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私にできること
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そういえば、そうだ。酸っぱいような、辛いような、不思議な味わい。まさにあの味である。
「どうやって作ったの?」
武子はエプロンのポケットから何かを取り出して見せた。
「それって……」
見覚えのある小瓶に、希美は目をみはる。
「南村さんからいただいた、『みなみかぜ』特製、中華そば用の液体調味料です」
そういえば、調味料にはナンプラーが入っている。独特の風味が、タイ料理を彷彿とさせるのだろう。それにしても、昔好きだったラーメンにそっくりの味である。
「何となく思い付いて、ちょっと加えてみたのですが、ここまで再現されるとは驚きでございます」
「本当。ああ、でもすっごく美味しい」
冷凍ラーメンには"だし"が添付されている。その味と相乗効果をなし、あの味になったようだ。
希美はものも言わず、ラーメンを平らげた。
しばらく忘れていたこの気持ち。
居ながらにして世界を味わうような、壮大な感覚。幸せな気分。
空になったどんぶりをしばし見下ろし、希美は武子と向き合う。
赤ん坊の頃からずっと面倒を見てくれる彼女は、希美が欲するものが何なのか理解している。
そして、一生懸命考えて、工夫して、願いを叶えてくれるのだ。
「ありがとう、武子さん」
「お嬢様」
希美の寂しさと苦しさを、彼女は知っている。両親が夫婦喧嘩するたびに、一緒に遊んでくれたり、美味しいおやつを作ってくれたり、励ましてくれた。
そんな彼女だから、幸せなラーメンが作れるのだ。
「ねえ、武子さん。ノルテフーズの商品は、たくさんのファンに支えられているの。私も大好きよ。おやつがわりに食べて育ったんだもの。それを一生懸命に作って、お客様のもとに届けてくれたのは誰? ノルテフーズで働く人たちだわ」
武子は黙って聞いてくれた。よく見れば髪の生え際に白いものが混じり、北城家のターミネーターと呼ばれる彼女も年を取ったのだと思い知らされる。
いつまでも頼っていてはいけない――
「彼らを全力で守るのが私の仕事よ。会社を継ぐ者として」
壮二の顔が頭に浮かぶが、意思の力で消し去った。
希美は立ち上がり、窓辺へと歩く。見上げれば月はなく、暗い夜空にたくさんの星々が瞬いている。
「私にできること。私にしかできないことを……やり抜くわ」
「どうやって作ったの?」
武子はエプロンのポケットから何かを取り出して見せた。
「それって……」
見覚えのある小瓶に、希美は目をみはる。
「南村さんからいただいた、『みなみかぜ』特製、中華そば用の液体調味料です」
そういえば、調味料にはナンプラーが入っている。独特の風味が、タイ料理を彷彿とさせるのだろう。それにしても、昔好きだったラーメンにそっくりの味である。
「何となく思い付いて、ちょっと加えてみたのですが、ここまで再現されるとは驚きでございます」
「本当。ああ、でもすっごく美味しい」
冷凍ラーメンには"だし"が添付されている。その味と相乗効果をなし、あの味になったようだ。
希美はものも言わず、ラーメンを平らげた。
しばらく忘れていたこの気持ち。
居ながらにして世界を味わうような、壮大な感覚。幸せな気分。
空になったどんぶりをしばし見下ろし、希美は武子と向き合う。
赤ん坊の頃からずっと面倒を見てくれる彼女は、希美が欲するものが何なのか理解している。
そして、一生懸命考えて、工夫して、願いを叶えてくれるのだ。
「ありがとう、武子さん」
「お嬢様」
希美の寂しさと苦しさを、彼女は知っている。両親が夫婦喧嘩するたびに、一緒に遊んでくれたり、美味しいおやつを作ってくれたり、励ましてくれた。
そんな彼女だから、幸せなラーメンが作れるのだ。
「ねえ、武子さん。ノルテフーズの商品は、たくさんのファンに支えられているの。私も大好きよ。おやつがわりに食べて育ったんだもの。それを一生懸命に作って、お客様のもとに届けてくれたのは誰? ノルテフーズで働く人たちだわ」
武子は黙って聞いてくれた。よく見れば髪の生え際に白いものが混じり、北城家のターミネーターと呼ばれる彼女も年を取ったのだと思い知らされる。
いつまでも頼っていてはいけない――
「彼らを全力で守るのが私の仕事よ。会社を継ぐ者として」
壮二の顔が頭に浮かぶが、意思の力で消し去った。
希美は立ち上がり、窓辺へと歩く。見上げれば月はなく、暗い夜空にたくさんの星々が瞬いている。
「私にできること。私にしかできないことを……やり抜くわ」
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