのステッキの材質はよくわからない。軽くてしなやかで強度のあるステッキ。何となくそのように思われた。そして尾部から陽炎のように空気を揺り動かして高火力のエアロを噴出している。
アーサーがブロックを試みるも、ブレーキのかかったジグザグした動きで瞬時に抜き去って行った。
「なんだよ、あれ……」ロアルドのチームメイトが呆れるような声を出した。
「最新鋭のエゼルムンド帝国製ブルーム型ステッキですね」守備時間帯であるためにトラックを離れていたオスカーが言った。
そのオスカーがロアルドを横目で見た。
「三年生の留学生だよ。エゼルムンド帝国からの。確か……フランツとか言ったかな」
そうか、彼がフランツなのか。
「どうだい、ジェシカ、わが帝国の技術は?」
悦に入った顔でフランツが見る先に、呆れた顔をしたジェシカが腕組みをして立っていた。
「はいはい……よくわかったから……」
まるで相手にしていない。ジェシカからは嫌悪感しか感じられなかった。
「あんたの実力じゃないでしょう?」
「僕ならただの棒切れステッキでもジャマ―は務まるけどね」
「なら、それを見せてよ」
「姫様のお言いつけなら、従わなければならないね」
フランツは、はるか彼方を飛んでいた鷹が獲物を見つけて襲い掛かるように急降下してジェシカの傍らに降り立った。
ため息があちこちからあがった。
あまりに気障でわざとらしい振る舞いに、この男は好きになれないな、とロアルドは思った。
トラック競技は空中飛行しながらトラックを周回する競技で、魔法を使えない仕官科の生徒には縁のない競技だった。どこのチームも代表が出場することになっている。
そのトラック競技の中でもオーバーテイカーという追い抜き競技が体育祭では人気の目玉競技になっていた。しかも配点が高い。空中騎馬戦と同じくらい高い配点になっている。
このオーバーテイカーを制したチームが高得点をとるのは間違いなかった。
ロアルドのチームは十二人だが、オーバーテイカーは一チーム五人なので、アーサーら騎士科魔法科の生徒が代表になっていた。
とはいえ、戦力として期待されるのが一年生のアーサーとオスカーだけだったので、ロアルドのチームは決して強いとは言えなかった。
オーバーテイカーのルールは単純だ。
空中のショートトラックに敵味方四名ずつがぐるぐると高速で飛行している。攻撃側にはさらにジャマ―と呼ばれる得点源のプレイヤーがいて、このジャマ―が前を飛ぶ敵を一人追い越すたびに一点が加算される仕組みになっていた。
敵プレイヤーは追い越されないようにブロックする。味方プレイヤーは追い越しをサポートするために敵プレイヤーをブロックしたり、味方ジャマ―の加速をサポートしたりする。
攻守は原則として一分で交代。守備側になったらジャマ―は退場し、敵側ジャマ―が参入してプレイが再開されるのだった。
なおブロックに魔法による攻撃は許されない。あくまでも体で追い抜きを阻むかたちだ。ほぼ体当たりだけが許されている。
そういう過激な競技だったために、騎士科生徒の花形競技であった。魔法科の生徒はジャマ―として高速飛行で敵プレイヤーのブロックをかわしながら数多くの敵プレイヤーを追い抜いていくのだ。
アーサーはブロッカーとして、オスカーがジャマーとしてチーム練習していたが、他のプレイヤーがあまりにも脆弱で、練習相手のチームに良いようにあしらわれていた。
その練習相手がジェシカのチームだったのだ。
いつぞやのアーサーが騎士科先輩にからまれて私闘をした一件からアーサーはジェシカに顔を覚えられ、こうした体育会系の練習に協力してくれるようになったようだ。
アーサーの様子は気になったが、そこにジェシカがいたので、学院内では姉弟の関係は表に出さないという大原則にのっとり、ロアルドはその場を離れて帰ろうとした。
しかし思いもよらぬものが目に入ってしまった。
ジェシカのチームのジャマ―。恐ろしいくらい高速でトラックを旋回しながら飛ぶ男。その男が跨るステッキは見たこともないタイプのブルーム型ステッキだった。
黒光りするそのステッキの材質はよくわからない。軽くてしなやかで強度のあるステッキ。何となくそのように思われた。そして尾部から陽炎のように空気を揺り動かして高火力のエアロを噴出している。
アーサーがブロックを試みるも、ブレーキのかかったジグザグした動きで瞬時に抜き去って行った。
「なんだよ、あれ……」ロアルドのチームメイトが呆れるような声を出した。
「最新鋭のエゼルムンド帝国製ブルーム型ステッキですね」守備時間帯であるためにトラックを離れていたオスカーが言った。
そのオスカーがロアルドを横目で見た。
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そうか、彼がフランツなのか。
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「はいはい……よくわかったから……」
まるで相手にしていない。ジェシカからは嫌悪感しか感じられなかった。
「あんたの実力じゃないでしょう?」
「僕ならただの棒切れステッキでもジャマ―は務まるけどね」
「なら、それを見せてよ」
「姫様のお言いつけなら、従わなければならないね」
フランツは、はるか彼方を飛んでいた鷹が獲物を見つけて襲い掛かるように急降下してジェシカの傍らに降り立った。
ため息があちこちからあがった。
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