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あり得ない条件
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「条件とはなんだ、一体」
南村社長からの手紙を、利希はその場で開封した。そして、便箋一枚に連ねられた文字を最後のサインまで目で追ったあと、経営会議は中断した。
利希の顔面が突然真っ赤になり、意識を失ったからだ。
利希が運び込まれた病院に壮二が駆け付けたのは夕方だった。
「仕事に区切りがついたので、オフィスを脱けてきました」
「お疲れ様。ここに座って」
個室病棟のデイルームで、希美は彼と向き合う。他には誰もいない。
「グラットンの社長から、手紙を?」
「ええ……それを読んで、なにかショックを受けたみたい」
経営会議でのあらましを話すと、壮二は眉を顰めた。
「何が書いてあったんですか?」
「分からない。社長宛ての手紙だからと甲斐部長が引き取ってしまって。だから、お父様の他に、まだ誰も読んでないの。意識が戻りしだい、どんな内容なのか確認するつもりだけど」
壮二が考え込む。これまで見たことのない、険しい顔つきだった。
「手紙の内容は、社長の血圧を一気に上げるようなこと。慎重に扱うべきでしょう」
「でも、今後の経営に関わることだから、早急に処理しないとまずいわ」
「ダメです。グラットンのやり方はあまりにも強引だ。一方的な言い分など放っておけばいい!」
希美はビクッとする。彼らしくもない強い口調に、必死さが滲んでいた。
「どうしたの、壮二?」
壮二は額に浮かんだ汗を拭い、小さく深呼吸した。
「すみません。グラットンの無礼なやり方に腹が立って……」
「……」
これまでも壮二は、グラットンや南村社長の名前が出るたび微妙な反応をした。やはり、なにか特別な因縁があるように感じる。
だけど、大企業の社長と平凡な会社員の間に、どんな関係があるというのか。
「壮二、あのね。前から気になってたんだけど……」
思いきって訊ねた言葉は、スマートフォンの音に遮られた。病室にいる臼井秘書からだ。
『北城さん、社長の意識が戻りました。南村君と一緒に来てください』
「わ、わかりました」
思わず声がうわずってしまう。ホッとすると同時に、緊張感が全身を駆け抜ける。
「お父様……社長に無理はさせられない。だから、私がしっかりと代わりを務めるわ。ついてきて、壮二」
壮二は頷くと、希美とともに椅子を立つ。
グラットンと彼の関係については曖昧なまま。だけどその疑問は、これからのことでいっぱいになった希美の頭からいつしか消えていた。
「おお、希美。壮二も、心配かけてすまなかったな」
病室に行くと、利希は看護師と麗子に支えられ、ベッドの上に身体を起こしていた。腕に点滴が繋がっている。医師の診察を受けたあとらしい。
「社長、起きて大丈夫なんですか」
希美がベッド脇に近付くと、彼は少し青ざめた顔でうなずく。
「大丈夫だ。ここのところ寝不足だったからな、不覚にも倒れてしまったが大したことはない」
しかし倒れた直接の原因は寝不足ではない。
希美は手紙についてすぐに訊きたかったが、利希の痛々しい様子を見て自重した。
「……臼井君。すまないが、席を外してくれないか。家族だけで話したい」
「はい、社長」
臼井が部屋を出ていき、看護師も利希の姿勢を安定させてから退室した。
壮二は家族の一員として残され、北城家だけの空間となる。
「さて……気が進まないが、話さねばなるまい。会社はもとより家族にも関わることだからな」
手紙のことだ。どんな内容なのか見当もつかないが、利希がこんなふうになってしまうのだから、よほどの"条件"が記されていたに違いない。
希美はごくりと唾を呑み込んだ。
南村社長からの手紙を、利希はその場で開封した。そして、便箋一枚に連ねられた文字を最後のサインまで目で追ったあと、経営会議は中断した。
利希の顔面が突然真っ赤になり、意識を失ったからだ。
利希が運び込まれた病院に壮二が駆け付けたのは夕方だった。
「仕事に区切りがついたので、オフィスを脱けてきました」
「お疲れ様。ここに座って」
個室病棟のデイルームで、希美は彼と向き合う。他には誰もいない。
「グラットンの社長から、手紙を?」
「ええ……それを読んで、なにかショックを受けたみたい」
経営会議でのあらましを話すと、壮二は眉を顰めた。
「何が書いてあったんですか?」
「分からない。社長宛ての手紙だからと甲斐部長が引き取ってしまって。だから、お父様の他に、まだ誰も読んでないの。意識が戻りしだい、どんな内容なのか確認するつもりだけど」
壮二が考え込む。これまで見たことのない、険しい顔つきだった。
「手紙の内容は、社長の血圧を一気に上げるようなこと。慎重に扱うべきでしょう」
「でも、今後の経営に関わることだから、早急に処理しないとまずいわ」
「ダメです。グラットンのやり方はあまりにも強引だ。一方的な言い分など放っておけばいい!」
希美はビクッとする。彼らしくもない強い口調に、必死さが滲んでいた。
「どうしたの、壮二?」
壮二は額に浮かんだ汗を拭い、小さく深呼吸した。
「すみません。グラットンの無礼なやり方に腹が立って……」
「……」
これまでも壮二は、グラットンや南村社長の名前が出るたび微妙な反応をした。やはり、なにか特別な因縁があるように感じる。
だけど、大企業の社長と平凡な会社員の間に、どんな関係があるというのか。
「壮二、あのね。前から気になってたんだけど……」
思いきって訊ねた言葉は、スマートフォンの音に遮られた。病室にいる臼井秘書からだ。
『北城さん、社長の意識が戻りました。南村君と一緒に来てください』
「わ、わかりました」
思わず声がうわずってしまう。ホッとすると同時に、緊張感が全身を駆け抜ける。
「お父様……社長に無理はさせられない。だから、私がしっかりと代わりを務めるわ。ついてきて、壮二」
壮二は頷くと、希美とともに椅子を立つ。
グラットンと彼の関係については曖昧なまま。だけどその疑問は、これからのことでいっぱいになった希美の頭からいつしか消えていた。
「おお、希美。壮二も、心配かけてすまなかったな」
病室に行くと、利希は看護師と麗子に支えられ、ベッドの上に身体を起こしていた。腕に点滴が繋がっている。医師の診察を受けたあとらしい。
「社長、起きて大丈夫なんですか」
希美がベッド脇に近付くと、彼は少し青ざめた顔でうなずく。
「大丈夫だ。ここのところ寝不足だったからな、不覚にも倒れてしまったが大したことはない」
しかし倒れた直接の原因は寝不足ではない。
希美は手紙についてすぐに訊きたかったが、利希の痛々しい様子を見て自重した。
「……臼井君。すまないが、席を外してくれないか。家族だけで話したい」
「はい、社長」
臼井が部屋を出ていき、看護師も利希の姿勢を安定させてから退室した。
壮二は家族の一員として残され、北城家だけの空間となる。
「さて……気が進まないが、話さねばなるまい。会社はもとより家族にも関わることだからな」
手紙のことだ。どんな内容なのか見当もつかないが、利希がこんなふうになってしまうのだから、よほどの"条件"が記されていたに違いない。
希美はごくりと唾を呑み込んだ。
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