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鉢合わせ (御木本英司)

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 一週間もした頃、英司は再びめぐみを松原のマンションへ連れて行った。
 跨線橋を渡り終えたあたりから、めぐみの態度が一変する。英司の腕に手を回し、体を摺り寄せてすっかり彼女になった気分だ。取り澄ました女を陥落させることは楽しいが、べたべた纏わりつく女は好みでなかった。
(ちょっと見込み違いかな、俺としたことが)
 めぐみを彼女に格上げする案は、しばらく棚上げだと英司は考えた。
 しかし抱く分には申し分ない。どんな女であれ、生身の体は英司を癒してくれた。二度目にして英司の愛撫に反応するようになっためぐみは、筋の良さを見せるようだった。彼女の前の男は何をしていたのだろうと英司は思った。よほど下手な奴に違いない。
 今日松原は閉店までの勤務のはずだ。そうなると九時半までここを使えると英司は考えた。
 松原は自分が家にいる時は誰か女を連れ込むことがあるようだが、留守中に彼を訪ねる女は皆無だった。
 「草」を吸い、英司はめぐみと戯れた。
 ワンプレイが済むと、一緒にシャワーを浴びた。そこで英司はめぐみに口で奉仕することを要求した。めぐみはさすがに顔をしかめたが、もはや彼女は英司に逆らえなくなっていた。
 ぎこちなく銜えるめぐみにフェラのやり方を教え、その喉の奥にぶちまける。
 めぐみは「うぇー」とか言って洗面台に吐いていたが、満更でもない様子だった。
「御木本君、私以外にも同じようなことしているでしょう?」
「彼女にか?」
「違うわよ、他の女たちよ。きっともっとたくさんいるに違いないわ」
「お前、自分のこと棚に上げて、嫉妬かよ」
「だって、気持ちいいんだもん、御木本君を私だけのものにしたいわ」
「表向きの彼女にしてやってもいいぜ」
 英司の言葉にめぐみは顔を上げ、目を輝かせた。
「今の彼女は、どうするの?」
「引退だな」
 ベッドの上で、めぐみは英司のものを掴んでしごき出した。
「こわいわー、私もいずれそうなるのかしら」
「それは、めぐみ次第だな。俺は束縛されるのが嫌なんだ」
 めぐみは悪戯っぽく笑うと、英司のふくろをぎゅっと握った。
「いててて!」
 この女の操作方法を一考しなければならないだろう。英司は笑って許しを乞い、頭の中に考えをめぐらせた。

 時間になったので、英司とめぐみは適当に片付け、マンションの部屋を出た。
 エレベーターに乗る。密室での抱擁。ディープキスは一階に到着するまで続いた。
 ドアが開き、二人は離れた。降りた途端、目の前に女性の姿があった。
 目の覚めるような金髪が外から入ってくる風で見事になびいていた。薄紫のプリントTシャツにデニムのミニスカート、サンダル。瀧本あづさだった。
「英司君」とあづさは、英司の傍らにいるめぐみに全く目を向けることなく、英司に向かって言った。「お別れを言いに来たのよ」
「お別れ?」
 さすがに突然のことで、英司の頭には適当な言葉が浮かばなかった。第一、どうしてあづさがここにいるのだ。
「あなたとのお付き合いは、もうこれっきりということで……。私の前には二度と姿を現さないで」
 あづさは睨むような目を向け、はっきりとそう言った。
「二度と……」と英司はあづさの台詞の一部を復誦しながら、言葉を探した。
 今までにもこういうダブルブッキングを経験したことが何度もあったが、いずれも取るに足りない女同士の話だ。今回のように「彼女」と「新しい彼女」が顔を付き合わせるといった場面はなかった。
「英司君、これが君の彼女なの? こんなヤンキーみたいなのが? 信じられない。趣味悪ーい!」
 横からめぐみが挑発的なことばを吐いた。
 あづさは初めてめぐみを見遣り、すぐに英司に視線を戻した。顔が涙ぐんでいる。
 明らかにめぐみの方が役者が上だった。めぐみに比べれば、あづさは見掛け倒しの普通の女に過ぎない。
「とにかく、私の半径五メートル以内には入ってこないで! お店にも来ないでよ!」
「お店? あなたキャバクラ嬢だったの?」
 その台詞にあづさはきっとなって手を上げたが、その手は振り下ろされることなく、力が抜けたように落ちていった。
 あづさは背を向けて肩を落とし、出て行った。
 めぐみは英司の顔を見上げて、甘えるように言った。
「ねえ、どっちが英司の彼女にふさわしいか、これでわかったでしょう? あんなあばずれ、やめちゃいなさいよ」
「ああ、そうするよ」
 英司はめぐみの肩を抱いて外へ出た。外にあづさの姿はどこにもなかった。
 どうしてあづさがここへ現れたのか、英司は全く見当がつかなかった。あるいは松原があづさに話したのだろうか。お前の彼氏が、俺のマンションに頻繁に出入りして、女といちゃいちゃしているとか言って。しかしそれは考えにくいと英司は思う。松原は裏の顔を持つ男だ。表の顔を出している店の人間に、ここの存在を教えるはずがない。そんなことをしたら大麻を栽培していることも露見してしまう。だとしたらどうしてか。
 英司はまたあづさのことも考えた。
 あの女と別れるのは仕方がないことかもしれない。所詮「彼女」なる存在は一年ともたないのだから。しかしキスやペッティングを経た上で、一度もやらずに終わった女は今まで一人もいないのだ。それが英司のプライドを刺激した。
(まあ、いい。あづさには何とかつくろえば、もう一度チャンスがもらえるだろう。その時は後のことを考えずやってしまうだけだ)
 英司は、あづさに取り入る手筈をいろいろと考えた。
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