夫のつとめ

藤谷 郁

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 どこからか漏れる光が、友光の輪郭を不気味に浮かばせる。彼はゆっくり立ち上がると、ベッドを指さした。

「幸一、希美さんをこちらへ」
「御意」

 幸一に背中を押され、ベッドへ倒れ込んだ。希美はすぐに半身を起こすと、横たわる麗子を庇うようにして、不埒な男どもを睨みつける。

「ふん、気の強いお嬢さんだ。しかし麗子さんに似てとても美しい。幸一の妻となるに相応しい美貌といえよう」

 友光は二人の女を見比べ、満足そうに笑う。

「こんなことをして、ただで済むと思ってるの? あんたたちのこと、全部ぶちまけてやるから!」
「ほう、そうかね。しかし、それはやめておいたほうがいい。これから我々が行うことを世間に晒せば、君自身が困ることになる。例えば、南村壮二とかいう婚約者はどう思うかね」
「な……」

 壮二の名前を出されて、希美は怯んだ。それを見抜いてか、友光はさらに余裕の目で見下ろしてくる。

「これから我々が行うのは、愛の儀式だよ。私は麗子さんと。そして幸一はお嬢さんと……」

 身の毛がよだつとはこのことだ。彼らは一つのベッドで交わろうとしている。

「友光君、やめて……そんなこと、嘘でしょ。冗談にしても、ひどすぎるわ」

 麗子のか細い抗議に、友光は首を横に振る。そして、恨めしげに彼女を見やった。

「麗子さん。あなたは学生時代、私の愛を軽くあしらってくれたね。本気で好きだったのに、どれだけプライドが傷ついたことか」
「ええ?」

 麗子はあ然とした。

「だって、あなたはいろんな女の子を誘ってたわ。本気だなんて、誰が信じるのよ」
「私はすべての女性に対して本気なのだ。とにかく、御曹司である私の誘いを断る女は許せない」

 都合の悪い事実は無視し、身勝手な欲望を肯定する、犯罪者の理屈だ。彼が傷ついたというのは歪んだプライドである。
 そして息子の幸一は、何の疑問も持たず友光に従う。彼にとって父親の言葉は絶対であり、すべて正しいのだろう。

「麗子さんと再会したのは運命だと感じましたよ。しかし、あなたは再会してなお私を侮辱したのだ。この私よりも、あんなつまらない旦那を選ぶとは」

 希美は麗子と目を合わせ、これ以上の問答は無意味だと視線で伝えた。
 この男、頭のネジがぶっとんでいる。

「麗子さん、そして希美さんも……我々のプライドを傷つけた罪は重いですぞ。これから、たっぷりと思い知らせてやろう」

 友光と幸一が迫ってくる。
 希美は恐怖を振り払い、あらん限りの声で叫んだ。

「壮二! 助けてえー!!」
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