上 下
81 / 91

拭いきれない不安 (本社トレーナー 柚木璃瀬)

しおりを挟む
 神那かんなの反応は、一部満足いくものだったが、一部は不安を抱えるものとなった。
 璃瀬りせが描いたシナリオ通りにはことは運ばなかった。はじめからうまくいく予感はなかった。高見澤神那たかみさわかんなという高校生が、自分の手に余る人間であることを、璃瀬はそれまでの彼女の行動パターンから何となく理解しているつもりだった。しかし成り行きでつい強攻策に出てしまい、神那の心は固く閉ざされたようになったのだ。自分の方こそ人間ができていないと璃瀬は後悔した。
 もう本社の電話相談室にはクレームの電話はかからなくなるだろう。それをもって成功ということはできる。一部満足いく結果といって良い。しかし神那と打ち解けることができなかったのは、明らかな失敗だった。そればかりが頭を過ぎり、徐々に憂鬱な気分に陥っていく。神那が亮子に対してストーカーのような行動に走りはしないかという妄想まで浮かんでしまった。
 あの年頃の女性同士の恋心も馬鹿にはできない。下手をすると通常の男女の間のそれよりも濃密で厄介な展開を引き起こしかねないと璃瀬は危惧した。
 どうしたものだろうか。神那の思いの的である赤塚亮子にそれとなく仄めかし、彼女に注意を促すとともに、神那を傷つけずにうまく取り計らってもらうよう依頼すべきか。
 しかし、赤塚亮子という女子大生アルバイトに対して、今ひとつその人間性を把握していないことを思い出し、璃瀬は迷った。彼女に相談したとして、彼女はどう行動するだろう。神那の想いを受け止め、その上で神那にやさしく、それは違うよ、と言えるだろうか。それとも……。
 他のクルーたちはどう感じているのだろう。神那が亮子に対して抱いている気持ちを、同じ現場にいる彼女たちが気づいていないとは考えられない。
 そこまで考えた時、璃瀬の脳裡に蒲田美香の顔が浮かんだ。またしても彼女の助けを借りることになるのか。彼女なら亮子についてもよくわかっているだろうし、どういう対応をしたら良いか何らかの示唆を与えてくれるかもしれない。
 璃瀬は蒲田美香に話をすることを決めた。もちろんクレーマーの件は伏せる。あくまでもクルー同士の人間関係の話として彼女に意見を聞くのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ツイン・ボーカル

hakusuya
現代文学
 芸能事務所の雇われ社長を務める八波龍介は、かつての仲間から伝説のボーカル、レイの再来というべき逸材を見つけたと報告を受ける。しかしその逸材との顔合わせが実現することなく、その仲間は急逝した。ほんとうに伝説の声の持ち主はいたのか。仲間が残したノートパソコンの中にそれらしき音源を見つけた八波は、その声を求めてオーディション番組を利用することを思い立つ。  これは奇蹟の声を追い求める者たちの物語。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

処理中です...