夫のつとめ

藤谷 郁

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あなたを守ります

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「お帰りなさい!」
「ただいま、希美さん。おっとと……」

 希美が抱き付いたので、壮二はちょっとよろけた。でもすぐに足を踏ん張り、恋人の体重を全身で受け止める。

「ボディガードのお役目、ご苦労様。完璧だったわよ、壮二」
「そんな、完璧だなんて……」

 壮二は少し申し訳なさそうにする。武子と同じく、希美たちを危険に晒したことを気にしているのだ。

「私とお母様が無事でいられたのは、あなたが助けてくれたおかげだもの。それより、壮二」

 希美がクスクス笑うので、壮二はきょとんとする。

「あなたのメイド姿、素敵だったわよ」
「え? あ、あはは……ありがとうございます」

 壮二は頬を赤くした。今の彼はシャツとデニムに着替え、メイクも落として男性の顔に戻っている。

「ふふっ……あなただと気づかないくらい、見事に変身してたわ。もっとよく見たかったなあ」
「僕は恥ずかしくて仕方なかったですよ。でも、希美さんが見たいと言うなら、また変身しますけど?」

 二人は声を合わせて笑う。彼の屈託のない笑顔が、希美の宝物だった。

「おーい、お前ら、何してるんだ。早くこっちに来い!」

 利希の呼ぶ声が聞こえた。希美は壮二の手を取り、リビングへと連れていく。

(女装しても、壮二は壮二。強くて頼もしい、私の恋人だわ)

 繋いだ手に、彼の『男』を感じていた。



 今夜、壮二は北城家に泊まることになった。
 彼にあてがわれたのは客間である。両親が寝静まった頃、希美が夜中に忍んでいくと快くベッドに入れてくれた。

「疲れてるのに、ごめんなさい。でも、どうしてもあなたと話がしたくて」
「僕もです。それに……」

 壮二は唇を重ね、愛情を伝えてくる。二人きりになって、ようやく温もりを分かち合うことができる喜びに浸った。

「腕枕しますよ」
「うん」

 希美は素直に甘えた。彼の指にはペアリングが光っている。

「細野親子が罠を仕掛けてくると、武子さんは予想していました。僕に託されたのは、その現場を押さえた上で、希美さんと奥様を助け出すという作戦です」

 相手の弱みを握るのは、契約解消によるリスク回避のためだ。向こうに文句は言わせない。

「上手くいくかどうか不安でしたよ。だから、僕は絶対にあなたから目を離さず、見守っていました」
「そうだったの……」

 グラットンの社長と話す間も、壮二は近くにいた。希美を守っていたのだ。
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